コミュニティと対話をベースにしたイノベーションを考えるとき、発信元の「我々」をどうブランディングするのか。経産省デザイン経営宣言やTCL(多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム)にも関わる、株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長永井一史氏に、社会課題のような大きな対象にどう取り組むのか、動的なものの枠組みをどうデザインするのか、また、システムがうまくワークするための、強度ある出発点についてお話を伺いました。

[Vol.1]社外だけでなく、社内に向かうブランディング
[Vol.2]「自分自身」が反映された発信が共感を生む
[Vol.3]強度のある設定で枠組みをデザインする

ヒキで見るか、ヨリで見るか

丸山:
前回までのお話の中で、広告も事業開発の仕事も意味をつくり、伝える仕事であるとうかがいました。僕もプロダクトデザイン、インタラクションデザイン、サービスデザイン、イノベーションと関わってきましたが、やっていることは基本的に同じだと感じています。

永井さん:
職種が違っても、何かをつくったり、クリエイティビティというスキルを使っている人はみんな同じ感覚なのではないでしょうか。

森:
私は2つのタイプがあると考えているんですが、例えばモノ作りなら、モノに集中しちゃう人と、設計という行為をメタに見られる人がいる気がします。設計という行為をメタに見ている人は、デザイナーと同様にどの分野、業種でも、同じアプローチで向き合えると思うんです。

一方で、モノに集中し入り込んでいる人は、その対象のモノが変わった時点で「私の対象物ではない」と考えてしまいます。ヒキの視点で捉えられるか、そうでないかは大きいですよね。

永井さん:
違う課題を与えられた時にそこにチャレンジしてみたいという好奇心があるかどうかも大きいですよね。あくまで今までやってきたことに、こだわりたい人もいると思います。人材育成の視点で考えると、ステージの話でもあるかもしれません。いきなりどんなことでもできるということはないので、最初はモノだけに入り込むタイプであってもいい気がします。

一度でも何かを深める経験がないと、色んな判断もつきにくい。デザイナーの成長プロセスも一緒で、デザイナーから、アートディレクターになって、クリエイティブ・ディレクターになっていくのですが、すこしずつ、裁量やマネージメントする範囲が増えていく。デザイナーという目の前の対象にのめり込む時期があるからこそ、やがて俯瞰した位置で見られるようになっていきます。

画像: デザイナーの成長プロセスについて話す永井さん

デザイナーの成長プロセスについて話す永井さん

森:
それまでの経験値を糧にして、俯瞰して見ることができるようになれば、自分のスキルでできることがたくさん見つかりますよね。そして、対象と距離を取れると、難しい問題にも楽しさを発見できるかもしれない。「社会課題をみんなで楽しく解いています」というくらい、気負わずにできることも大切なんでしょうね。

永井さん:
SDGsの話でも同じようなことが言えるかもしれないですね。大きな課題として17の目標を前にすると、立ちすくむしかありません。でも、小さな範囲を「自分ごと化」をしたり、自分のフィールドに持ってきて分解して考えれば、「日常のこんなことからできるかもしれない」と考えられます。いきなり大きな枠組みで全部解決しようとすると、本当に難しい課題です。

大きな課題はどこから手をつけるか

丸山:
研究者らしくエンジニアリング的に考えていくと、問題が複層的にある場合は、上から順番にやっつけていきたくなります。しかし、デザインだとコンセプトとディテールを何度も行き来しながら進めていくことで、いいものができたりしますよね。それは目的工学の話と呼応していると思います。今、我々がやっていることが、まさにそういうことなのかなと。

画像: 永井さんから大きな社会課題へのアプローチについて聞く丸山

永井さんから大きな社会課題へのアプローチについて聞く丸山

永井さん:
今、TUB(Tama Art University Bureau)というデザインハブで、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)※1」という大きなテーマを取り扱っています。そのまま「サーキュラーエコノミー」として対峙しようとすると、日立さんくらいの規模がないとできない、我々では手に負えないと考えてしまいます。

でも、学生のプログラムに落とし込んで、「産業廃棄されたものをどうアップサイクルするかを手がかりにして、それをシステムとして考えたらどうか」、といったところから考えはじめることをやっています。最終的にはサーキュラーへトランジションしていくシステムをどう作るかということなのですが、それがフェーズ3だとして、まずはフェーズ1からやっていく。いきなり3から考えようとしても、スタックしてしまいますから。

そして、そういうスタディをするうちに、「これとこれをつなげたら良さそう」とか、たくさん集積したものをつないでいくことで、もう少し大きな絵が描けることがわかってくる。それには色んなステークホルダーの協力も必要です。オープンイノベーションの取り組みに近いと思います。

複数の企業の方をお誘いしながら立ち上げたプロジェクトなのですが、有識者の方たちとのオープンな勉強会も定期的に開催しています。そこでの視聴者からプロジェクトへの参加を表明してくる企業も、いくつか生まれてきました。当初、そんなことが起こればいいなとは思っていたんですけど、リアルに起こるんだと思って感激しました。開きながら活動して、関わりが渦のように大きくなっていくプロセスができつつあります。

※1 従来の3R(Reuse、Recycle、Reduce)の取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動

枠組みをどうデザインするか。動的なものを対象にする難しさ

丸山:
先ほどのお話を伺って、永井さんは動的なものを対象にデザインしていらっしゃるのだと思いました。教育プログラムはまさしく動的なもので、なかなか管理ができません。ウェブサイトやサービスも、いったん動き出すと、デザイナーである自分がコントロールすることはほとんどありません。定期的、断面的に再定義し続けていますが、動き出したものはもはや自分がデザインしたものとは違うものになっているかもしれません。そうなると、どこまでが私のデザインや意図なんだろうと考えてしまいます。そもそもコントロールすることは求めていないので、自立的に動いて成長していけばいいと思ってはいるのですが。

