[Vol.1]鉄道のプロの卵たちが見た、街を支える先端技術
[Vol.2]駅はどう変わる?高校生たちが語るローカル線の未来
[Vol.3]プロと市民の協働で駅は守れるか

新しい考え方や技術に触れ、高校生たちは未来の鉄道に何を思っただろうか
保守管理はゲームで学べるか?
沖田:
皆さんがいま学んでいるような鉄道に関するさまざまなナレッジを、ゲームを通じて学ぶことができるのではないかと考えています。皆さんから見てどう感じますか?
鉄道研究部員・Cさん:
そうですね……。駅の業務の中でも、お客さま対応などは生成AIを使ってできる部分もありそうですが、技術的な部分は、整備の部品ひとつとっても種類がたくさんありますし、画面でみるだけでは違いが分からないこともあります。そこはやはり、リアルに手を動かして、身につけていかないと難しいと思うんです。正直いうと、そうした部分をゲームで学ぶのは難しいのではないかと思っています。
鉄道研究部員・Aさん:
現物に触って初めてわかることも多いので、ゲームで学んだ後に、リアルでも学べる仕掛けは必要だと思います。ゲームと実習の両立ができればいいのではないでしょうか。
沖田:
触ってみてわかることをどう扱うかは、研究者の間でも課題になっています。皆さんもやはり、そこが気になるんですね。他にはいかがですか。
鉄道研究部員・Eさん:
ゲームにより技術者を養成できるようになったとして、それが現状の、師匠が弟子に教えていくスタイルに優るものになるのかは疑問です。ゲームならではの楽しさを生かすならば、車両の点検や整備などの仕事の魅力を伝えることを主軸としたらどうでしょうか。運転手や車掌、駅員だけでなく、裏で保守をしている人たちの存在や、そこにものすごい技術や努力があるんだということを、ゲームを通じて教えることができれば、「この仕事がしたい」と憧れをもつ人も増えるんじゃないかと思います。

現実の鉄道保守に関するメタバース空間体験のひとコマ。列車内の様子の再現性に、高校生からは時折歓声が上がった。
鉄道研究部員・Dさん:
今日見せていただいた東武鉄道スペーシアXの実際のCADデータを使ったメタバース空間は本当に精緻でびっくりしたんです。それが鉄道会社の社員教育にも使われていると知って、教育という観点でゲーム的な要素を取り入れることは可能かもしれないと思いました。たとえば、電車の運転シュミレータゲームに整備セットみたいなものを入れて、一つのゲームで運転も整備もできるような仕組みにしたら、面白いと思う人は多そうです。
研究者:
それはまさに、「バーチャル未来の都市」を作ったときに考えたことそのものです。万博をきっかけにバーチャル未来の都市を利用してくださっている何十万の人たちの中に、もしかしたら将来保守の仕事を志す人が出てくるかもしれないと期待しています。自分から飛び込むことはなかなか難しいと思いますが、ゲームをきっかけに興味をもって、手を動かしてみる機会になると嬉しいですね。
丸山:
鉄道研究部顧問の先生方は、こうしたゲームの教育的な側面についてどうお考えですか。
松本先生:
実は本校の生徒も、大半は駅員や乗務員のような身近な存在に憧れて就職を希望しています。一方で、保線やメンテナンスに関しては彼らでも知らないことが多いんです。こういったゲームが保守や整備について知るきっかけになるのは非常にいいことだと思います。生徒たちにもよく話していますが、ワンマン化やドライバーレス化が進んで、必要とされる乗務員の数は今後どんどん減っていくと思われます。一方で、メンテナンス部門がなくなることはありません。こういうゲームを活用して意欲づけをすることで、自分が保線の仕事についてインフラを支えていきたい、と希望する生徒を増やしていくことができるかもしれませんね。

「鉄道の面白さを教えてくれたのは部員。教わる機会があると面白さを感じる人も増えるのでは」と岩倉高等学校 鉄道研究部顧問の松本祐也先生
プロと素人の境界線とは?
沖田:
最初にお話しした通り、私たちは市民が鉄道の保守管理に関わる世界を思い描いています。皆さんは卒業後、鉄道の世界のプロになる人が多いと思うのですが、素人とプロの境界線ってどこにあると思いますか?
鉄道研究部員・Fさん:
一番大きな違いは、意欲だと思います。プロには、新しい知識をアップデートしようとする意欲が常に問われているんじゃないでしょうか。
鉄道研究部員・Cさん:
責任感やプライドだと思います。何かトラブルが起きた時に、責任を問われるかどうかはやはり大きな違いです。また、プロとして確信をもって仕事をされていることで、お客さまと対峙したときにも印象はだいぶ違うのではないでしょうか。
丸山:
市民がマンホールを撮影して、異常発見に役立てるサービスなど、現実に市民が参加できるインフラ保守も少しずつ出はじめています。同じように、たとえば音マニアの人の中には、 モーター音の異変に気づく人もいると思います。そうした市民の声を生かすことはできるでしょうか。それとも、プロにはプロの誇りがあるだけに、なかなか市民の声が届きにくいものでしょうか。
鉄道研究部員・Gさん:
新幹線のパンダグラフの破損を一般の人が見つけて修理につながったというネットニュースを見たことがあります。そうやって市民の声がきっかけとなることはあると思います。スーパーマーケットの「お客さまの声」のような形で、異変の報告を集められるような仕組みがあるといいのではないかと思います。

