Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
AIをはじめとする技術の進化によって、設計や製造、意思決定のスピードは加速しています。一方で、資源循環や自然共生を実現するためには、ものを長く使い続けることや、使い終わったその先まで見据えた発想が欠かせません。速さが価値となる時代に、私たちは「時間が育てる価値」をどのようにデザインしていけばよいのでしょうか。大阪・関西万博で世界最大の生分解性3Dプリント建築「森になる建築」を手がけた竹中工務店の山崎篤史さんを迎え、日立製作所 研究開発グループの松田匠をナビゲーターに、デザインセンタの伴真秀、小西正太、八木あすか、人財統括本部 研究開発人事総務本部の吉田政市が座談会に参加。Vol.1では、建築と家電に共通する循環設計の課題や、ものの「終わり」まで含めたデザインの重要性について語り合います。
画像: 2025年の大阪・関西万博会場の「森になる建築」を手がけた山崎さんが思いを語る

2025年の大阪・関西万博会場の「森になる建築」を手がけた山崎さんが思いを語る

「森になる建築」が問いかける未来

松田:
2025年の大阪・関西万博会場内に竹中工務店が休憩所として提供した「森になる建築」は、植物由来の生分解性樹脂と3Dプリンターで作られた循環型の建築として話題を呼びました。山崎さんが「森になる建築」の設計を手がけた経緯を教えてください。

山崎さん:
建築家としての私の原体験は阪神・淡路大震災なんです。

建築やインフラが壊れて、大量の瓦礫になったのを目の当たりにしただけでなく、以前とは違う姿にそれらが復興していったのを見たことが、建築を考える上での根幹になっています。

その後、建築の設計が仕事になり、一生懸命仕事をしている中で、2018年に北京オリンピックの競技場などが開催から10年足らずで使われなくなって荒廃した姿を見たとき、「建築はなぜゴミになるんだろう」と改めて考え始めました。建築には鉄筋コンクリート造が47年、木造が22年など、法定耐用年数という税務上の減価償却を計算するための使用期間の目安がありますが、実際にはその耐用年数を迎える前に壊される建物も少なくありません。一方で、法隆寺のように何百年も人の手で手入れされながら使われ続けている木造建築もあったりします。早稲田大学名誉教授の小松幸夫先生の調査などから、鉄骨造より木造の方が長く使われている実態も見えてきています。そう考えると、建物の寿命は構造だけで決まるものではなく、人が手をかけ続けたいと思えるかどうか、つまり「愛着」によっても決まるんじゃないかと思ったんです。

画像: 法隆寺も人が手をかけ続けたからこそ残ってきた、と山崎さん

法隆寺も人が手をかけ続けたからこそ残ってきた、と山崎さん

その考え方を形にしたのが、大阪・関西万博の「森になる建築」です。いまの建築は、性能を最大化するために断熱材を吹き付けたり、いろいろな材料を金物や接着剤で一体化したりしています。だから、いざ解体しようとしても素材ごとに分けることが難しく、結局はぐしゃっと壊して捨てるしかないものもあります。一方で、たとえば動物の巣はシンプルな材料でできているので、役目を終えれば放置していても自然に還っていきます。そこからヒントをもらって、「森になる建築」を考えました。自然に還る性質を持つ植物由来の生分解性樹脂を使って3Dプリントで建物を作り、外装には手漉きの和紙を使いました。和紙には植物の種をすき込んでいるので、時間が経つと芽が出てくる仕掛けです。

画像: 山崎さんは、建築が森になるまでの過程を「つくる・つかう・もりになる」の9つの段階に整理した 出典:竹中工務店設計部のWebサイトより www.takenaka.co.jp

山崎さんは、建築が森になるまでの過程を「つくる・つかう・もりになる」の9つの段階に整理した

出典:竹中工務店設計部のWebサイトより
www.takenaka.co.jp

設計にあたっては、「つくる」で終わりではなく、「つかう」、「森になる」という、万博開催期間が過ぎた後も含めた長い時間軸で考えることを意識しました。完成した瞬間をゴールにしてしまうと、新築の状態が一番価値が高くて、傷や汚れはマイナスになってしまいます。でも、この建築は紙が破れたり、植物が芽吹いたり、その緑に昆虫が集まったりと、変化していくこと自体を受け入れられるように設計しました。

画像: 万博閉幕後、「森になる建築」は兵庫県川西市にある竹中工務店研修所「清和台の森」へ移設された

万博閉幕後、「森になる建築」は兵庫県川西市にある竹中工務店研修所「清和台の森」へ移設された

「終わり」にかかる時間まで設計する

山崎さん:
ただし、「つくる・つかう・森になる」という3つのプロセスにかかる時間は、均等ではありません。「森になる建築」の「つくる」期間は、開発期間まで含めれば約4年、実際の施工だけでも約3か月かかっています。それに対して、万博会場で「つかう」期間はわずか半年。一方で、その先にある「森になる」までには、「つくる」「つかう」とは比較にならないほど長い時間がかかるんです。

