「人間中心のデザインリサーチ」Vol.4~Vol.6では、第一線でデザインリサーチの普及・啓発に取り組まれているソシオメディア株式会社代表取締役・HCD-Net(特定非営利法人人間中心設計推進機構)理事長 篠原稔和さんをモデレーターに、日々ユーザーリサーチやデザインと向き合っている日立製作所研究開発グループの主任研究員安藤ハル(あんどうはる)、主任研究員 新関亮太(にいぜきりょうた)、チームリーダーの原有希の3名と、ディスカッションが行われました。[Vol.4]では、二人の研究員の現在、そしてこれまでの歩みがトピックとして紹介されました。

[Vol.1]全ては現場に埋め込まれている。
[Vol.2]HCD(人間中心デザイン)が当たり前の世界へ
[Vol.3]HCD(人間中心デザイン)の新しい領域
[Vol.4]デザインリサーチに注入された、人文社会科学の知
[Vol.5]デザインリサーチの現場報告
[Vol.6]デザインリサーチというフィールド

認知心理学の師との出会い

篠原さん:
ソシオメディアという会社の代表と、HCD-Net(人間中心設計推進機構)の理事長をつとめています篠原と申します。今日は日立の中でエスノグラフィ調査(文化人類学に基づくフィールド調査手法)を中心に、デザインリサーチに取り組まれている方たちの現場のお話が聞けるということで、私自身とても楽しみにしてきました。どうぞ、よろしくお願いします。

 安藤 新関 :
よろしくお願いします。

画像: 対談は協創の森カフェライブラリーで行われた

対談は協創の森カフェライブラリーで行われた

篠原さん:
早速ですが、まず新関さんから、今どういうお仕事をされているのか教えてください。

新関:
私は日立の研究開発部門である東京社会イノベーション協創センタのサービス&ビジョンデザイン部で、ユーザーリサーチャーとして働いています。この部署は、これからのサービスとビジョンをデザインするチームです。私は、ソリューションデザインやサービスデザイン、ビジョンデザインのために、ステークホルダーの要求事項や課題意識などをインタビューやエスノグラフィ調査で抽出する、といったことを研究という位置づけでやっております。

篠原さん:
新関さんは、元々はどういう勉強をされてきた方なのですか。

新関:
高校を卒業する段階では、当時大好きで自分自身で演奏したり改造したりしていたエレキギターのクラフトの専門学校に行こうか、大学へ行こうか迷っていた時期がありました。根底にモノづくりへのあこがれがあったのだと思います。

結局大学の方を選択し、社会学部に入学しました。2年生のときにゼミを通じて認知心理学の原田悦子先生(現在筑波大学人間心理学域 教授)と出会いまして、そこから先生の元で認知心理学を勉強してきました。ゼミの活動の中でユーザビリティテストを手伝わせていただいたり、実験を通じて理解するという体験を重ねることで、研究でいろいろなことを明らかにしていくということに興味が湧いてきました。そこから、今日につながっているということになります。

篠原さん:
原田悦子先生は業界では“えっちゃん”と呼ばれている有名な方で、本領域で大事な取り組みをされてきているキーパーソンのお一人ですが、原田先生との出会いが一人のリサーチャーを世に送り出すことになったわけですね。

新関:
はい。そういうことになります。

画像: 大学のゼミがきっかけでデザインリサーチを知った新関亮太

大学のゼミがきっかけでデザインリサーチを知った新関亮太

音の知覚研究から脳の研究へ

篠原さん:
それでは続いて安藤さん、現在のお仕事についてお聞かせください。

安藤:
私も、新関と同じ研究開発グループのサービス&ビジョンデザイン部に所属しています。現在は大きく分けて2つの仕事をやっておりまして、ひとつは重電向けのオペレーション&メンテナンスを、人起点でいかに使いやすく、いかに人的エラーを抑えるようにするか、インタビューやエスノグラフィ調査を行いながら進めています。

もうひとつは、私たちはエスノグラフィ調査に基づいて、現場の課題を抽出するということを進めているわけですけれども、研究の依頼元となる事業部の中には、できれば自分たちでも調査をやってみたいというニーズがあることがわかりました。また私たちもリソースや時間的な制約から全ての調査依頼を受けるというわけにもいきませんので、いわゆるプロフェッショナルのレベルまではいかなくても、営業さんやSEさんがご自身で調べたいと考えたことを取りこぼしなく取れる、そういうエスノグラフィ調査、あるいはフィールド調査の支援ツールを開発しています。

篠原さん:
なるほど。クリティカルで社会的な責任が重い世界と、現場のニーズにこたえるツールの開発を行っている。どちらも興味深いお仕事ですが、そんな安藤さんはどういった経緯で現在に至るのか、そこを先にお聞きします。

安藤:
学生時代、学部と修士のときには音響や音声の情報処理の勉強をしていました。心理学教室だったのですが、そこで音の知覚の研究を進めていました。人がどういうふうに音を知覚して認知していくのかという部分に興味があり、そこから音響に入っていきましたが、次第に関心が広がりまして、音だけではなく人の認知特性について調べたくなりました。

