「人間中心のデザインリサーチ」[Vol.7]~[Vol.9]では、引き続きソシオメディア株式会社代表取締役・HCD-Net(特定非営利法人人間中心設計推進機構)理事長 篠原稔和さんをモデレーターに、日々デザインリサーチに取り組んでいる若手の研究員岩木穣、大堀文、そしてチームリーダーの原有希の3名によるディスカッションが行われました。[Vol.7]は、二人の研究員の現在の取り組み、そしてこれまでの歩みについてです。

[Vol.1]全ては現場に埋め込まれている。
[Vol.2]HCD(人間中心デザイン)が当たり前の世界へ
[Vol.3]HCD(人間中心デザイン)の新しい領域
[Vol.4]デザインリサーチに注入された、人文社会科学の知
[Vol.5]デザインリサーチの現場報告
[Vol.6]デザインリサーチというフィールド
[Vol.7]デザインリサーチと向き合う、人文社会科学のニュージェネレーション
[Vol.8]KPIのない社会課題へのチャレンジ
[Vol.9]ゴールを共有する二人の異なるアプローチ

二人の現在地

篠原さん:
改めまして、ソシオメディアという会社の代表と、HCD-Net(人間中心設計推進機構)の理事長をつとめています篠原と申します。今回のディスカッションはこれからのデザインリサーチを担うお二人と、リーダーの原さんにもお付き合いいただきたいと思います。よろしくお願いします。

 岩木 大堀:
よろしくお願いいたします。

画像: 対談は協創の森カフェライブラリーで行われた

対談は協創の森カフェライブラリーで行われた

篠原さん:
それでは最初は岩木さん、今のお仕事について、自己紹介を兼ねて教えていただけますか。

岩木:
改めまして、岩木穣(いわきゆたか)と申します。私は2年前からHCD-NetのISO/TC159(国際標準化機構の人間工学を扱う専門委員会)に入らせていただいていまして、HCD-Netの皆さんには日頃からお世話になっております。

篠原さん:
そうでしたか。こちらこそ、お世話になっております。

岩木:
今私が取り組んでいる仕事は、大きく2つありまして、ひとつはインタビュー調査やエスノグラフィ調査をメインにしたリサーチです。もうひとつは方法論の研究をしていまして、データ活用の倫理的な問題などが起きている中で、持続的に社会から必要とされるサービスをデザインするにはどうすればいいのか、そういう方法論を研究しています。

篠原さん:
ありがとうございます。それでは大堀さんの現在の仕事についても、教えていただけますか。

大堀:
大堀文(おおほりあや)と申します。私は、大きく分けると3つの仕事をしています。1番目は、エスノグラフィ調査やインタビュー調査で、業務やシステムの実態を調査・分析して、その後の開発や改善に反映していく仕事です。2番目は、もう少し上流のところについて経営層やアカデミアの方たちからお話をうかがって、事業のビジョンや将来の研究方針の策定を支援していく仕事です。

3番目は社会課題の解決にフォーカスして、生活者起点で考えたときにどういう社会課題があるのか、それをどう解決していけばいいのかということについて、これまで日立ではB to Bのエスノグラフィ調査ではたくさんの実績がありますが、それをB to B to Cのスコープにまで広げた調査・研究を行っています。

心理学で社会に貢献するという気づき

篠原さん:
ありがとうございます。お二人ともつい深掘りしてしまいたくなる大変に興味深いお仕事をされていますが、その現在の仕事につながるキャリア、学生時代の研究なども含めてお話いただければと思います。

画像: 学習心理学を研究してきた岩木穣

学習心理学を研究してきた岩木穣

岩木:
私は大学院で研究した心理学がバックグラウンドでして、その中でも学習心理学という領域を研究してきました。

篠原さん:
それは、もしかして、ヴィゴツキー(※)とかですか。

※レフ・セミョノヴィッチ・ヴィゴツキー:ベラルーシ出身のソビエトの心理学者

岩木:
はい。おっしゃるとおり、ヴィゴツキー研究者の茂呂雄二先生の研究室で、社会文化的アプローチという、心理学の中でも特に文脈というものを重視する分野の研究をしていました。そんなバックグラウンドがありまして、2013年に日立製作所に入社し、そこからずっと現在のリサーチのチームで仕事をしています。

