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日立製作所研究開発グループによるオンラインイベント「協創の森ウェビナー」。気候変動問題の解決に向け、主要各国が2050年までに脱炭素へのトランジション実現をめざす中、第16回目の今回はテーマを「脱炭素へ導く環境関連ファイナンス」とし、環境関連ファイナンスの可能性について議論を深めました。プログラム2では「環境関連ファイナンスを後押しするデジタルプラットフォームの研究」と題し、エネルギーソリューション事業統括本部 技師 タマヨ エフラインが、課題先進地域であるヨーロッパでの経験と研究の背景、概要についてお話します。また、国内における研究の現在の進捗と今後の展望について、サービスシステムイノベーションセンタ リーダ主任研究員 親松昌幸がお話します。

プログラム1「GXリーグで描かれた将来像と鍵を握る環境関連ファイナンス」
プログラム2「環境関連ファイナンスを後押しするデジタルプラットフォームの研究」
プログラム3 パネルディスカッション「グリーン・デジタル・トラック・ボンドの開発と今後の展望」

画像: 日立ヨーロッパでの経験を踏まえながらエネルギーとファイナンスの関係性について語るエネルギーソリューション事業統括本部 技師 タマヨ エフライン

日立ヨーロッパでの経験を踏まえながらエネルギーとファイナンスの関係性について語るエネルギーソリューション事業統括本部 技師 タマヨ エフライン

エネルギーとファイナンスの両輪を考える

タマヨ:
私はかつて、エネルギーの研究者として、再生可能エネルギーの効率性を向上する技術開発を通じてサステナビリティに貢献したいと考えていました。しかしそこで、高度な技術があるにもかかわらず技術が十分浸透してないという問題に気づきました。

2016年に日立ヨーロッパに出向した私はグリーンプロジェクトに関連するステークホルダーと広く関わり、ファイナンスこそが技術浸透の鍵となる、つまり、エネルギーとファイナンスの両輪を考える必要性があると思いおよびました。そして私は、再生可能エネルギーの導入をはじめとしたグリーンプロジェクトへの投資を増やすことに日立が貢献することで、高度な技術も同時に普及できると思いました。

ちょうどこの頃、ヨーロッパではサステナビリティとファイナンスを結びつけようとする動きが活発化していました。

画像: サステナブルファイナンス市場の成長について説明するタマヨ

サステナブルファイナンス市場の成長について説明するタマヨ

グラフにありますように、2016年から2021年にかけてグリーンボンド(企業や地方自治体等が、国内外のグリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券)をはじめとしたサステナブルファイナンス市場は10倍以上にもなり、パンデミックの影響もほとんど受けずに成長しています。投資対象であるグリーンアセット(環境配慮型の設備またはシステム)に関しては、再生可能エネルギーだけでなく、省エネルギー設備などが導入されたグリーンビルや、電気自動車や高効率な鉄道インフラなどのグリーンモビリティなど多岐にわたっています。

その後、専門家とのインタビューを重ね、サステナブルファイナンスに関わるステークホルダーの抱えるそれぞれの問題を明らかにすることができました。

まず、資金を受ける債券発行体など事業会社にとっては、レポート作成コストやプロジェクト創生などの負担が大きいこと。次に、資金を提供する投資家にとっては、定量的な情報が限定され、案件同士の比較が困難なことが問題として挙げられます。また、外部レビューの検証業務も負担になっており、環境目標を設定した金融商品に関しては、その目標設定も難しくなっています。

画像: サステナブルファイナンス市場が抱える現状の課題とは

サステナブルファイナンス市場が抱える現状の課題とは

全体的な共通課題としては、データ改ざんやグリーンウォッシュのリスクも挙げられます。こういった課題を解決し環境投資を加速するために、私達はサステナブルファイナンスプラットフォームの研究をヨーロッパで開始しました。この研究では、グリーンアセットのデータをプラットフォームに集めることで、プロジェクト運営体や債券発行体は、信頼性の高いレポーティングを効率化でき、投資家による投資や融資が加速することを期待しています。また、外部レビュー機関は、改ざんのないデータの検証を簡単に行うことができると考えています。

サステナブルファイナンスプラットフォームが提供する価値

サステナブルファイナンスプラットフォームが提供する価値は、大きく2点です。1点目がモニタリング、レポーティング、第三者検証業務の削減によって、効率的なレポーティングとアグリゲーションを行えるようにすること。2点目が、デジタル技術を使用した検証で透明性を高め、KPIの比較性を向上することによって、投融資の意思決定を高度化することです。さまざまな設備のデータは、日立グループがエネルギーや鉄道、水、ビル・ビジネスなどで培ったOTノウハウや日立の既存の環境情報管理ソリューションであるEcoAssist-Enterpriseなどを通して集められ、ブロックチェーン基盤に蓄積されます。

