プログラム1「社会イノベーションとコミュニティとの関わり方」
プログラム2「コミュニティ創生のためのデザイン」
プログラム3 「企業の立場でリアルなコミュニティに関わり始めて思うこと」

左から、ナビゲーターの日立 高田将吾、日建設計 吉備友理恵さん、日立 金田麻衣子
三浦半島の農家×日立のデザイナー
高田:
ナビゲーターの日立製作所 高田将吾です。「企業の立場でリアルなコミュニティに関わり始めて思うこと」をテーマに、株式会社日建設計のイノベーションセンターでプロジェクトデザイナーとして活躍されている吉備友理恵さんをゲストに迎え、日立製作所でデザイナーとして活動する金田麻衣子との対話を通じて「地域コミュニティと企業の関わり方」について掘り下げていきます。
吉備さん:
日建設計の吉備友理恵と申します。社内のイノベーションセンターで、社内外をつなぐことで新たな動きを生み出すという役割を担っています。また、国内外の共創事例を調査し、共創を可視化するためのツールとして「パーパスモデル」を考案し、『パーパスモデル 人を巻き込む共創のつくりかた』として書籍化しました。会社という枠組みにとらわれずに、さまざまな共創活動を支援しています。
金田:
日立でデザイナーをしております金田麻衣子です。本日はよろしくお願いします。サービス&ビジョンデザイン部で、フューチャー・リビング・ラボ(※)という活動を神奈川県の三浦半島をフィールドに地域の皆さんと一緒に推進してきました。
※ 人々の具体的な生活の場である地域社会から、未来をつくる活動。日立は、一般の市民をはじめ、NGOやNPO、中小の企業、政府・自治体との協創を通じ、未来の地域社会のためのビジョンづくりをめざしている。
高田:
金田さんは三浦半島に実際に入って活動する中で、興味深かったことや学びになったこと、時には大変だったこともあったと思います。まずはその辺りのエピソードを教えてください。
金田:
2019年に初めて三浦海岸の農家さんの直売所にお邪魔し、農業や地域に対する思いを伺いました。皆さん最初は、「なぜここに日立が?」という思いを持たれたはずですが、日立のビジョンデザインチームのデザイナーがなぜ三浦に来たのかをお伝えし、たくさん対話の時間をいただくことでお互いの考えを共有し、フューチャー・リビング・ラボの活動がスタートした経緯があります。

三浦半島の農家の方々と日立のスタッフによるビジョンデザイン活動の様子
わたしたちはそもそも農家さんの活動をよくわかっていなかったので、カブの収穫にご一緒させていただくところから活動を開始し、普段どんな考えを持って農業に携わってらっしゃるのかをお聞きする対話の機会を多くいただきました。これからの時代で大切なのは、社会のしくみと地域住民の方々の「関与」のあり方なのではないか。そんな思いを持って、わたしたちは、この活動を推進して参りました。
プロジェクト推進の「設計図」と「コミュニケーションツール」
高田:
金田さんのお話から、地域の方々が農業に対してお持ちの考えと、日立がデザインを通じて取り組んできたこと・取り組んでいきたいことをすり合わせ、共通の活動目的を形成していく過程が三浦半島での活動であるという印象を受けました。まさに地域と企業による「共創」の取り組みですが、ここに吉備さんが提唱される「パーパスモデル」が活かされるのかなと思います。吉備さん、「パーパスモデル」とはどのようなものかご紹介いただけますか。
吉備さん:
単なる技術の実証やサービスの検証ではなく、金田さんのお話にあったように地域の方々と大企業とがコミュニケーションをとりながら地域の課題、ひいては社会の課題をともに考えていく取り組みはまだ少なく、とても貴重な活動だと思います。双方にとって何かしら目に見えるものをベースにすることで、対話を重ねていくことを助けるツールが、こちらに示すパーパスモデルです。

まず、プロジェクトの共通目的を中心に据え、その周りに活動に関わる方々を配置する。それぞれの関係者が、どんな目的のもと、どんな役割を担っているのかがひと目でわかる。簡潔に言うと、これがパーパスモデルです。
パーパスモデルには大きく2つの特徴があります。1つが、主体性という軸で図を上下にわけている点です。図の下側が、プロジェクトに主体的に関わる「共創パートナー」。通常の業務のような企業=提供者、顧客=受益者という関係ではなく、あくまでも同じ目的意識を持っているパートナーという位置づけの方々を指します。
もう1つの特徴は、関係者の属性を企業、行政、市民、大学・研究機関・専門家の4つに色分けして表現している点です。図がカラフルであるほど、さまざまな属性の方々がプロジェクトに関わっていることになります。
いろいろな立場の方が関わっているプロジェクトをどのように進めていくべきかを考える際の設計図であり、関係者の方々と一緒に見ながら対話をしていけるコミュニケーションツールでもあるのです。

