「スタートアップ」は多様化する社会ニーズに対し、革新的なアイデアや独自性で新たな価値を生み出し、さまざまな課題を解決に導いています。今や世界中の社会課題の解決において、欠かせない存在でもあります。今回、国内のおよそ6割の約6000社のスタートアップが登録するオープンイノベーションプラットフォームなどを運営するCreww株式会社・代表取締役 CEOの伊地知さんをお招きして、日立製作所 コーポレートベンチャリング室 副室長の船木とともに語り合いました。第3回目のテーマは社会課題を中心に、最近話題のメタバースについても触れてもらいました。ナビゲーターは、丸山幸伸(研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長)です。

[Vol.1]世界の課題に挑戦する「スタートアップ」
[Vol.2]スタートアップと事業会社の相乗効果について
[Vol.3社会課題を肌で感じているか

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日立「スタートアップ協創プログラム2021」

社会課題を解決する側が肌で感じられるかがポイント

丸山:
最後のトピックスは「社会課題」です。現在どのような課題があり、どのように解決に取り組んでいるか教えていただけますか。

船木:
そもそも「私たち自身が日々の生活の中で、社会課題を肌で感じているのか」という問題意識があります。私の息子が体験した話ですが、コンビニでサンドイッチを買って会計しようとしたら、店員さんが「賞味期限が近づいているので、こちらをお買い上げください」と別の商品を勧められたそうです。店員さん側はお客さまのことを思っての対応だと思いますが、息子としては、フードロスが問題になっている中、賞味期限が近いものから選んだのに「なぜ」という気持ちになったそうです。フードロスの一方で、日本には給食費が払えないご家庭も増えていると言われています。身近な問題でありながら、あまり肌で感じられていません。

画像: 自らが社会課題を肌で感じなくては実践的解決に結びつかない

自らが社会課題を肌で感じなくては実践的解決に結びつかない

丸山:
飢餓というと、アフリカあたりで起こっているような距離感がありますね。

船木:
私たちは社会課題の解決を提起していますが、日常においてなかなか接する機会がありません。実際の課題に接して肌感覚をオフセットしなければ、リアリズムは出てこないと感じています。

丸山:
伊地知さんも社会課題に関心をお持ちですが、どのような場面で課題意識をもたれるのですか。

伊地知さん:
アメリカに住んでいた頃、貧富の差が激しく、よく街でホームレスを見かけました。日本には貧困家庭は少ないと思っていたので、テレビで子どもに満足に食事が与えられない家庭があることを知り驚きました。給食費が払えない家庭の話がありましたが、そうした子どもたちにとって給食は唯一と呼べる栄養源です。

長期の休みになると、子どもたちは空腹を強いられるそうです。貧困の支援策として子ども食堂などの社会貢献活動が普及してきたことで、安価で食事ができるようになったものの「貧困であることを知られたくない」と考えて利用しない「隠れ貧困」も増えています。こうした課題を抱えている人が多いことを知り、数年前から貧困家庭の子どもの教育を支援するNPO法人でボランティア活動を行っています。

社会的問題は抜本的な解決が必要

画像: ボランティア経験を通して社会課題の解決に取り組む

ボランティア経験を通して社会課題の解決に取り組む

丸山:
この貧困問題の受け止め方で、日本と米国に差は感じますか?

伊地知さん:
「日本に貧困などない」と思っていたので、帰国後に衝撃を受けました。貧困問題を解決するために食材を届けるなど即効性の支援も当然大事ですが、根本から解決しなくてはならないと考えています。貧困問題の根本を探ると、教育に関わるところまで行き着きます。一例として、母子家庭で子育てをするシングルマザーの方の中には、工場などの現場で働いていたけれど身体を壊して働けなくなってしまい、ますます貧困に陥ってしまう、といったケースも多々ある事が分かりました。在宅勤務や身体的な負荷の少ないデスクワークができれば良いのですが、パソコン環境や基本的なITスキルを身につけていないと、そういった選択肢を選ぶことも難しいのが現状です。そういった家庭で育つ子ども達も、必要な教育を得ることが難しいといった実態があります。現在、お手伝いしているNPO法人では、子どもの教育に力を入れています。