篠原さん:
その心理学というバックグラウンドと、日立という選択にはどんな関係があったのでしょう。

岩木:
そこは本当に偶然なのですが、大学院の説明会でこのリサーチのチームをつくった鹿志村(現在、日立製作所 専門理事 未来投資本部エイジングソサエティプロジェクト プロジェクトリーダー 兼 研究開発グループ技師長)から話を聞く機会があり、非常に興味を持ちました。それまでは心理学というものが実際にモノをつくったり世の中に貢献したりできるイメージをあまり持てていませんでしたので、アカデミアの方で研究を続けることを考えていましたが、鹿志村から、具体的にそういうことをやっている組織があるという話を聞いて、これは面白そうだと思いまして。

篠原さん:
ということは、学術的なテーマで研究をしていこうというときに、そのスタンスがそのまま事業や社会に貢献していけるということに気づかれたということですか。

岩木:
はい。おっしゃるとおりです。

篠原さん:
それは理想的ですね。

文化人類学とリサーチデザインの共通点

篠原さん:
続いて、大堀さんのバックグラウンドについても教えてください。

画像: 文化人類学を研究してきた大堀文

文化人類学を研究してきた大堀文

大堀:
私のバックグラウンドは文化人類学で、修士課程を修了してそのまま当時の日立製作所デザイン本部に入社しました。文化人類学というと、海外に長期滞在して、現地の人々と生活をともにしながら長期間フィールドワークを行うというイメージをお持ちだと思います。

私の場合そうしたイメージとは少し異なる科学技術社会論という領域で、精神医療を対象に研究をしていました。精神医療の臨床の場面で、ある検査装置が使われるときに、それが診断の場に持ち込まれることで、ユーザーである患者や医師、またユーザーでない医師の診断という行為を巡る認識にどのような影響を与えるのか。大まかにいうと、そうした検査装置とユーザーのインタラクションを研究していました。

入社してから3年目ぐらいまでは、鉄道ドメインの仕事を中心にやっていました。イギリスであったり、国内の運行指令所や車両保守を行う車両基地、駅係員業務といったような現場でどう業務が行われていて、そこでシステムがどんな支援ができるかを考える。そういった仕事を数多くやってきました。

篠原さん:
なるほど。医療の研究から鉄道というお仕事の現場に入られて、違和感はありましたか。

大堀:
医療分野から鉄道やインフラにテーマは変わりましたが、あるシステムが人の行動にどう作用して、それが総合的にどう変化していくのかということへの興味は共通していると思います。実際に仕事をしてみて、そこに気がつきました。

現在進行形のデザインリサーチ

篠原さん:
ありがとうございます。お二人ともとても興味深いバックグラウンドをお持ちで、それを今の仕事に自然に活かしている。そう感じましたが、ここで原さんにも、お二人についてお聞きしたいと思います。

原:
日立はグローバル展開に注力していますので、事業も国内でやっていたものを海外に展開するといった案件が多い中で、二人はB to Bのエスノグラフィ調査をいろいろと実践してきています。

大堀の場合は、英語が堪能だということもありまして、海外案件に多く取り組んできました。彼女がエスノグラフィ調査を通じて取り組んできた鉄道保守や運行指令所といったインフラ系の現場は、意思決定が非常に複雑で、問題をうまく抽出していくには丁寧な観察とコミュニケーションが必要です。彼女は最初からそういった現場に入って仕事をし、いまでは経営層もリサーチ対象として広げているというのはとても頼もしいです。

岩木の方は、データアナリティクスの倫理をうまく織り込んだデザインをどうすればつくれるのかというメソッドの研究を、彼がリードしてアカデミアの方々と一緒になってやっていて、これも意欲的な新しい取り組みです。

ユーザーリサーチやエスノグラフィ調査など、デザインリサーチを行う私たちへの要望というものは日々変化しています。最近では、組織の中のモチベーションについて阻害要因と促進要因が何なのかを現場に入り込んで解明するといった、組織の中でのエンゲージメントに関する調査・分析の話も出てくるようになりました。

