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生成AIやデータの活用が進むSociety 5.0では、行政や企業だけでなく、市民一人ひとりが意思決定に関わる「参加型社会」への期待が高まっています。その一方で、価値観の多様化が進む中でどのようにして意見を集め、合意をつくっていくのかといった問いも見えてきています。Vol.2では、大阪・関西万博「未来の都市」の参加型シアター「Mirai Theater」において、来場者が2035年の未来シナリオを前にどのような反応を示したのか、そこから見えてきた合意形成の難しさや可能性について、日立製作所 研究開発グループ 未来社会プロジェクト サブリーダの沖田英樹と、MCの「Milli(ミリ)」役として舞台に立ったテアトルアカデミー大阪校の姫野美翔さん、田中瑠夏さんがそれぞれの立場から語り合います。

[Vol.1]Society 5.0の社会を仮想体験する
[Vol.2] Mirai Theater から見えてきた、市民による合意形成のあり方

画像: 姫野さん、田中さんが舞台で日々接していた参加者の反応について問う沖田

姫野さん、田中さんが舞台で日々接していた参加者の反応について問う沖田

10年後の未来シナリオに対する参加者の反応

田中さん:
Mirai Theaterの参加者の反応を見ていると、ジェネレーションギャップはやはりあるなと感じました。同じワードでも年代で反応が違うんです。特に反応が分かれたのが「3Dプリンタでご飯を作る」というワードで、年齢が上の方は「それって本当に美味しいの?」と戸惑いが強い一方で、若い方は「離れた場所にいる友達とも同じものを食べられるのっていいね」と受け止めていました。中には「アレルギーがあっても食べられるのはいいね」という声もあって、反応が直に聞けるのは興味深い体験でした。

沖田:
それは初耳でした。3Dプリンターの話は、作り手側でもかなり議論が白熱していて、「本当に作れるの?」というところも含めて、私たち自身も揺れていたんです。アレルギーのある人もない人も「同じものを食べたい」という感覚に対して、素直に「いいね」という反応が返ってきたのは、私としてもすごく嬉しいです。

姫野さん:
Milliとして3つの選択肢を伝えるときに、どれかを強調しすぎても、逆に印象に残らなすぎても、選び方に影響が出てしまいます。言い方によって選択を誘導しないよう気をつけました。また、「ここは2035年の異空間なんだ」と最初に感じてもらう空気づくりを大切にしていました。そうしないと入り込めない人がいると思ったんです。とにかくMilliを「未来の不思議な人」と思ってもらうために、自分が一番楽しんで、声を出して盛り上げていこうと思ってやっていました。

沖田:
なるほど。私たちも、扉をくぐった瞬間に「ここは異空間です」と感じてもらうよう、扉の開く音を入れるなどの工夫をしましたが、キャストの皆さんも工夫してくださってたんですね。

画像: 姫野さんは、参加者が自由に意思表示するためにさまざまな工夫を重ねていた

姫野さんは、参加者が自由に意思表示するためにさまざまな工夫を重ねていた

市民が直接選択していく2035年の合意形成とは?

沖田:
3つの未来シナリオを提示して、120人の参加者に選んでもらうというMirai Theaterのスタイルは、未来の民意形成のプロセスを、仮想的にモデル化していたとも言えます。市民が選択していく未来の社会に対しては、どう感じますか。

姫野さん:
ずっと気になっていたのは、多数決で決まることです。「みんなの声で未来をつくる」と言ったときに、自分の声が反映されなかった人がどう感じるかは、考える必要があると思いました。「結果には反映されなくても、自分の声を上げることには意味がある」と感じることができるかどうかが民意形成の鍵になるのではないでしょうか。

田中さん:
Mirai Theaterでは参加者が同じ情報を受け取っていましたが、本物の社会だと、受け取る情報が人によって違いますよね。そういう状態で意思決定していくとなると、「知らないから選べない」ということが起きてしまうのではないかという懸念も感じました。

沖田:
まさにあの場は、情報が統一されていて、みんなが同じ条件で選ぶことができていましたね。逆にいえば、短時間で限られた情報しか与えられないので、「情報が足りなくて選べない」といった反応はなかったですか?

田中さん:
印象的だったのが、「未来を変えないという選択肢はないの?」という声が上がったことです。2035年の人たちは健康にいいけれど味気ないご飯を食べていると聞いて、「それも、いいじゃん。」という方もいました。

沖田:
なるほど。一人ひとりが直接選択していく社会において、変えない自由や、良くないものをあえて選択する自由もある、というのが垣間見れたのかもしれませんね。

画像: 参加者からの想定外の反応も楽しんでいた様子の田中さん

参加者からの想定外の反応も楽しんでいた様子の田中さん

沖田:
もちろん実際の社会での民意形成では、選択肢も時間ももっと必要です。それに加えて、民意形成には大きく2つの条件が必要だと感じています。

1つは、その選択肢がどういうことなのかが分かる十分な情報が与えられていること。ただ単に「便利そう」「良さそう」だけでなく、どんな仕組みで、どのような情報が得られるのか、自分たちが未来を選んでいくからこそ、もっと具体的に知りたいと思うはずですよね。

もう1つは、選んだ先で何が起こるかが見えることです。それぞれの選択がどのような影響を及ぼすのか、多角的な視点で理解していなければ「これで本当にいいんだっけ?」と疑問が残ります。自分たちの選択がどう絡み合い、どんな未来にたどり着くのかを可視化できる未来のシュミレーションが必要だと思っています。

