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研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値について、一橋ビジネススクールで教鞭をとる一橋大学大学院経営管理研究科教授の西野和美さん、上原渉さんをゲストに迎え、研究開発グループのシステムイノベーションセンタ長 谷繁幸、デザインセンタ長の助口聡、そして実際に一橋大学のビジネススクールで学んだ経験を持つ研究員の竹上栄三郎、デザイナーの坂東淳子の6人が意見を交わします。それぞれの立場から、研究やデザインに経営視点を取り入れることで広がる可能性や得られる知見について、その実感も交えながら語りあいます。

MBA取得を支援する日立の制度とは

助口:
私たちの組織には、MBAを取得したいという社員を対象とした支援制度があります。顧客協創に関わる事業をしている部署を中心に、条件を満たせば一定の学費の支援が受けられるというものです。

竹上:
もともと、研究所には博士号を取るための支援制度があったんです。2015年、研究開発体制の再編があり、デザイン部門と研究部門を統合することで新たなソリューションを協創するフロント組織として社会イノベーション協創センタが生まれ、「博士号と同様にMBAの取得支援をしよう」となったのがMBA取得支援制度の生い立ちだと聞いています。研究やデザインの成果を事業化するにあたり、経営学の知見を活かせるのではないかという考えですね。

画像: 対話は一橋大学国立キャンパスで行われた

対話は一橋大学国立キャンパスで行われた

助口:
日立のデザインセンタは、1957年に家電事業部の意匠研究所としてスタートしました。当初は、家電製品や産業機器といったハードウェアのデザインが中心でしたが、日立の事業領域拡大に伴って活動内容が情報やサービスといった領域にも広がりました。2010年代からは、事業創生や顧客との協創プロジェクトにデザイナーが参加し、価値起点かつ人間中心のアイデアを提案する機会が増えました。

このような流れを受け、デザイナーとサービス工学系の研究者が一緒になって協創をリードできるように組織されたのが、社会イノベーション協創センタでした。デザイナーもデザイン思考を用いて顧客の困りごとや社会の要請を探索し、サービスアイデアや事業構想を提案することが求められるなかで、経営的な言葉の使い方や財務的な視点を知ることが必要になっていきました。そうした背景から、デザイナーがMBAを取得するニーズが生まれたというわけです。

画像: デザイナーと経営学の親和性について話す、研究開発グループ デザインセンタ長の助口聡

デザイナーと経営学の親和性について話す、研究開発グループ デザインセンタ長の助口聡

谷:
日立製作所は社会システムに根差したモノづくりをしています。ITインフラや装置制御だけを考えていれば良いわけではなく、お客さまである企業を理解することが研究にとって非常に重要。そのため、社会科学的な領域の研究者と多く議論してきた経緯があります。

たとえば、企業がITシステムや機器、インフラなどを導入する際は、それによって業務内容がどう変わっていくのかというビジネスプロセスモデルを描くことが重要になってきます。つまりITシステムだけではなく、ビジネスシステムも研究開発の対象なのです。そのため、研究者にとっても経営学で学ぶ知識が非常に重要だととらえています。

画像: 研究開発グループ システムイノベーションセンタ長の谷。

研究開発グループ システムイノベーションセンタ長の谷。

技術系の人財が経営学の知識をつける意義

西野さん:
企業の技術系の方が経営学を学ぶことの重要性は、1990年代のバブル崩壊後、日本の製造業がいかに生き残っていくかを考えるなかで着目されました。そうして2003~2004年ぐらいから、大学院で技術経営(Management of Technology、MOT)を学ぼうという気運が出てきました。MOTは、ひとことで言えば「技術を軸として経営を考える」という話です。

最初はチーフテクノロジーオフィサー、つまり、企業の技術系のトップとして意思決定をしていくために、技術のことだけではなく、経営のことを知らねばならないというところが大きかったんですね。一般的に製造業の人員構成は、事務系と技術系の割合が2:8から3:7ぐらいで技術系のほうが多いのに、役員構成になると逆転するわけです。そうなってくると、研究開発の現場の声や中長期的な技術など、研究サイドの知見を経営サイドに取り入れにくくなっていきますよね。

本来、企業の経営には中長期的な成長や発展のための施策が必要ですが、研究開発というものはものすごく不確実性が高い。そのため、四半期ごとの決算のような短期的な見方をする場合は、ついその費用を下げたくなるわけです。もちろん、完全な無駄であるとか、不必要とだとは思われていませんが、財務を中心に経営を考えてしまうと、一番削ってしまいがちなのが研究開発分野です。