座談会を進行した丸山・沖田。高校生からのみずみずしい意見に終始笑顔だった。
駅長として一つの駅を任されるとしたら?
丸山:
もし皆さんがある駅の駅長で、ひとりで全ての業務をこなすのが難しいとしたら、業務のうちのどのあたりを他の人に任せることができそうですか。
高校生:
たとえば、駅舎の清掃やゴミ拾いなどは一般の人でもできると思います。一方で、トラブル対応や切符の買い方の案内など、責任が伴うことは自分がやるべきだと思います。
鉄道研究部員・Aさん:
「立ち番」まではいかなくても、ホームの安全を見守り、簡単な声かけをする役割はできるかもしれません。
鉄道研究部員・Hさん:
駅のPRは地域と一体になってやっていくことだと思うので、地元の方々に関わってもらえるといいのではないでしょうか。
丸山:
研究者の皆さんはどう思いますか。
研究者:
道路には、通学時間帯に子どもの登校の安全を見守る学童擁護員がいます。駅にもそういう見守りの人を置いて、そこに市民が参加する可能性はあるのではないかと思っています。
鉄道研究部員・Cさん:
たしかにそうですね。特に大きい駅だと、どこのホームに行けばいいのか迷う人もいるので、その駅をよく使っている地元の人が構内の案内をすることはできそうですね。
丸山:
駅や路線を守る責任をもつ人を置いた上で、プロでなくても担える部分を開放していくことはできそうですね。市民が担うこともあるでしょうし、ロボットや生成AIや、今日見ていただいたような、ナレッジをもったメタバース空間によるサポートもあり得そうです。
今日は、鉄道のプロの卵である皆さんに、鉄道運行の背後にある保守のいまを知っていただくことができて嬉しく思っています。今後もさまざまな技術を積み重ね、皆さんのめざすような鉄道会社の業務に携わる方と連携することで、都市部にある大きい駅も、ローカル駅もよりよくなっていくのではないかという手応えを得ました。その中でも、メタバースを活用した取り組みは始まったばかりです。まずは『バーチャル未来の都市』にログインしていただいて、部活の中でも議論していただけたら嬉しいです。フィードバックを聞きに、ぜひ岩倉高校にもお邪魔させてください。

未来の街、未来の鉄道を担う若者の姿に大きな希望が感じられる
![画像1: [Vol.3]プロと市民の協働で駅は守れるか│鉄道のある街は私たちが守る―高校生と考える未来の都市](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783605/rc/2025/07/25/faeb7c56724c352ceaec134744b90152a28bb433.jpg)
須賀 帝凱
岩倉高等学校 鉄道研究部 部長
鉄道を主とした運輸業界に直結する「運輸科」を有する岩倉高等学校(東京都台東区)。その中でも、鉄道研究部は創部70年を迎える伝統を持ち、部員数は1〜3年生合わせて1 16名。「撮影班」「音鉄班」「乗鉄班」「旅行班」と、興味に応じた班に分かれて活動し、それぞれが鉄道の魅力を多角的に掘り下げている。
![画像2: [Vol.3]プロと市民の協働で駅は守れるか│鉄道のある街は私たちが守る―高校生と考える未来の都市](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783605/rc/2025/07/25/7a4f34b1efe907c19c766a2b09f7a19ef68f5bd5.jpg)
丸山 幸伸
株式会社日立製作所 研究開発グループ Digital Innovation R&D
デザインセンタ 主管デザイン長 兼 未来社会プロジェクト プロジェクトリーダ
武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科教授
日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。
![画像3: [Vol.3]プロと市民の協働で駅は守れるか│鉄道のある街は私たちが守る―高校生と考える未来の都市](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783605/rc/2025/07/25/2220b7bef3b97e8ab335e98a1abf1be395e82cae.jpg)
沖田英樹
日立製作所 研究開発グループ 未来社会プロジェクト サブリーダ
日立製作所入社後、通信・ネットワーク分野のシステムアーキテクチャおよびシステム運用管理技術の研究開発を担当。日立アメリカ出向中はITシステムの統合運用管理、クラウドサービスを研究。2017年から未来投資本部においてセキュリティ分野の新事業企画に従事。2019年から社会イノベーション協創センタにおいてデジタルスマートシティソリューションの研究に従事。同センタ 価値創出プロジェクト プロジェクトリーダ、社会課題協創研究部 部長を経て、現職。
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