日建設計 吉備友理恵さん
日立の社員が、農家と目的を共有した瞬間
金田:
吉備さんのお話を聞かせていただいて思い出したエピソードがあります。三浦半島の農家さんを訪れるようになって1年半ぐらい経った頃、ほかの農家の皆さんに日立のメンバーを紹介していただく機会がありました。そのとき、こんなふうに紹介してくださったのです。
「この日立の人たちは、我々地域住民と一緒に、何かを考えていこうとしている。だから、彼らがすでに答えを持っているわけではない。我々に何かを売りたいわけではないから、そこは安心していいんだよ」
その言葉を聞いたとき、まさにパーパスモデルでいうところの「共通目的」に近い感覚を持ちました。

日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創センタ 金田麻衣子
それまでわたしが携わってきた企業同士のプロジェクトでは事前に目的や関係者が明確だったため、どうしたら会社員の立場で地域のみなさんと信頼関係を築くことができるのか、わかりませんでした。実際にどう地域の方々との信頼関係を構築していったかと言うと、例えば直売所のプロトタイプを地域の方々と丁寧に議論しながら試作し、実際に設置させていただいたり、農家さんとともに能動的に対話できる地域の方と対話を繰り返したりという地道な作業の積み重ねの末に、パーパスモデルで言う「共通目的」の共有に近づくことができていたのかなと思います。
地域とのコミュニケーションにおける企業の役割
高田:
企業が地域と関わっていく際に悩むのが、住民の方々とのコミュニケーションのとり方だと思います。吉備さんはどんな意見をお持ちですか。
吉備さん:
40に及ぶ国内外の共創事例を調べて見えてきたのは、一企業が力強くプロジェクトをリードしているケースはあまりないということです。成功したプロジェクトには、大きく2つのパターンがあります。1つは、そもそもいろいろな立場の方々で構成された組織が共通のパーパスのもとプロジェクトを推進していくにあたり、企業の参画やアライアンスによってもたらされるリソースを生かすパターンです。
もう1つは、企業がプロジェクト全体を俯瞰することで、コミュニティに潜在していた課題意識を拾い上げ、人と人をつないだり、ディスカッションする場をつくったり、事業として地域に組み込んだりといった取り組みをするパターンです。地域に対する企業の関わり方として、大いに可能性を感じています。

金田:
わたしたちが幸運だったのは、その農家さんが横浜市内から移住して来られた方だったので、三浦半島を外から見るという視点を持たれていたことです。人口減少がすでに始まりつつあり、農家の高齢化が進む中で、重たいダイコンの収穫を続けていくのはしんどいんじゃないか。そういった地域全体に対する危惧の視点をお持ちの方が、「住民の方々に関与し、地域のこれからを一緒に考えていきたい」という日立のビジョンデザインの活動に強く共感してくださったことが、最終的にプロジェクトを推進できたポイントだったと思います。

もちろん、毎回このような方と一緒に活動できるわけではありません。地域の方々にとっていわば“よそ者”であるわたしたち企業の人間が果たせる役割は、遠い将来について考えられる視点、その地域の方々だけでは持ちえない視点を持ったプレイヤーであることです。最終的に地域に変化を起こす原動力となるのは住民の方々同士の対話ですが、そのトリガーになれる可能性が企業にはあると思います。
企業人が身につけるべきマインドセット
高田:
地域の方々と企業に勤める人たちでは、物事を考える際の時間軸や視野がどうしても異なると思います。おそらくそこも、企業の人たちが地域の方々と触れ合っていく際に悩むポイントなのかなと思います。この悩みを解決するため、わたしたち企業人はどのようなマインドセットを持つべきでしょうか。

日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創センタ 高田将吾
吉備さん:
共創の実践者の方々には、2つの共通点があります。1つは、地域の課題に関するさまざまな異なる文脈を「束ねる」という意識を持っていること。もう1つは、地域のだれもが参加できる「体験の共有」の機会づくりに積極的に取り組んでいることです。
一例を挙げると、東京の下北沢では今、市民の方々が「緑を自治する」という活動が大きくなっています。活動の発端は「まちに今、緑が少ない。だから緑を増やしたい。緑に囲まれた生活が欲しい」という市民自らの課題意識でした。その思いを企業の人たちが受け取り、再開発の中で課題解決に取り組んでいます。こうした動きは、企業が単純に、緑の多いまちづくりを進めるだけでは成り立ちません。地域の方々が関わることで、企業が緑を管理するコストが下がる。企業がイベントを仕掛けなくても、地域の方々によって自立的にまちのにぎわいが生まれる。市民だけでなく企業側にとってもメリットがあるさまざまな取り組みを、「緑を自治する」という1つの文脈に束ねることで成り立った活動です。