丸山:
具体的にはどのような教育ですか。

伊地知さん:
塾に通えない子供たちのために受験勉強や期末試験などの勉強を見てあげたり、テクノロジーによって産業界がどのように変化しているのかなどお話ししたり、産業界で活躍する人などを連れてきたりするなど、「世の中には広い世界がある」ということを伝えて、視野を広げる取り組みに力を入れていたりします。

丸山:
NPO 法人などは、ご自身で探したのですか。

伊地知さん:
自分で探して面談も受けました。「面談に落ちたらどうしよう」と、ドキドキしましたね。

丸山:
船木さんは伊地知さんのお話を伺って、どのような感想をお持ちですか。

画像: 助けられる人と助ける人の関係づくりが大切

助けられる人と助ける人の関係づくりが大切

船木:
自分から課題に向き合うためのキャッチポイントを作っていらっしゃるのは素晴らしいと思います。社会問題を語る際に、とかく手を差し伸べる人と差し伸べられる人の二極に分けて論じがちですが、実際にはそうではなく、個々人が「この問題では人を助けることができるが、別の問題では人に助けてもらわなくてはならない」といった、お互いに頼り合う関係だと思います。社会課題に接する機会とお互いに頼り合う場ができれば、もっと社会は変わってくると思います。お金や時間に余裕がある人の中には、機会さえあれば誰かを助けたいと思っている人がたくさんいると思います。そういった出会いをマッチングする仕掛けがあるといいですね。

伊地知さん:
身近に社会課題に接する機会を提供するスタートアップの一つに、ベルリンの企業が開発した検索エンジンECOSIA(エコシア)というサービスがあります。「検索するたびに木を植えられる」というビジネスモデルで、それによって約1.4億本という植樹が行われています。検索することで得た利益を何かに還元するシステムは、課題を解決する手がかりになるのではないでしょうか。

船木:
なるほど、デジタルによる価値創生の成功例ですね。

既存のプラットフォームの上に未来が開ける

画像: ディスカッションを重ねてより良い方向性を探っていきたい

ディスカッションを重ねてより良い方向性を探っていきたい

丸山:
今後、メタバースが広がってきた時に新たな価値が必要になると思いますが、皆さんはどのように考えていますか。

伊地知さん:
もう少しすると、どんどん世に出てくる気がします。メタバースに限らずまだ実用化されていない大学の研究などが着目されて、チャレンジするスタートアップが増えていくと思います。

船木:
メタバースはまだ新しい概念を生み出そうとする過渡期だと思います。すでに存在しているゲームやサービスを「メタバース」と呼んでいる場合も多いので、こうした機会を通じて、多様な認識をぶつけ合って次のステージに進むのも楽しいものです。

伊地知さん:
既にあるプラットフォームの上に未来が開けるかもしれません。このたびのコロナ禍で、リモートによる在宅勤務が各業界で注目されましたが、IT業界などではすでに行われていたことです。既存のシステムが「メタバース」と呼ばれて一気に広がる可能性はあると思います。

船木:
先に定義を作ってしまうよりも、「これはメタバースかもしれない」という柔軟性を持たせたほうが広がりを見せるでしょう。これからもスタートアップとディスカッションを行いながら、より価値を生み出す方向性を探っていきたいと考えています。

画像1: [Vol.3]社会課題を肌で感じているか│Creww 伊地知さんがいち早く気づいた、スタートアップが必要とされる理由

伊地知 天
Creww株式会社 代表取締役 CEO

高校、大学を米国で過ごす。カリフォルニア州立大学在学中に起業したことをきっかけに、これまで国内外で合計4社の企業を設立した実績を有す。現在は、スタートアップ・エコシステムの構築やオープンイノベーションに関わる多くの組織やプロジェクトに参画している。
【加盟組織・プロジェクト】
・ (社)新経済連盟 幹事
・ (社)情報社会デザイン協会 理事
・ J-Startup 推薦委員(経産省 x JETRO x NEDO)

画像2: [Vol.3]社会課題を肌で感じているか│Creww 伊地知さんがいち早く気づいた、スタートアップが必要とされる理由

船木 謙一
日立製作所 コーポレートベンチャリング室 副室長(Deputy General Manager)

工場設計、生産システム、サプライチェーンマネジメントシステム、サービスデザインの研究を経て、協創を通じたオープンイノベーション戦略の策定実行に従事。これまでにコンピュータ機器向け生産管理システムや、半導体、機械保守部品、アパレル品向けSCMシステムなどを開発・適用。2019年より現職。

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丸山 幸伸
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。

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