加えて社会課題の解決というテーマでは、B to Bのその先にいる生活者というところまで理解した上でのB to B to Cのソリューション提案というものも求められていて、まだ解はないのですがチャレンジを始めています。

篠原さん:
なるほど。お二人とも、これまでのエスノグラフィ的なアプローチを、経営層へのインタビューや、いろんな組織の中の問題点の中に織り込んでいるわけですね。岩木さんの場合はメソッドというところを極められようとしていたり、大堀さんの場合はまさに経営層へのリサーチをされたり、異文化の方々のいろいろなコンテクストを読み解くところにご自身のスキルを使いながら踏み込んでいく、ということをなさっている。ますます興味が湧いてきました。

――次回は、二人が現場で得た気づき、そしてこれから重要な社会課題への取り組みについて対話は深まっていきます。

画像1: [Vol.7]デザインリサーチと向き合う、人文社会科学のニュージェネレーション |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

篠原 稔和
ソシオメディア株式会社 代表取締役
NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net) 理事長
国立大学法人 豊橋技術科学大学 客員教授

「Designs for Transformation」を掲げるデザインコンサルティング・ファームであるソシオメディア株式会社の代表取締役。同時に、NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)の理事長および総務省のデザインに関わる技術顧問を兼務している。企業や行政におけるデザイン思考やデザインマネジメントに関わるコンサルティング活動、教育活動、啓発活動に従事。また、2021年に豊橋技術科学大学の客員教授に就任し、産官学民の取組や教育活動の中でのHCDの実践に取り組んでいる。最新の監訳書籍である『詳説デザインマネジメント - 組織論とマーケティング論からの探究』(東京電機大学出版局、2020年3月20日)など、現在における「デザインマネジメント」の重要性を多角的に探求するための「デザインマネジメントシリーズ」を展開中。2022年には「HCDのマネジメント」に関わる自著を出版予定。

画像2: [Vol.7]デザインリサーチと向き合う、人文社会科学のニュージェネレーション |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

原 有希
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 リーダ主任研究員(Unit Manager)

1998年、日立製作所入社。デザイン研究所、デザイン本部を経て、東京社会イノベーション協創センタにて現職。ユーザーリサーチを通じたHuman Centered Designによる製品・ソリューション開発や、業務現場のエスノグラフィ調査を通じたCSCW(Computer Supported Cooperative Work)の研究に従事。人的観点でのソリューション創生や業務改革を行っている。

画像3: [Vol.7]デザインリサーチと向き合う、人文社会科学のニュージェネレーション |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

岩木 穣
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 研究員( Senior Researcher)

2013年に日立製作所入社後、デザイン本部を経て現職。業務現場のエスノグラフィ調査などのユーザーリサーチを通じた人的観点でのソリューション創生・業務改革に取り組むとともに、そうした手法の組織的展開に向けた方法論研究に従事。近年は、デジタルソリューションが社会に広く長く受け入れられていくためにあるべき姿を探る研究にも取り組んでいる。

画像4: [Vol.7]デザインリサーチと向き合う、人文社会科学のニュージェネレーション |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

大堀 文
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 兼 基礎研究センタ 日立京大ラボ 研究員(Researcher)

日立製作所入社後、デザイン本部を経て現職。文化人類学のバックグラウンドを活かし、業務現場のエスノグラフィ調査を主とするユーザリサーチを通じた製品・ソリューション開発や、研究・事業のビジョン策定支援に従事。近年は、社会課題の解決をゴールとする生活者起点の協創手法の研究に取り組む。

[Vol.1]全ては現場に埋め込まれている。
[Vol.2]HCD(人間中心デザイン)が当たり前の世界へ
[Vol.3]HCD(人間中心デザイン)の新しい領域
[Vol.4]デザインリサーチに注入された、人文社会科学の知
[Vol.5]デザインリサーチの現場報告
[Vol.6]デザインリサーチというフィールド
[Vol.7]デザインリサーチと向き合う、人文社会科学のニュージェネレーション
[Vol.8]KPIのない社会課題へのチャレンジ
[Vol.9]ゴールを共有する二人の異なるアプローチ

This article is a sponsored article by
''.