第一線でデザインリサーチの普及・啓発に取り組まれているソシオメディア株式会社代表取締役・HCD-Net(特定非営利法人人間中心設計推進機構)理事長 篠原稔和さんと、日立製作所 研究開発グループのデザインリサーチ部門を取りまとめる原有希の対談[Vol.2]では、HCD(人間中心のデザイン)が、個人や企業、社会に浸透していくことの意義が議論されました。

[Vol.1]全ては現場に埋め込まれている。
[Vol.2]HCD(人間中心デザイン)が当たり前の世界へ
[Vol.3]HCD(人間中心デザイン)の新しい領域
[Vol.4]デザインリサーチに注入された、人文社会科学の知
[Vol.5]デザインリサーチの現場報告
[Vol.6]デザインリサーチというフィールド

経営戦略までの広がりを持つデザイン

原:
せっかくの機会なので、篠原さんが注力されているデザインマネジメントについてもう少し詳しく教えてください。

篠原さん:
デンマーク・デザインカウンシル(DDC)が提唱しているアプローチで、「デザインラダー」という組織におけるデザインの活用度を理解するための方法があります。これは、Step1:デザインの活用なし Step2:見た目としてのデザイン Step3:プロセスとしてのデザイン Step4:戦略としてのデザインという4段階の指標でデザインの活用度を判断しようというものです。

日本でもデザインの役割は以前よりは広がってきていますが、デザインはきれいなモノを作ること、デザインマネジメントというのはデザインされたモノをどう管理するかとか、知的所有物としてのデザインをどう扱うか、といった狭義の意味合いで考えられている方や企業がまだあります。デザインラダーでいうStep2の段階です。

しかし世界のトレンドは、それこそ仕事のプロセス設計や事業経営におけるビジネス戦略、自治体や国であればこれからの社会をどう描くのかなど、デザインはそういうことに活かされています。日本でも、Step3からStep4へとデザインを再定義し、キャッチアップしていく必要があると思います。そのためには、デザインマネジメント、デザイン経営というものを広めていかなくてはならないと考えまして、世界で教科書とされる書籍を3冊ほど翻訳しました。

そして翻訳だけでなく、自分でも1冊の本にまとめているところです。ヒューマン・センタード・デザイン・マネジメントというタイトルを考えていますが、人間中心のデザインをマネジメントまで広げてとらえるこの概念を、世に出したいと思っています。

原:
UX(ユーザーエクスペリエンス)、デザインコンサルティング、そして今度はデザインマネジメント。篠原さんがこういう新しい領域を開拓し、それを啓発・普及させようとするモチベーションは、いったい何なのでしょう。

画像: デザインマネジメントについて深掘りする原有希

デザインマネジメントについて深掘りする原有希

篠原さん:
以前から気になっていたのですが、デジタルのデザインを良くしようとか、あるいはサービスデザインを良くしようとデザイナーやリサーチャーが取り組んでも、経営者や経営層、あるいは社員一人ひとりの意識が高まっていないとなかなか受け入れてもらえません。この疑問から、デザインマネジメントという領域は世界ではどうなっているのか、海外の企業はどういうアプローチをしているのかを調べていくうちに、これはこれから日本に必要な領域だと思い至ったのです。

HCD-Netの役割

原:
篠原さんは日本の中でUX(ユーザーエクスペリエンス)の概念を翻訳やご著書、セミナーや講演などいろいろなものを通じて広められてきた草分け的な方というイメージがありましたが、今度はデザインマネジメントの概念をまた世の中に広めていこうというそのパワーには本当に驚かされます。

しかも経営者、翻訳家、著作家、技術顧問、教授といったお仕事をされながら、人間中心のデザインを世の中に広める活動の最前線にある特定非営利法人人間中心設計推進機構『HCD-Net』の理事長もされています。人間中心設計(HCD)専門家認定制度によって、世の中に使いやすい商品やシステムを作り出す人財を増やしていこうというこのNPOについても、ぜひお話を伺いたいです。

画像: 篠原さんが理事長をつとめるHCD-Netの有資格者は1,300人を超えた

篠原さんが理事長をつとめるHCD-Netの有資格者は1,300人を超えた

篠原さん:
HCD-Netは、モノ中心から人間中心のモノづくりを広げることで「苦い経験」を減らし、「うれしい経験」をもたらすための取り組みです。事業としては大きく5つありまして、1つはHCDのプロセスを実践できる専門家資格の認定活動です。この認定資格を取られた方は、1,300人を超えました。ただ、GAFAなら1社でこれくらいの専門家はいるので、まだまだ日本での専門家は少ないと思っています。