日立の中央研究所に入社してからドクターコースに行きまして、人が受ける刺激に対して脳はどういう反応を示すのか、そこから人はどうやって学習していくのかということをテーマに研究を進めていました。

画像: 音響や音声、そして認知の研究をしてきた安藤ハルは、バイオリニストでもある

音響や音声、そして認知の研究をしてきた安藤ハルは、バイオリニストでもある

篠原さん:
ユーザビリティテストの領域でも、生理的な反応を見るというのは大事な要素だと思うんですが、その研究は刺激に対して脳がどう変化したかとか、視線がどう動いたかとか、脈拍がどうなったか、そういうことを研究するわけですか。

安藤:
そうです。会社でさまざまな研究を進める中で、ヒトを理解することについて結局行き着くところは脳かもしれないと思うようになりました。

篠原さん:
それは、今やられている事業部の方たちのツール開発などにもつながっている研究だと思いますが。

安藤:
確かにツールを開発するに当たって、例えばあるプロフェッショナルの特性を知るときには、それが何で表現されているものなのかを特定する必要があります。その特性は声で表現されるのか、テキストで表現できるものなのか、映像で見ていかないとわからないものなのか、その分類などには役立っているのかもしれません。

原:
いわゆる人間中心設計といったアプローチは、日立では90年代から中央研究所に研究者としていらっしゃった黒須正明さんを先頭に取り組んできた歴史があります。その思想はプロダクトデザインの時代から脈々とあったのです。それを、90年代後半に現在の部署の前身が置かれていたデザイン研究所にて、鹿志村(現在、日立製作所 専門理事 未来投資本部エイジングソサエティプロジェクト プロジェクトリーダ 兼 研究開発グループ技師長)がユーザビリティやユーザーリサーチのチームへと発展させ、今に至るという流れがあります。

その中で新関は、認知心理学を学びながら違う会社でキャリアを積んでから日立に入った人ですし、安藤は中央研究所の時代から人の知覚や認知をベースにユーザインタフェースを開発してきた人です。日立の中でも私たちは、同じ人文社会科学系の専門家ですが、出自の異なるメンバーが集ってデザインリサーチに取り組んできた、そんな部署でありチームなんです。

――次回は、二人が取り組むデザインリサーチの現場について、ディスカッションが展開していきます。

画像1: [Vol.4]デザインリサーチに注入された、人文社会科学の知 |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

篠原 稔和
ソシオメディア株式会社 代表取締役
NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net) 理事長
国立大学法人 豊橋技術科学大学 客員教授

「Designs for Transformation」を掲げるデザインコンサルティング・ファームであるソシオメディア株式会社の代表取締役。同時に、NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)の理事長および総務省のデザインに関わる技術顧問を兼務している。企業や行政におけるデザイン思考やデザインマネジメントに関わるコンサルティング活動、教育活動、啓発活動に従事。また、2021年に豊橋技術科学大学の客員教授に就任し、産官学民の取組や教育活動の中でのHCDの実践に取り組んでいる。最新の監訳書籍である『詳説デザインマネジメント - 組織論とマーケティング論からの探究』(東京電機大学出版局、2020年3月20日)など、現在における「デザインマネジメント」の重要性を多角的に探求するための「デザインマネジメントシリーズ」を展開中。2022年には「HCDのマネジメント」に関わる自著を出版予定。

画像2: [Vol.4]デザインリサーチに注入された、人文社会科学の知 |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

原 有希
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 リーダ主任研究員(Unit Manager)

1998年、日立製作所入社。デザイン研究所、デザイン本部を経て、東京社会イノベーション協創センタにて現職。ユーザーリサーチを通じたHuman Centered Designによる製品・ソリューション開発や、業務現場のエスノグラフィ調査を通じたCSCW(Computer Supported Cooperative Work)の研究に従事。人的観点でのソリューション創生や業務改革を行っている。

画像3: [Vol.4]デザインリサーチに注入された、人文社会科学の知 |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

安藤 ハル
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 主任研究員(Chief Researcher)

日立製作所入社後、中央研究所、デザイン本部を経て現職。誰をも取りこぼさないデジタル社会の実現を目標として、認知科学的視点をベースに、デジタルデバイド解消に向けたユーザインタフェースやユニバーサルデザインの研究開発に従事。さらに昨今は、学習科学に基づいた人財育成のデジタライゼーションにも取り組んでいる。

画像4: [Vol.4]デザインリサーチに注入された、人文社会科学の知 |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

新関 亮太
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 主任研究員(Chief Researcher)

2012年日立製作所入社後、デザイン本部を経て現職。認知心理学の知見や製品ユーザビリティ評価の実績をベースとし、システム開発や働き方改善を目的とした各種ユーザ調査及びデザインプロジェクト推進を担当。近年は、ビジョンデザインのためのユーザ調査設計など、専門領域の適用先拡張に向けたプロジェクト設計に注力。

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