今、下北沢の方々の間では、剪定した植物の枝や葉をコンポストで堆肥に変え、それを使って野菜をつくるといった、循環型の生活への取り組みが生まれています。この動きからわたしが思うのは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)やサステナビリティを住民の方々が実践をしているという文脈で、下北沢が先端的な地域になっていく可能性を秘めていることです。市民一人ひとりが目の前の課題に対して取り組んでいる活動を、1つの文脈に束ねながら大きくしていく。さらに、まちの緑の剪定など、だれもが参加できるイベントを定期的に開催することで、みんなが体験を共有できる機会を設ける。こうした視点が企業に求められているのではないでしょうか。
「複眼」で地域を見る
金田:
わたしたちはまさに、今お話しいただいたことに挑戦している段階だと考えています。企業が考えたしくみやサービスが、地域で生活している皆さんにどう関与していくのかを、企業の側ではなく地域の方が想像できる状態になっていない限り、地域のために企業が何か新しいしくみやサービスを考えるという話は成り立たないと思います。
地域の方々と関わっていく上でわたしが感じているのは、企業には「複眼」が求められていることです。地域が抱える直面している課題、今、自分の目の前で起きている出来事など、地域の方々との対話を通じて入ってくるたくさんの情報を知る必要があります。その一方で、「長期的に見ると、この地域の方々の価値観はこう変わっていくのではないか」「この地域はこういう姿をめざす可能性はないか」と考える視点も欠かせません。

企業側の視点と地域の実態には乖離があるので、いざ地域の方々が生活している場にお邪魔すると、「今、地域のどなたに対して何の話をすべきか、どこをめざして、今何をすべきか」をその都度判断することに難しさを感じていましたが、三浦半島での活動を通じて、「目前で起きている地域の問題」と「これから起こるであろう地域の変化」についての思考が自分の頭の中を行き来することの大切さ、面白さに気づきました。

また、地域の方々との対話では、「日立はどういう考えなのか。そしてあなた自身はどう考えるのか」を問われることが多くあります。そういった意味での「複眼」を持つことも心掛けていきたいと考えています。
吉備さん:
SDGsに代表されるような世界共通の目的というものは、なんとなく自分からは遠い感じがするじゃないですか。それを、個人の思いと結び付けて考えることができたら、自分事になるはずなのです。地域においてどのような共通目的を描いていくかという対話が、自分と社会がどうつながっていくかを考えるきっかけになると思います。いろいろな立場の人たちと、パーパスモデルを囲みながら、あるいは畑で農作業を体験しながら、一緒に語っていける。そういう機会に身を置くことが、企業で働く人たちにとって大きな意味を持つはずです。
高田:
本日は、吉備さんが提唱されるパーパスモデルを通じてさまざまな関係者との間で目的を共有することの大切さ、そして地域におけるビジョンデザインの活動の中で金田さんが得た学びを共有できました。お二人とも、ありがとうございました。
協創の森ウェビナー:第11回 対談「企業の立場でリアルなコミュニティに関わり始めて思うこと」
www.youtube.com
吉備友理恵(きび ゆりえ)
株式会社日建設計 イノベーションセンター プロジェクトデザイナー
1993年生まれ。神戸大学工学部建築学科卒業。東京大学大学院新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻修士課程修了。株式会社日建設計 NAD室(Nikken Activity Design Lab)に入社し、一般社団法人Future Center Alliance Japan(FCAJ)への出向を経て現職。都共創を概念ではなく、誰もが取り組めるものにするために「パーパスモデル」を考案。2022年、共著『パーパスモデル 人を巻き込む共創のつくりかた』(学芸出版社)を上梓。

金田麻衣子
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
社会イノベーション協創センタ 主任デザイナー
2004年日立製作所入社後、医療製品や金融製品のUI・UXデザインを担当ののち、顧客協創における方法論研究や新事業創生プロジェクトに従事。2019年より、現在のサービス&ビジョンデザイン部に在籍、未来洞察ワークショップによる協創活動や、将来の地域について、地域の場で生活者と共に活動・模索するフューチャー・リビング・ラボを推進。

高田将吾(動画内ナビゲーター)
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
社会イノベーション協創センタ
サービス&ビジョンデザイン部 デザイナー(Associate Designer)
日立製作所に入社後、都市・交通領域におけるパートナー企業との協創をサービスデザイナーとして推進。
プログラム1「社会イノベーションとコミュニティとの関わり方」
プログラム2「コミュニティ創生のためのデザイン」
プログラム3 「企業の立場でリアルなコミュニティに関わり始めて思うこと」