2つ目に、この専門家の方たちに実践的な研究や成果を発表していただくための研究活動があります。3つ目は、HCDのスキルやツールの習得、ワークショップなどを行う教育活動です。4つ目は、実ビジネスに役立つための研究やプロジェクトを行うビジネス支援活動。5つ目が、HCDの普及・啓発を担う広報社会化活動です。

さらに直近で言いますと、これまで専門家認定を取られた1,300人というのは、リサーチができたり、テストができたり、いろいろなツールが使えたり、デザイニングに活かせたりといった専門家なのですが、一般の社員たちにもHCDの基礎知識を得ていただきたいと思っていまして、ノンデザイナーや非専門家の方への基礎知識の検定事業というものも準備しているところです。

一人ひとりがHCDというDNAを持つ社会

原:
日立でも50人を超えるリサーチャーやデザイナー、エンジニアなどがHCD-Netの資格を持っています。はじめは私たちのチームのメンバーだけでしたが、今ではノンデザイナー、非専門家の事業部の方たちも積極的に資格を取るようになりました。これだけでも、かなり広まっている実感が私にはあるのですが、篠原さんはこの先HCD-Netの役割がどうなっていくのがいいと思われていますか。

篠原さん:
今世の中にはHCDだけでなく、例えばUX(User eXperience)、CX(Customer eXperience)、サービスデザイン、デザイン思考といったいろいろなキーワードがあるわけですが、言葉ではなく人間中心のデザインという考え方やマインドセットを、組織全体や一人ひとりのDNAのように浸透させられるかどうかがポイントだと考えています。

妄想に聞こえるかもしれませんが、この考え方やマインドセットが企業や行政、学校やコミュニティーに組み込まれていった時、社会は良い方向に変わるのではないか。皆さんがDNAのようにHCD、人間中心のデザインの考え方を当たり前のように持てば、相手のことを思って話をするし話を聞くようになるでしょう。仕事の会議も相互理解を進めながら活発になるでしょうし、ビジネスの現場もよりハッピーでより生産的になっていくはずです。そんな世界を妄想して、今何ができるのかを考えています。

――デザインリサーチの領域を広げてきた、HCDの取り組み。次回はさらに新しい領域の取り組みへと議論は展開していきます。

画像1: [Vol.2]HCD(人間中心デザイン)が当たり前の世界へ|ソシオメディア代表 篠原稔和さんと考える、人間中心のデザインの現在地

篠原 稔和
ソシオメディア株式会社 代表取締役
NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net) 理事長
国立大学法人 豊橋技術科学大学 客員教授

「Designs for Transformation」を掲げるデザインコンサルティング・ファームであるソシオメディア株式会社の代表取締役。同時に、NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)の理事長および総務省のデザインに関わる技術顧問を兼務している。企業や行政におけるデザイン思考やデザインマネジメントに関わるコンサルティング活動、教育活動、啓発活動に従事。また、2021年に豊橋技術科学大学の客員教授に就任し、産官学民の取組や教育活動の中でのHCDの実践に取り組んでいる。最新の監訳書籍である『詳説デザインマネジメント - 組織論とマーケティング論からの探究』(東京電機大学出版局、2020年3月20日)など、現在における「デザインマネジメント」の重要性を多角的に探求するための「デザインマネジメントシリーズ」を展開中。2022年には「HCDのマネジメント」に関わる自著を出版予定。

画像2: [Vol.2]HCD(人間中心デザイン)が当たり前の世界へ|ソシオメディア代表 篠原稔和さんと考える、人間中心のデザインの現在地

原 有希
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 リーダ主任研究員(Unit Manager)

1998年、日立製作所入社。デザイン研究所、デザイン本部を経て、東京社会イノベーション協創センタにて現職。ユーザーリサーチを通じたHuman Centered Designによる製品・ソリューション開発や、業務現場のエスノグラフィ調査を通じたCSCW(Computer Supported Cooperative Work)の研究に従事。人的観点でのソリューション創生や業務改革を行っている。

[Vol.1]全ては現場に埋め込まれている。
[Vol.2]HCD(人間中心デザイン)が当たり前の世界へ
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