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多摩美術大学情報デザイン学科情報デザインコースの3年次演習「サービスデザイン」では、企業との産学共同研究に取り組んでいます。2019年、2020年は、日立グループがそのパートナーとなり、「トラスト(信用・信頼)」をテーマに取り組んできました。Vol.1では、日本で少しずつ広がりはじめているトラストという概念をテーマとした経緯を、研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長の丸山幸伸が、演習の指導教員である吉橋准教授にお話を伺いました。

[Vol.1]トラストの時代に、デザイナーはなにをするべきか
[Vol.2]学生たちがイメージするトラストとは
[Vol.3]時代によって、トラストのあり方が変わっていく

画像: トラストが一般化する時代にデザイナーがすべきことは何か?

トラストが一般化する時代にデザイナーがすべきことは何か?

トラストのデータが流通する時代において、デザイナーは何をするべきか

丸山:
吉橋先生は、多摩美術大学情報デザイン学科情報デザインコースの3年次演習として、企業との産学共同研究に取り組んでいらっしゃいます。その中で、「日立のビジョンデザインでやっていたトラストのサービスデザインを、学生と一緒にやってみませんか?」というお誘いをいただき、2019年、2020年にご一緒させていただく機会がありました。2年間の共同研究を終えて、改めて今回の取り組みを振り返ってみたいと思います。まず最初に、演習のテーマとしてトラストを選ばれた経緯をお聞かせください。

吉橋さん:
多摩美術大学(多摩美)には中国人留学生がたくさんいるのですが、留学生との会話もこのテーマを授業で取り上げるヒントの一つになりました。ご存じのとおり、中国では「デジタル情報社会」の先頭を走っています。

丸山:
一人ひとりにIDが与えられ、行動をカメラに映し出されることに「守られている」と感じるか「個人情報を侵害されている」ととるか。トラストに対する考え方やシステムの普及状況によって受け取り方は異なりますね。

吉橋さん:
日本で同様の信用スコアの活用が広がるかはさておき、これは未来の姿の一つだと感じました。「そうした時代が到来した時にデザイナーとして何ができるか」、「信用や信頼というテーマを提示した時に、学生たちはどのように取り組むだろうか」という興味がわき、授業に取り入れることを考えました。

情報デザイン学科の学生たちは、可視化できないものをデザインしている

丸山:
正直に言うと、お話をいただいた当初は驚いたんです。トラスト自体がビジネスワードとして立ち上がったばかりで、現在進行形でさまざまな概念が誕生しています。このような状況の中で、日常的に信用や信頼になじみが薄いと思われる学生にとって、トラストは難しいテーマではありませんでしたか。

吉橋さん:
おっしゃるとおり、トラストというテーマによるサービスデザインは学生にとって難しい内容です。また、それが仕事に直結するとか、仕事を始めてすぐに役立つものでもありません。しかしながら世界の動向を見ても、信用経済がいずれ日本に訪れることは明らかであるので、「この先のデザイナーの役割を考えるきっかけを作りたい」との思いで演習に採用しました。

丸山:
時代を先取りしていますね。

吉橋さん:
本来先駆的な取り組みを行うことが大学の使命ですが、世の中の流れが早すぎて追いつかないという現実を何とかしたいという思いがありました。日本ではまだトラストは中国のように可視化されていませんが、見えないもののデザインは、情報デザイン学科が設立されてから一貫して行ってきたことであり、学生たちは日々それに取り組んでいます。うまくいくかどうか確信はありませんでしたが、「やれるだろう」という気持ちが強かったですね。

既成概念にとらわれない学生の発想力に期待

丸山:
私たちの年代は、信用や信頼というと金融などのサービスでなじみがありますから、「契約や果たさなくてはならない約束」、または「金銭による価値尺度」を想起しますが、学生の反応はいかがでしたか?

吉橋さん:
私たちが考える信頼や信用は、精密で正確なものを求めますが、若い学生の話を聞いていると、もう少し考え方が緩いんですよ。ツイッターで知り合った人とコンサートに行くとか、そうした話はすでに耳にしていました。私からすると、SNSで知り合った会ったことがない人と一緒に行くのはなんだか不安です。ですが、私の不安や驚きを学生たちに伝えても「特別なことではない」という反応を示します。なるほど、学生たちは新しい信用や信頼をすでに形成しているのだなと。そういったことも含めて、大人には思いもよらないオリジナルな発想を期待しました。

――次回は新たに授業に導入した実証実験についてお聞きします。学生たちが課題に対して、どのような取り組みを行ったのかを中心に、「学生たちがイメージするトラストとは何か」、「そこからどのようなアイデアが生まれたのか」など、実証実験に向けたプロセスを伺います。

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画像1: [Vol.1]トラストの時代に、デザイナーはなにをするべきか│多摩美術大学 吉橋研究室の学生たちが取り組んだ、トラストの情報サービス化

吉橋昭夫
多摩美術大学 美術学部 情報デザイン学科准教授

UXデザイン、サービスデザインの教育と研究に取り組み、国内におけるサービスデザインの演習カリキュラムをいち早く実践。サービス・マーケティング、顧客の経営体験価値、経学とデザインの境界領域、デザイン思考の他領域への展開などの造詣が深く、IT・サービス系企業との産学共同研究を数多く手がけている。千葉大学工業意匠学科卒、芸術学修士(多摩美術大学)、経営情報学修士(多摩大学)。

画像2: [Vol.1]トラストの時代に、デザイナーはなにをするべきか│多摩美術大学 吉橋研究室の学生たちが取り組んだ、トラストの情報サービス化

丸山幸伸
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部東
京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。

[Vol.1]トラストの時代に、デザイナーはなにをするべきか
[Vol.2]学生たちがイメージするトラストとは
[Vol.3]時代によって、トラストのあり方が変わっていく

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