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研究開発グループのメンバーが普段の生活で、どのようなことを考え・感じているのか、個々人の注目するモノやコト、それに対する価値観を覗き見るコンテンツ、Che・ke・la・bo(ちぇけらぼ)。今回は、鉄道や産業を中心としたOTシステムのサイバーセキュリティに関する研究開発に従事する辻大輔さんが、イギリス留学中に自ら考案したユニークな英語学習メソッドや、研究アイディアを考えるための小さな秘訣について語ります。
画像1: 自分の可能性を広げる「ひとり時間」|Che・ke・la・bo

辻 大輔
研究開発グループ Digital Innovation R&D モビリティ&オートメーションイノベーションセンタ 自律制御研究部
研究員

2020年日立製作所入社。鉄道や産業を中心としたOTシステムのサイバーセキュリティに関する研究開発に従事。デジタルツインなどの最先端IoT技術とサイバーセキュリティを組み合わせた新分野の技術開発や顧客協創に携わっている。また、海外拠点と連携したグローバル研究活動も積極推進。2020年、名古屋大学より博士(理学)の学位を取得。

「砂」の流れを方程式で表したい

日立に入社後は一貫してサイバーセキュリティの研究をしていますが、大学では地球惑星科学科というところで学んでいました。研究テーマは「砂」。砂の流れを記述する方程式を立てる、という研究でした。水の流れについては流体力学という長い歴史を持つ学問の中で確立された基礎方程式があるのですが、砂の流れは研究の歴史が浅く、基礎方程式がまだ確立されていないと聞いて、興味をもちました。大学院では、室内実験と数値シミュレーションで大量の砂を流してデータを取り、物理的な基礎方程式を立てていく研究をしていました。砂は専門用語で「粒体」とも言いますが、粒体って個体の集まりであると同時に、粒体のような性質を示すので複雑なんです。そのメカニズムを数理モデリングで明らかにしていくプロセスがとても面白かったですね。あと、砂の流れは地滑りや雪崩にも関係していて、防災にも役立てられたら良いなと思って研究していました。

物理には小さい頃から興味を持っていました。エレベーターが上がる瞬間にジャンプするとすぐに床に足がついてしまいますが、下がりはじめた時にジャンプすると、長く空中にいられます。もちろん本当はダメなことなのですが、どのタイミングでジャンプすると一番長く空中にいられるか?と、一人でいるときによく慣性の法則の実験をしていたのを覚えています。高校でニュートンの運動方程式を学び、あのエレベーターでのジャンプも世界中のさまざまな事象も、「F=ma」を基にして綺麗に記述できることを知ったときには感動しました。暗記ものの勉強は苦手なのですが、ものごとの根本を理解できると勉強が楽しく、より知りたいという思いは強くなり、それが研究にも生きていると感じます。

路上でブツブツ…移動時間でひとり英会話学習

博士課程のときに、大学から支援を受けてマンチェスター大学(イギリス)の応用数学科に6か月間留学しました。イギリスに留学してまず衝撃を受けたのが、英語がまったく聞き取れないこと。特にマンチェスターのアクセントはもう全然わからなくて、「このままじゃまずい、何の成果も出せない」と焦りましたね。

時間の制約がある中で英語の勉強をするには?と考えて、自分流の勉強法を編み出しました。住居から学校までの時間を使って、300個の基本構文を練習していくシンプルな練習なのですが、インタビュアーになったつもりで「今日は何があった?」「研究の進捗は?」「この後の予定は?」と自分に質問し、ひたすら自分でブツブツ答えていく「ひとりごと英会話」です。気がつくと普通の会話くらいの音量で独り言をつぶやいていてちょっと怪しまれていたかも(笑)。どう言ったらいいか分からないときは立ち止まって調べることをルールにしました。最初のうちは、15分の道を1時間かけて帰ってくるなんてこともありましたが、毎日続けるうちに、だんだん最後まで立ち止まらずに帰ってこれるようになりました。もちろん、せっかくイギリスにいたのでネイティブの友人と話すことも大事にしていましたが、分からないことを確認してから次に進められるひとりごとスタイルは自分に合っていたと思います。

ここ2、3年は外国籍の人たちと仕事をする機会が増え、英語を使う機会も増えています。オンライン会議の自動文字起こし機能で自分の話した英語が全然認識されない、ということもありますが、あまり気にしていません。職場にはさまざまな出身地の英語話者がいて、発音もさまざま。発音どうこうというよりも、当人同士が互いの言いたいことを理解してやりとりすることや、いいコミュニケーションができる関係性をつくることの方が大事だと思っています。

だから僕たちは、業務外のちょっとした雑談も大切にしています。雑談では、よく日本の文化や歴史について聞かれます。でも僕は高校時代ずっと理系で、苦手な暗記が主となる社会科は、ほとんど勉強してこなかったのであまり知らないんです。そこで、YouTubeならば分かりやすいだろうと思い、歴史チャンネルを見るようになりました。外国籍の仲間はサムライ好きな人が多いので、まずは戦国時代から見始めたのですが、これがなかなか面白いんですよね。YouTubeで得た薄〜い知識を、学習した300個の基本構文を使って話しているわけですが(笑)、専門外だからこそざっくり話せますし、相手も興味をもって聞いてくれているようです。

画像: 雨が降ることの多いマンチェスター。ひとりごと英会話中に濡れることもしばしば…(笑)

雨が降ることの多いマンチェスター。ひとりごと英会話中に濡れることもしばしば…(笑)

電車内での「強制妄想タイム」からアイデアが生まれる

事情があってオフィスからは少し距離があるところに住んでおり、在宅勤務以外の出社時には片道2時間ほどかかります。移動時間は、僕にとって『強制妄想タイム』。頭の中にホワイトボードを描いて、新しい特許の構想や論文の構成を組み立てています。オフィスで腰を据えて考えようとすると目の前のタスクに気を取られてしまいがちですが、電車で立っている時間だと不思議とアイデアがまとまります。考えるぐらいしかできることがない、という状況がいいのかもしれません。最近はそこに生成AIとの対話も加わり、「ここを具体化するには?」「もっと別の角度は?」などとやりとりしているうちに、気づけば2時間ぐらいあっという間に経っています。出社日や出張がある日は「今日はこの移動時間にアイデアを整理しよう」と、会議時間などと同じようにスケジュールとして無意識に組み込んでいるところがありますね。没頭しすぎて、立っているのに降りる駅を通り過ぎてしまうこともあります(笑)。人によっては、移動中は音楽を聴いたりぼんやりしたりする時間かもしれませんが、僕にとっては自由に発想を広げられること自体がリラックスなんですね。英語や歴史を学んだり、研究のアイデアを練ったりと、移動中の妄想時間が充実することで、仕事にもコミュニケーションにもいい循環が生まれていると感じています。

編集部より

画像2: 自分の可能性を広げる「ひとり時間」|Che・ke・la・bo

最近はお子さんと一緒に英語以外の言語にも触れている辻さん。「次はドイツ語とか?」と笑いながら話していましたが、『継続は力なり』を体現されている辻さんだからこそ冗談には聞こえませんでした…。イギリス留学中のアクセントに悩まされたから、という理由で自身の日本語のイントネーションも関西寄りから修正したというエピソードまで話してくださいました。【編集S 記】

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