姫野さん:
良い情報だけを鵜呑みにすることなく、メリットだけでなく、デメリットやリスクも考えた上で選ぶためには、疑問に対してきちんと答えてもらえる対話の場があると、大きな安心材料になりそうです。

画像: Milliとしての日々を振り返り、自分自身の変化について語り合う

Milliとしての日々を振り返り、自分自身の変化について語り合う

200回を超えるステージの先で、変わったこと、変わらなかったこと

沖田:
数えてみたら、万博の184日間で、Mirai Theater全体として5,883回ものステージを行っていました。お2人も、それぞれ250回以上のステージを演じていただいたと伺っています。

姫野さん:
ステージを重ねる中で、Mirai Theaterのベースにある「意思を大切にする」という考え方への共感がずっとありました。声を上げ、行動しなければ未来は変わらないんだという思いは、Milli役にチャレンジした動機でもあり、いまも変わっていません。一方で、自分自身の未来や人生に対する向き合い方は、今回の経験で大きく変わりました。

以前は、社会は誰かが動かしてくれるもので、自分は流れに身を任せていれば生きていけると思っていました。でも、それではただ「生きているだけ」になってしまうのではないか、と感じるようになったんです。いまの流れが正しくないと思うなら、自分で別の流れをつくるために声を上げる必要があるし、小さな声や行動であっても、それを一人ひとりが大切にしていくことで、社会は少しずつ変わっていくのではないか、と考えるようになりました。

画像: Milliの存在が、会場全体の雰囲気を自然に盛り上げていた

Milliの存在が、会場全体の雰囲気を自然に盛り上げていた

沖田:そうした声をすくい上げる仕組みや自分ごととして考えられる場として、Mirai Theaterのような場所が必要なんだろうと改めて思います。「意見を出したら反映される」という感覚があるだけで、人は全然違う動きをすると思うんです。田中さんはステージを重ねていくことで自身の変化はありましたか?

田中さん:
始まる前は、未来の選択肢の集計結果がもっと偏ると思っていたんです。やってみると、どのステージでも大きな偏りは起きませんでした。年齢差やジェンダー、国による価値観の違いは確かにあるけれど、「みんな、思っていることは本当にバラバラなんだな」と実感しました。全員が納得する未来なんてきっとないんでしょうけれど、選ばなければ前に進みません。そう考えるようになってから、「選択すること」自体の意味を強く意識するようになりました。すごくシンプルですが、「ちゃんと選挙に行こう」という気持ちが前よりも強くなりました。

沖田:
自分の選択を声に出さずにスマートフォンから回答するので、誰がどの未来を選ぶのかがオープンにならない分、普段は声にならないような思いが出ていたのかもしれませんね。ちなみに、「これはあまり選ばれなさそうだな」と感じた選択肢はありましたか?

姫野さん:
正直、3Dプリンターで作られる食事は、敬遠されると思っていました(笑)。でも、アレルギーの話や、遠く離れている人とも同じものを食べられる、という文脈で選択されていたのは驚きでした。

沖田:
私たち設計側も、回を重ねるごとに「こんなに均等に意見が分かれるんだな」と感じていました。それなりの差はあるんですが、現場の感覚では、どれも同じくらい選ばれている印象がありましたね。特に印象的だったのが、高校生が半分くらいを占めた回です。いまの高校生は環境意識が高いから、環境に配慮した選択肢に偏るだろう、と思っていたら、参加者の6割近くが「ヘルスケアシティ」という食と健康にフォーカスした内容を選んでいたんです。私たちが予想した以上に、みんなそれぞれ自分の考えをもって選んでくれていたんだなと思います。

――数百回にわたるステージを通して見えてきたのは、未来像の多様さと、選ぶことそのものの重みでした。最終回となるVol.3では、キャストとしての視点から万博全体を振り返りながら、生成AIとの向き合い方や、Society 5.0の社会に寄せる期待について語り合います。

画像1: [Vol.2] Mirai Theater から見えてきた、市民による合意形成のあり方│参加型社会の未来のつくり方

姫野 美翔
テアトルアカデミー大阪校

大阪・関西万博「フューチャーライフ万博・未来の都市」内「Mirai Theater」のMC役「Milli」として参画。大学生として教育について学ぶ傍ら、184日間の開催期間中、合計250回以上に及ぶステージに立った。

画像2: [Vol.2] Mirai Theater から見えてきた、市民による合意形成のあり方│参加型社会の未来のつくり方

田中 瑠夏
テアトルアカデミー大阪校

大阪・関西万博「フューチャーライフ万博・未来の都市」内「Mirai Theater」のMC役「Milli」として参画。大学生として建築を学ぶ傍ら、184日間の開催期間中、合計250回以上に及ぶステージに立った。

画像3: [Vol.2] Mirai Theater から見えてきた、市民による合意形成のあり方│参加型社会の未来のつくり方

沖田 英樹
日立製作所 研究開発グループ 未来社会プロジェクト サブリーダ

日立製作所入社後、通信・ネットワーク分野のシステムアーキテクチャおよびシステム運用管理技術の研究開発を担当。日立アメリカ出向中はITシステムの統合運用管理、クラウドサービスを研究。2017年から未来投資本部においてセキュリティ分野の新事業企画に従事。2019年から社会イノベーション協創センタにおいてデジタルスマートシティソリューションの研究に従事。同センタ 価値創出プロジェクト プロジェクトリーダ、社会課題協創研究部 部長を経て、現職。

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