画像: 一橋大学大学院経営管理研究科 教授の西野さん

一橋大学大学院経営管理研究科 教授の西野さん

だから、きちんと技術的な知見のある人が経営の意思決定の現場にいるべきなのです。そうしないと会社の技術力や中長期的な競争力が育たない、企業の成功や成長につながっていかないという考えが出てきて、技術者が経営を学ぶことが重要だと考えられるようになりました。

技術はそれ単体では成立し得ず、システムがあってはじめて成立します。さらに、それらが社会のシステムとなっていくので、ある社会システムをもっと発展させるためには、その構成要素であるシステムをどう高めるか、そのなかで当社は何に力を入れていくのか、そのためにどんな技術の開発をするかといった適切な意思決定は、技術への知見が深い方が担うことが本来は望ましいわけです。だから、技術系の人が経営を学ぶのは、実は会社の競争力を上げたり、大きな社会システムの発展へとつながったりする大変重要なことなんですよね。

谷:
今、まさに悩んでいるのは、西野先生がおっしゃられたように、「その技術を開発することにどういう意味があるの?」という問いかけがたくさんあることです。研究者は技術的な意味はいくらでも説明できますが、お客さまや事業部門など別の視点や価値観を持っている相手をどう説得すべきか正直よくわかっていないことが多いです。なので、僕らが説明する相手方の視点を持たねばならないのかなと思っています。

上原さん:
研究開発部とマーケティング部の関係では、昔はモノやサービスが売れなかったときにどっちが悪いか責任のなすり合いになっていたので、仲が良くないと思われていたんですよね(笑)。でも当然、お互いのコミュニケーションが密なほうが事業の最終的なパフォーマンスが高いことは知られていました。その際、事業部側がどういうものをほしがっているのか、どういうニーズがあるのかということを、対話を通して理解しなくてはならない。研究者やデザイナーが経営学を学ぶということは、そのために経営サイドの言葉の獲得をするということなんですよ。

もちろん、事業部門の方も技術のことを学ぶべきではありますが、ひとつの近道として、研究者が経営の言葉や考え方を学ばれると、円滑なコミュニケーションにつながっていくと思います。

画像: 一橋大学大学院経営管理研究科 教授の上原さん

一橋大学大学院経営管理研究科 教授の上原さん

西野さん:
大学の研究者は公益的なことを考えていればいいですが、企業の研究者は会社の利益と発展を考えなければなりません。経営を学ぶと、企業の経営に研究をどうリンクさせるかが明確になり、会社がめざすべき方向のなかで、その技術開発にいかに取り組むべきかという判断基準がクリアになります。だから、チーフテクノロジーオフィサーとまでは言わなくても、研究開発部門のマネージャが技術を選択したり、より的確な指示を下したりできるようになるために、経営の知識が有効なんです。

助口:
デザイナーの視点から言うと、昔はデザインする対象がものすごくわかりやすかったんですよね。「このアイテムの次年度モデルをデザインしてください」みたいな世界だった。けれど、今は「何をデザインするか」から考えないといけなくなっています。「新しいライフスタイルや、新しい商流に合った新しい製品をデザインしてください」というふうになっている。具体的な製品像がないので、どんなものをデザインすべきか、どんなものを開発するべきか、というところから一緒に考えていくわけです。

そして、それをデザインして終わりじゃなくて、どういうふうに世の中に届けていくか、プロモーションしていくかというところにも取り組まないといけない。

こんなふうに、プロダクトのデザインであっても、サービスのデザインであっても、企画構想の段階から社会実装まで、今まで以上に幅広い工程をわかっていないと提案ができません。だからこそ、経営知識を学んだ研究者やデザイナーのはデザイン部門にとっての強みになるのだろうと思います。

西野さん:
経営幹部から見ると、「社会全体のシステムのなかで、我が社はどこからどこまでを担うべきか」という範囲設定が必要になります。他社に比べて差別化ができる点や比較優位な技術を冷静に捉え、何でも自社ができるわけではないという判断も必要になります。