現代の建築では、この最後の時間を最も価値のない時間だと考え、それを短くするために、建物を一気に壊し、燃やしたり捨てたりすることが当たり前になっています。万博でも「半年間持てばいい」という発想でつくられた建物が少なくありませんでした。一方で、私の知る限りでもドイツ館やオランダ館、ルクセンブルク館では、会期後の解体時に建物を一気に壊すのではなく、部材を一つひとつきれいに外していました。彼らは、解体を単なる「廃棄」のための作業ではなく、その先の再利用まで見据えたプロセスとして捉えていたんです。

息の長いプロダクトだからこそ、先を見据えたデザインを

松田:
私たちは、建築のような一点ものではなく、均質な製品を大量につくり、届けることを前提としたものづくりをしていることが多く、正直なところ、山崎さんのように使われた後まで含めてストーリーを描き切れているかというと、まだ十分ではない気がします。もちろんできる限りのことは考えるのですが、ここまでしっかり「面倒を見切る」という思想でものづくりをできていたのだろうかと思いました。

山崎さん:
日立さんのような技術の最先端を行く会社と異なり、建築は革新的な技術更新が起こりにくい分野です。だからこそ「新しいものが一番良い」という価値観を変えていくべきだと思っています。長く使うものなのに、作ったばかりの新しいときがいちばん良くて、あとは価値が減っていくばかりだとつらいですよね。

建築の場合は、基本的には今あるものを使い続けるほうが、確実に環境負荷は小さいと思うんです。一方で、機械のように日進月歩の分野はそういうわけにもいきません。そういう場合はどう考えればいいんでしょうね。

画像: 長期の使用を前提とした鉄道車両について語る伴

長期の使用を前提とした鉄道車両について語る伴

伴:
私のチームで担当している鉄道は、少し建築に近いところがあると思います。どちらも耐用年数が長くて、メンテナンスをしながら長く使い続けるものですよね。もちろん動く、動かないという違いはありますが、人が滞在する空間という意味でも共通しているのではないかと思います。

鉄道車両では、たとえばあとから最新のセンサーを取り付けて車両の状態を把握し、不具合が起きる前にその予兆を捉えることで、車両をより長く、良い状態で使い続けられるようにするといった取り組みもあります。このように、日進月歩の技術によって新しいモノにどんどん置き換わるだけでなく、最新の技術が既存のものの価値を維持することに貢献することもあるという点がとても興味深いと思っています。そのように延命された車両が沿線住民の愛着を育み、「新しいものがいちばん良い」という価値観を緩やかに変えていくことにつながったら素敵だなと思います。

山崎さん:
私は、古い車体のままで丸目のライトだけをLEDに替えたような車両が好きなんですよね。あんなふうに、大事にしながらも一部を更新して使っているって、なんだかいいなと思います。

伴:
そうですよね、最近では、我々が担当するデザインの中にも既存の製品をリニューアルするというプロジェクトがありました。素材や部品の耐久性だけでなくデザインまで含め、良いものは残しながら、変えるべきところには新しい技術を取り入れていく、そこに新たな良さや価値を見いだしていきたいと思っています。

冒頭お話しくださった、北京オリンピック競技場の「その後の姿」のお話も、まさに自分たちにも重なる話でした。より良い社会をめざして構築したインフラがその先でどうなっていくのか、そこまで見据えてものづくりができていたのか、と改めて考えさせられました。私たちも価値観をアップデートして、これからどうしていくべきかを考えていく必要がありそうです。

画像: 必要なところだけ新しくしながら長く使い続ける良さを語る山崎さん

必要なところだけ新しくしながら長く使い続ける良さを語る山崎さん

建築も家電も同じ課題を抱えている

伴:
私はサーキュラーエコノミーに関する研究にデザイナーとして関わっていますが、家電のように耐用年数が短いものについても、「新しいものが一番良い」という価値観を変えていこうとする動きが少しずつ出てきていると感じます。

たとえば、日立は2022年に本体や付属品に再生プラスチックを40%以上使用したスティッククリーナーを開発しましたが、その際には、再生材を使うことに加え、「このクリーナーを使いたい」と思っていただける魅力や美しさをどう両立させるかも追求しました。また、使い終わったあとに、再資源化できるものは再資源化できるよう、素材ごとに分解しやすい設計を支える技術、AIを活用したものづくりを支える技術の研究も進めています。日立の製品全体で見ればまだまだ一部の取り組みですが、こういう動きをもっと深めていきたいと考えています。

