
タマヨ エフライン (Efrain Tamayo)
研究開発グループ Sustainability Innovation R&D 環境・エネルギーイノベーションセンタ
エネルギーマネジメント研究部 研究員(Senior Researcher)
2014年日立製作所入社。電力システムの研究に携わったのち、日立ヨーロッパR&Dでサステナブルファイナンスに関する研究開発やImperial College Londonとの共同研究に携わる。現在は、日立東大ラボのメンバーとして、脱炭素化やカーボンニュートラルなどエネルギー関連のテーマに従事。2014年、東京大学大学院工学系研究科より博士(工学)の学位を取得。
誰ひとり取りこぼさない。Just Transition(公正な移行)へのチャレンジ
日立ヨーロッパR&Dへ5年ほど出向し、サステナブルファイナンスプラットフォーム(SFP)の開発やImperial College London(ICL)との共同研究に携わっていた経験を活かして、今は東京大学やICLとの環境分野での連携強化に取り組んでいます。
研究をしているとどうしても技術的な部分ばかりに目が行ってしまい、社会とのつながりを見逃してしまいがちです。社会とのつながりを考えるうえで役立つのが、歴史や哲学といったリベラルアーツ。妻が哲学を専攻している研究者ということもあって、日頃話していて、自分の研究にはもっと幅広い視野が必要だと気づかされることがよくあります。
さまざまな考えを知ることは自分自身にも必要であり面白いと感じて、歴史や哲学に関するポッドキャストもよく聞いています。特によく聞くのはBBCの“In Our Time: Philosophy”。なかでも“Rawls’ Theory of Justice (ジョン・ロールズの正義論)” に関するエピソードは非常に興味深いものでした。ロールズの「政策は最も恵まれない人にとって利益となるものであるべきだ」という趣旨の発言が印象に残っています。いま、サステナブルな社会への移行が進みつつありますが、急激な移行は取りこぼされる人を生み出してしまいます。そうではなく、すべての人がアクセスできる平等な施策を示していく必要があります。私たちのような研究者やエンジニアはもっと、自ら開発した技術やシステムによって、誰がどのような恩恵を受けるのかを考慮しながら取り組んでいく必要があると感じています。
赤ちゃんのミルク、離乳食…日本人の栄養学リテラシーに驚く
初めて日本に来たのは2008年です。南米のコロンビアで生まれ育ち、大学でフランスに留学したのですが、そこからさらに交換留学で東北大学に留学。いままで体験したことのない寒い冬を体験しました(笑)。日本語も十分でなく、レストランのメニューを毎日上からひとつずつ注文し、何が出てくるかドキドキしながら待っていたことを覚えています。
いまは妻と共に2人の子どもを育てています。妻を見ていて驚くのが、日本人の食に対する意識の高さです。子ども用の食材を買うときにはラベルをよく見てどんな成分なのかをよく吟味して買っていますし、売られている離乳食のバラエティも驚異的だと思います。どの時期にどんな栄養の、どんな固さのものを与えたらいいのか、どの食材と組み合わせればいいのか、必要な情報がパウチにみんな書いてありますし、それを妻も気にして買っています。これは日本独特なのではないでしょうか。
市役所でも赤ちゃんの栄養についての指導がありますね。私も、適切な食事バランスを「炭水化物=黄色」「タンパク質=赤」「野菜=緑」と色分けしてポスターになっているのを見て学びました。そもそも、こうした栄養に関する知識がないと、パウチの裏面に書いてあることも分からないはず。栄養に関する教育の充実は、日本の大きな特徴のひとつだと感じます。
子どもの食事に気をつけていると、自然と自分も何を食べているかということに目が向きます。栄養バランスや食事の量を気にするようになりました。食べたいものを食べたいだけ食べていてはだめなんですね(笑)。肉は食べすぎないようにしよう、野菜も食べようなどと意識しながら食事をしています。あと、日本人は体型を維持している人が多い!ミルクや離乳食の頃からあれだけ食事に気を遣って育ってきていれば当然のことかもしれません。健康診断などの制度も充実しているのも特徴的で、健康な国だと感じます。私も長年日本で暮らすうちに、コロンビアに住む同世代の友達との体型の差が出てきました(笑)。
日本食も楽しんでいます。いま美味しいと思うのは日本の家庭料理。ブリ大根などの魚料理は、子どもも喜んで食べています。魚の種類も調理方法も多くて、楽しみが多いと感じます。納豆や刺身も始めの頃は苦手でしたが、食材のクオリティや鮮度の違いなど、少しずつおいしさがわかるようになってきました。

栄養・彩りのバランスも意識しながら、子ども用のご飯も作れるようになってきた。
コロンビアからフランスへ留学していた頃は、まさかその後、長く日本に住むことになるとは思っていませんでした(笑)。フランスへ帰国後、改めて東京大学の博士課程へ進学する直前に東日本大震災が起きました。周りの友達には日本への渡航を心配されましたが、日本は環境のことも住民のこともしっかり対応してくれる国だという信頼感があり、予定通り留学を決めました。
母国からは距離も文化も遠く離れた日本での生活を楽しみながら、世界中の人が平等にアクセスできる環境施策に向けた研究を続けていきたいと思っています。
編集部より

こってりラーメンなどを“背徳の味”と感じていることそのものが、日本の栄養教育や意識の高さが培ってきたものなのかも…!と気づかされたエフラインさんのインタビューでした(笑)。時にはご家族に教えてもらいながら、リベラルアーツを積極的に取り入れたり、異なる文化を楽しんでいるエフラインさんだからこそ、東京大学やICLといったさまざまな機関との連携を推進できているのだと感じました。【編集S 記】