
「Mirai Theater」の「自分の声と行動を大切にする」という考え方に共感した、とMilli役への応募動機を語る姫野さん
40万人が体験した未来シナリオ
沖田:
今回の「未来の都市」パビリオンは、「Society 5.0(※)を一緒につくるとはどういうことか」を、実際の体験として再現することが大きなテーマでした。そのために、都市の姿だけでなく、そこでの暮らしや意思決定のプロセスまで含めて描いた上で、具体的なソリューションや技術に触れてもらうといった構成を取ったわけですが、そもそもお2人は、この万博が始まる前に「Society 5.0」という言葉を聞いたことがありましたか?
(※) Society 5.0…生成AIやデータを活用し、サイバー空間と現実社会を融合させることで、社会課題の解決と人間中心の暮らしを実現する未来社会構想。情報化を進めたSociety 4.0の先にあるとされる、人のための社会モデル。
田中さん:
私は大学で建築を学んでいるのですが、建築分野において社会の変化をどう捉えるかは重要です。デザインや住環境に関する授業でも、Society 4.0から5.0へと、技術の積み重ねによって社会が少しずつ移行していくという話を聞いていました。今回の万博は大阪での開催ということもあり、先生からは「ぜひ積極的に触れてほしい」と言われていました。実際に万博の展示を体験してみると、ここまで明確にSociety 5.0を意識して設計されているのだということが伝わってきて、これまで頭で理解していた概念が、初めて実感として腑に落ちました。

「建築を学ぶ学生として、大阪・関西万博に関われるチャンスは貴重だった」と応募動機を語る田中さん
姫野さん:
私は、高校の授業で「いまはSociety 4.0から5.0へ移行していく途中にある」という話を聞きました。そのときは、キャリア教育やSDGsと結びついた文脈で紹介されていた記憶があります。特に、個人の意思を大切にするという部分に惹かれていて、Milli役にチャレンジしたのも、一人ひとりの声と行動で未来が変えられるということを伝えたいな、と思ったことがきっかけでした。
沖田:
Society 5.0の社会をいかにつくっていくかを日々考えている立場として、Society 5.0の概念が既に教育の場で取り上げられ、学生の皆さんも学ぶ段階に来ているというのは驚きですね。

姫野さん、田中さんが既にSociety 5.0の概念に親しんでいたことに驚く沖田
スマートフォンで意思表示する世界とは
沖田:
今回の展示を検討する中で、私たちが最も大切にしていたのは、「いかに未来を自分ごととして捉えてもらえるか」ということです。そこで考えたのが、「スマートフォンで未来を変える」という演出でした。
参加者一人ひとりが「Mirai Creator(ミライクリエーター)」として、未来に関する3つの選択肢を、それぞれのスマートフォンで選びます。参加者の選んだ意思が集約され、ステージ上で描かれる未来のシナリオが変化していく、といった仕組みです。スマートフォンは、既に私たちの生活に最も身近なツールのひとつで、将来的にも意思表明の手段として、さらに重要な役割を担っていくのではないかと考えました。
姫野さん:
スマートフォンは、声に出して意思を伝えることが難しい人にとっても使いやすいツールだと思います。一方で、簡単に意見を表明できすぎてしまう点には、今後スマートフォンの役割が大きくなるほど、怖さも感じます。対面の会話では「この言い方だと角が立つかな」などと相手の受け取り方を考えながら言葉を選びますが、スマートフォンを介すると、自分の世界の中で完結したまま意思を伝えてしまい、感情や本音がそのまま表に出てしまう可能性があるのではないでしょうか。
田中さん:
リハーサルの段階で初めてスマートフォンで未来の選択を行ったとき、こんなにスムーズに意思を集めて結果を出せるんだ!とびっくりしたんです。ただ、シアターでの未来の選択は多数決で決まるスタイルです。小さいお子さんが「(自分の選んだ選択肢が)1番じゃない!」と悲しむ場面を多々見ました。Society 5.0がもっと進んだ本物の未来では、投票の割合に応じて折衷案が生まれてくるような形になったらいいなと思っています。
沖田:
今回は意思を汲み取って集計できることを主眼にしたために、選択肢も3つに絞ったシンプルな形にしましたが、折衷案が欲しいというのはおっしゃる通りだと思います。実は、シアターの最後に出てくる未来のイラストには、皆さんが選んだシナリオが少しずつ溶け込んでいるんです。どれか1つの選択肢に絞られるのではなく、さまざまな選択が混ざった未来ができあがっている、ということを表現しました。また、ところどころに浮いているボールの色を皆さんの選択割合に応じて少しずつ変えていくなど、民意が溶け込んでいることを示すグラフィックにしていました。