ただ、その範囲から外れた領域を簡単にやめていいのかという問題もありますよね。会社で取り組まなくなると、外部の技術やコストなどを評価するノウハウがなくなるという深刻な問題が起きるからです。そのため、正しく評価するための最低限の技術は持っておく必要がある。そういうふうに研究開発の目的をシフトすれば、続ける方策もあるし、社内外への説得に選択肢が生まれます。

こうしたことを俯瞰するのが技術系部門のマネージャーの役割ですが、どこまでを自社の研究者に任せるのか、何のために研究するのかを伝えることも重要です。経営がわかるようになると、そうした判断がより適切にできるようになるでしょう。

事業化においても、自社の強みや技術レベルを踏まえたうえで、市場を獲得するにはどうしたらいいのか、自社の利益を上げていくときにどういった方策が有効なのかといった視点が加わります。研究開発の現場の人がそうした経営学的な見方ができるようになると、より具体的な施策が立てやすくなりますし、反対に経営幹部に取り組みの正当性を伝えやすくなっていくと思います。

――次回は実際に経営学を学んだ研究者やデザイナーの想いを深堀りしていきます。

画像1: [Vol.1]事業の目線を身につける|研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値

西野 和美
一橋大学大学院 経営管理研究科 (一橋ビジネススクール) 経営管理専攻 教授

化学メーカー勤務を経て、2001年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位修得退学。2002年一橋大学博士(商学)。東京理科大学講師、准教授を経て、2017年より現職。技術を軸とした経営のあり方に関心をもち、現場に足を運び、関係者から聞き取りを重ねて作成する事例研究を中心に、定性的な調査研究を行っている。

画像2: [Vol.1]事業の目線を身につける|研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値

上原 渉
一橋大学大学院 経営管理研究科 (一橋ビジネススクール) 経営管理専攻 教授

2008年 一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。武蔵野大学政治経済学部専任講師を経て、2011年より現職。日本企業のマーケティング組織や海外市場におけるマーケティング戦略、消費者行動の国際比較などの研究を行っている。

画像3: [Vol.1]事業の目線を身につける|研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値

谷 繁幸
日立製作所 研究開発グループ
Digital Innovation R&D システムイノベーションセンタ センタ長

1996年 東京工業大学大学院 総合理工学研究科修士課程修了。同年(株)日立製作所システム開発研究所に入社。2014年大阪大学大学院 情報科学研究科学位取得(情報科学)。IT投資リスク管理や機器提供サービスリスク管理に関する研究に従事し、2023年より現職。

画像4: [Vol.1]事業の目線を身につける|研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値

助口 聡
日立製作所 研究開発グループ
Digital Innovation R&D デザインセンタ センタ長

食品パッケージ業界、オーディオ業界でのキャリアを経て、2008年に日立製作所に入社。情報機器や家電製品のプロダクトデザインを担当後、2016年から3年間、英国にて高速鉄道車両のコンセプトデザイン開発に従事。帰国後は生活家電のデザイン開発をとりまとめた後、プロダクトデザイン部部長を経て、2025年10月より現職。

画像5: [Vol.1]事業の目線を身につける|研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値

竹上 栄三郎
日立製作所 研究開発グループ
Digital Innovation R&D システムイノベーションセンタ ビジネスアーキテクチャ研究部 リーダ主任研究員

日立製作所に入社後、公共分野のITシステム開発、金融分野・電力分野・ITプラットフォーム分野ソリューションの人間中心設計・デザイン思考の実践研究などを担当。現在は産業デジタル分野におけるビジネスアーキテクチャの研究、0→1フェーズのプロダクトマネジメントに従事。2022年3月に一橋大学大学院 経営管理研究科(一橋ビジネススクール)経営管理専攻 経営管理プログラムを修了し、MBAを取得。

画像6: [Vol.1]事業の目線を身につける|研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値

坂東 淳子
日立製作所 研究開発グループ
Digital Innovation R&D デザインセンタ ストラテジックデザイン部 主任デザイナー

学生時代に建築・都市分野を学び、日立製作所に入社。モビリティ、エネルギー等の分野でのUI/UXデザインや、顧客協創方法論研究に従事。研究者や社外関係者との協創を通し、建築、デザイン、情報のハブ役としてモビリティやスマートシティ分野でのデジタルサービス創出に向けた活動を推進するなかで、経営的な視点の必要性を痛感。2026年3月に一橋大学大学院 経営管理研究科(一橋ビジネススクール)経営管理専攻 経営管理プログラムを修了し、MBAを取得。

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