山崎さん:
靴も、本体は布、ソールはゴムというように異なる素材が使われているため、リサイクルするにはできるだけ素材を統一したり、分離しやすくしたりする必要があります。アシックスさんのNIMBUS MIRAIという製品は、回収した後、再利用しやすいようにできるだけ素材を統一し、それでも素材を統一できない部分については、加熱するとはがれる接着剤を開発して使用しているそうです。こうした取り組みには分野をまたいで協力し合うことも重要になりそうですね。

――資源循環や自然共生を考える上で、ものだけでなく、人の側には何が必要なのでしょうか。次回は、人が愛着を抱くデザインのあり方について語り合います。

画像1: [Vol.1]「捨てる前提」を変えるものづくり│「森になる建築」山崎篤史さんと考える、循環する建築と社会インフラのつくりかた

山崎 篤史
竹中工務店 大阪本店設計部
シニアチーフアーキテクト

1982年生まれ。2005年神戸大学工学部建設学科卒業。2007年、同大学大学院修士課程修了、竹中工務店入社。2024年解体・新築予定だった建物を再生した「大阪避雷針工業 神戸営業所」を手がける。2025年の大阪・関西万博では、休憩所として出展した「森になる建築」を設計。「生分解性樹脂を構造材として一体造形した世界最大の3Dプリント建築」として、ギネス世界記録™に認定された。

画像2: [Vol.1]「捨てる前提」を変えるものづくり│「森になる建築」山崎篤史さんと考える、循環する建築と社会インフラのつくりかた

松田 匠
研究開発グループ Digital Innovation R&D デザインセンタ デザインプロモーション室
室長

日立製作所入社後、生活家電のプロダクトデザイン、金融・公共分野のUI/UXデザインを担当。協創方法論「NEXPERIENCE」の研究開発・人財育成や、国内外での新事業創生に向けたビジョンデザイン研究を推進したのち、2021年より日立ヨーロッパR&Dデザインラボにて電力分野などの先行デザイン研究をリード。帰国後はデザイン戦略立案と新興技術の価値発信を担い、2026年より現職。

画像3: [Vol.1]「捨てる前提」を変えるものづくり│「森になる建築」山崎篤史さんと考える、循環する建築と社会インフラのつくりかた

伴 真秀
研究開発グループ Digital Innovation R&D デザインセンタ UXデザイン部
リーダ主任デザイナー

日立製作所入社後、コーポレートWebブランディング、建設機械・IT運用管理システムのインタラクションデザインを担当。2011年から日立アメリカR&Dデザインラボに勤務。2015年からは、家電、ロボット・AI領域の将来ビジョンや地域活性に関するサービスデザインを担当。企画部門を経て、現在はモビリティ・エナジー領域に関するデザインチームを率いる傍ら、サーキュラーエコノミーに関するサービスデザイン研究に従事。

画像4: [Vol.1]「捨てる前提」を変えるものづくり│「森になる建築」山崎篤史さんと考える、循環する建築と社会インフラのつくりかた

小西 正太
研究開発グループ Digital Innovation R&D デザインセンタ UUXデザイン部
デザイナー

2021年に株式会社日立製作所に入社。家電領域における新規事業創出、EV・グリーンモビリティに関するUI/UX/プロダクトデザイン、参加型社会を実現するためのデザインアプローチに関する研究に従事。現在は、データセンターに関するコミュニケーションデザインなどに携わる。

画像5: [Vol.1]「捨てる前提」を変えるものづくり│「森になる建築」山崎篤史さんと考える、循環する建築と社会インフラのつくりかた

八木 あすか
研究開発グループ Digital Innovation R&D デザインセンタ UXデザイン部
企画員

2023年に日立製作所に入社し、主にヘルスケア分野のUI/UXデザインに従事。また、2025年からは、国分寺サイトの自然環境を次世代に引き継ぐための「100年続く未来プロジェクト」にも参画し、コンテンツ制作などに携わる。

画像6: [Vol.1]「捨てる前提」を変えるものづくり│「森になる建築」山崎篤史さんと考える、循環する建築と社会インフラのつくりかた

吉田 政市
人財統括本部 研究開発人事総務本部 総務部 国分寺・鳩山庶務ユニット
リーダ部長代理

1987年に日立製作所 中央研究所(現 研究開発グループ)に入社。事業部や支社で総務業務を経験した後、2025年4月に研究開発グループ 国分寺サイトへ赴任。現在は「100年続く未来プロジェクト」の事務局を担当している。

This article is a sponsored article by
''.