Mirai Theaterでの1コマ。スマートフォンを介して自分の願う未来を選択、投票できる
参加者と一緒につくっていく感覚
沖田:
今回の舞台は、映像・音響・照明効果、ミラーボールまで含めて(笑)、かなりいろいろ詰め込みました。参加者の選択によってストーリーが変わる、マルチエンディングの仕組みも含めて、「舞台」として見たときにどう感じたのか、率直な感想を聞きたいです。
田中さん:
ストーリーを観客の皆さんに選んでもらうというスタイルは初めての体験でした。結果がすぐに見られるスピード感が楽しかったですね。それと、ステージと客席がとても近くて、様子がよく見えるんです。たとえば、お子さんが「Aー!」と叫んでいても、親御さんはしれっとBを選んでたり(笑)、逆に、子どもにつられてAにしてあげている方もいたり。そういう雰囲気を間近で感じられるのも、すごく楽しかったです。

参加者に未来のシナリオを選んでもらうよう声をかける田中さん
沖田:
私も親御さんが子どもの画面を覗き込んで「どれにした?」と話している場面はよく見かけましたね。目新しさがうまく作用して会話が生まれていたのかなと感じています。
姫野さん:
Milii役を演じていることを話すと「一人芝居?」と聞かれるんですけれど、違うんですよね。スクリーンに出てくる生成AIのキャラクターである、アルファとオメガ、2035年から来た少年TEDくんともリアルに会話している感覚がありました。映像や音響、空間演出も含めて、お客さんとも一緒につくっていく感じはテーマパークに近いのかもしれません。演者の私だけが語る一方通行ではなく、参加者と相互作用している感覚がありました。
沖田:
まさに「市民参加型」であることを大事にしていたので、みんなで未来を選んでいくという体験が生まれていたのならば、私たちとしては大成功です。実際、来場者が増えていくほど、みんなが参加していく感覚がどんどん強まっていきましたね。
姫野さんと田中さんがMilli役としてステージに立った「Mirai Theater」のアーカイブ映像はこちらからご覧いただけます。
”Mirai Theater” Archive ~17人のMilliと選んだテッドの未来~ 大阪・関西万博「未来の都市」より - 日立
youtu.be――スマートフォンを使って未来を選ぶという体験は、来場者一人ひとりにどんな気づきをもたらしたのでしょうか。Vol.2では、Mirai Theaterの現場で見えてきた、世代や立場によって異なる反応、そして「市民が直接選ぶ」ことの難しさと可能性について掘り下げていきます。
![画像1: [Vol.1]Society 5.0の社会を仮想体験する│参加型社会の未来のつくり方](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783605/rc/2026/01/20/4c4dbd0b5dc3ec90032a7fdc07041a236c8742ae.jpg)
姫野 美翔
テアトルアカデミー大阪校
大阪・関西万博「フューチャーライフ万博・未来の都市」内「Mirai Theater」のMC役「Milli」として参画。大学生として教育について学ぶ傍ら、184日間の開催期間中、合計250回以上に及ぶステージに立った。
![画像2: [Vol.1]Society 5.0の社会を仮想体験する│参加型社会の未来のつくり方](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783605/rc/2026/01/20/729cffa3e22a5cbf3de4f217da8af1f81bd9ee9e.jpg)
田中 瑠夏
テアトルアカデミー大阪校
大阪・関西万博「フューチャーライフ万博・未来の都市」内「Mirai Theater」のMC役「Milli」として参画。大学生として建築を学ぶ傍ら、184日間の開催期間中、合計250回以上に及ぶステージに立った。
![画像3: [Vol.1]Society 5.0の社会を仮想体験する│参加型社会の未来のつくり方](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783605/rc/2026/01/20/b639ef5197d2d459d44f61e9d64f6a28a16749c2.jpg)
沖田 英樹
日立製作所 研究開発グループ 未来社会プロジェクト サブリーダ
日立製作所入社後、通信・ネットワーク分野のシステムアーキテクチャおよびシステム運用管理技術の研究開発を担当。日立アメリカ出向中はITシステムの統合運用管理、クラウドサービスを研究。2017年から未来投資本部においてセキュリティ分野の新事業企画に従事。2019年から社会イノベーション協創センタにおいてデジタルスマートシティソリューションの研究に従事。同センタ 価値創出プロジェクト プロジェクトリーダ、社会課題協創研究部 部長を経て、現職。