永井さん:
僕自身も「自分はこんなデザインした」というカタチや結果にはあまりこだわらないんです。むしろ、対象が動いたり、成長したりする方が楽しいと思えるタイプのデザイナーだと思います。だからこそ、ブランドの仕事が好きなんだと思います。発展、成長できる枠組みをどうデザインするかに興味があり、ただそこを精緻にデザインしたいと思っています。

画像: 永井さん「個性が成長できる枠組みを精緻にデザインしたい」

永井さん「個性が成長できる枠組みを精緻にデザインしたい」

森:
私は若い頃、一人のエンジニアとして、プログラムをどう動作させるかという意味での「システム」作りからスタートしました。その後、マネージャーとして人の動きも含めた「システム」を考えることになったのですが、やがて、自分が作ったマネジメントシステムのなかでみんなが成果を出してくれたらうれしいと感じるようになりました。そういう意味では、私もデザインをしているような気がします。

広がりを内包するシステムには、強度のある出発点が不可欠

丸山:
エンジニアに馴染みのある言葉を使うと、「システム・オブ・システムズ(System of Systems)」という、複数のシステム同士を接続して1つのシステムとして成果を出すという考え方があります。一方で、それぞれ独立して成果を出している自律分散型のシステムもありますが、森さんは我々が今やっている活動はどちらだと思いますか?

森:
システム・オブ・システムズ的な枠組みがある程度はあるのですが、内包されている要素はマルチエージェントとして独自に動くような感じでしょうか。このエージェントとあのエージェントを一緒にすると面白いかなと組み合わせてみると、創発的に動くという感じ。システム・オブ・システムズと自立分散型システムの両方の要素をもっていると考えています。

永井さん:
枠組みやシステムを作るとき、初期設定はとても大事だと思います。広がっていくシステムと、そうでないシステムがあります。最初の出発点の「強度」を非常に意識しています。そこがデザインのしどころではないかと考えています。

画像: 永井さんのお話全てが「刺さった」と熱心にメモする丸山と森

永井さんのお話全てが「刺さった」と熱心にメモする丸山と森

丸山:
強度のある出発点というのは、やはり最初のパーパスに還元されるのでしょうか。

永井さん:
目的は大事ですが、それだけでは不十分で、形も大事だと考えています。だからこそ、最初の出発点の段階で、全部の要素がある程度できていることが重要です。目的、形、行動、人材などを最初に揃えれば、うまくいく可能性が高まります。それが編まれてできあがった状態を頭の中で想像できるのがデザイナーとしての大事な能力だと思っています。

丸山:
一度、必要なファクターを一連のモノとして揃えてみて、それに共感ができることが大事ですね。その組み合わせに納得できないと、いざ進もうとはならないですよね。

森:
さまざまな目的があるなかで、最低限必要なものを揃えてから走り始める。すると、走るなかで目的が増えたり、減ったりしていきます。あるフェーズではうまくいったり、違うフェーズではうまくいかなかったり、いろんな状況が出てくると思いますが、アジャストしながらこれを繰り返していけばいいということですね。

丸山:
3回にわたって、イノベーションのブランディングについてお聞きしました。ブランディングがもつ本質的な意味はもちろん、ブランディングにつながるパーパスをどう位置付けるかということや、パーパスを通じた組織と個のつながり、個からの発信がもつ影響力や共感性まで、さまざまな角度からお話をすることができました。現在、我々が取り組んでいることに直結する貴重なお話をお伺いしたので、この機会を生かしてさらに加速していきたいと考えています。ありがとうございました。

画像1: [Vol.3]強度のある設定で枠組みをデザインする│HAKUHODO DESIGN永井さんとイノベーションのブランディングについて考える

永井 一史
アートディレクター/クリエイティブディレクター
株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長
多摩美術大学教授
TCL(Tama Art University Creative Leadership Program)エグゼクティブスーパーバイザー

1985年多摩美術大学美術学部卒業後、博報堂に入社。2003年、デザインによるブランディングの会社HAKUHODO DESIGNを設立。様々な企業・行政の経営改革支援や、事業、商品・サービスのブランディング、VIデザイン、プロジェクトデザインを手掛けている。
2015年から東京都「東京ブランド」クリエイティブディレクター、2015年から2017年までグッドデザイン賞審査委員長を務める。経済産業省・特許庁「産業競争力とデザインを考える研究会」委員も努めた。
クリエイター・オブ・ザ・イヤー、ADC賞グランプリ、毎日デザイン賞など国内外受賞歴多数。著書・共著書に『幸せに向かうデザイン』、『エネルギー問題に効くデザイン』、『経営はデザインそのものである』、『博報堂デザインのブランディング』『これからのデザイン経営』など。

画像2: [Vol.3]強度のある設定で枠組みをデザインする│HAKUHODO DESIGN永井さんとイノベーションのブランディングについて考える

森 正勝
研究開発グループ
社会イノベーション協創統括本部 統括本部長(General Manager,Global Center for Social Innovation)

1994年京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、日立製作所入社。システム開発研究所にて先端デジタル技術を活用したサービス・ソリューション研究に従事。 2003年から2004年までUniversity of California, San Diego 客員研究員。横浜研究所にて研究戦略立案や生産技術研究を取り纏めた後、2018年に日立ヨーロッパ社CTO 兼欧州R&Dセンター長に就任。2020年より現職。

画像3: [Vol.3]強度のある設定で枠組みをデザインする│HAKUHODO DESIGN永井さんとイノベーションのブランディングについて考える

丸山 幸伸
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、イノベーション人財の教育にも従事。2020年より現職。

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