画像: サステナブルファイナンスプラットフォームを取り入れることでどんな価値が生まれるのか

サステナブルファイナンスプラットフォームを取り入れることでどんな価値が生まれるのか

これによって、予測値ではなく実測値で、グリーンなエネルギーの発電量や省エネによる削減量、環境貢献度などを知ることができます。また、目標値を持った金融商品に関しては、データからKPIを算出し、プロジェクトのKPIをまとめてレポートを作ることもできます。

このようにモニタリングやレポーティングに使用した生のデータにもアクセスできるため、検証業務も容易になります。そして、それぞれのステークホルダーは、必要な情報にアクセスできるようになるため、プロジェクトを比較したり、さまざまな意思決定がしやすくなります。

画像: サービスシステムイノベーションセンタ リーダ主任研究員 親松昌幸

サービスシステムイノベーションセンタ リーダ主任研究員 親松昌幸

グリーンボンド、サステナビリティ・リンク・ローンの取り組み内容

親松:
ここからはサステナブルファイナンスプラットフォームに関して、さまざまなステークホルダーの皆さまと実際に取り組んでいる内容を紹介します。私たちは現在、国内のグリーンボンドとサステナビリティ・リンク・ローンへの適用を推進しています。最初にグリーンボンドでの取り組みについて紹介します。

昨年度、JPXさまが発行された国内初の取り組みであるグリーン・デジタル・トラック・ボンドで、サステナブルファイナンスプラットフォームの一部機能を採用していただきました。

画像: グリーン・デジタル・トラック・ボンドのスキームについて解説する親松

グリーン・デジタル・トラック・ボンドのスキームについて解説する親松

左側のスキーム図に示していますが、今回のグリーン・デジタル・トラック・ボンドの投資先となる複数の再生エネルギー発電設備から発電データを収集し、日立がCO2削減量の換算までを実施します。その結果をBoostryさまのグリーンボンドトークンに記録し、JPX総研さまが開発された投資家向けレポート画面に連携します。一連の自動化の仕組みにより、発行体や投資家のモニタリングやレポーティングに関する業務負荷を大幅に低減できることを確認しました。

また、本件では、このグリーン・デジタル・トラック・ボンドによって資金調達された、JPXさま主導の実際の再生可能エネルギーのプロジェクトへの適用も、関係者のみなさまと共に実証実験として実施いたしました。次に、その実証実験に用いたシステムの詳細です。今回の実証では複数の太陽光発電所およびバイオマス発電所から1時間単位で発電データを収集し、日立のプラットフォームにおいてCO2排出削減量の換算およびブロック制の蓄積を実施しています。この取り組みにつきましては、プログラム3のセッションで詳しく紹介させていただきます。

続いて、サステナビリティ・リンク・ローンでの取り組みについて紹介します。

茨城県日立市にある日立の大みか工場に協力者をお招きし、実証ワークショップを実施しました。日立市で製造業を営んでいらっしゃる今橋製作所さまと相鐡さま。および茨城県の地域金融機関として常陽銀行さま、そして、サステナブルファイナンスに関する評価業務を行われている格付け投資情報センターさまにご参加いただきました。

本実証では、常陽銀行さまが製造業社さまに対して脱炭素等の環境意識を高め、その後押しのために、今回のお題であるサステナビリティ・リンク・ローンを発行し、格付け投資情報センターさまが第三者評価を実施することを想定しました。その際の業務シナリオを検討し、私どものサステナブルファイナンスプラットフォームを活用したロールプレイング、さらにその結果についてのフィードバックをいただくところまでを実施しました。

続いて、今回構築させていただいたシステム概要を紹介します。

画像: 日立は大みか工場の実データを活用し、主に第三者検証業務を効率化する機能を検証した

日立は大みか工場の実データを活用し、主に第三者検証業務を効率化する機能を検証した

今回、協力者をお招きした日立の大みか事業所では、弊社の環境情報管理ソリューションであるEcoAssist-Enterpriseを活用して、全ての環境にまつわるデータを蓄積しています。そこで、我々は開発したサステナブルファイナンスプラットフォームにそのデータを連携し、常陽銀行さまと製造業者さまの間で取り決めたサステナビリティリンクローンの融資条件となるCO2排出削減量などの野心的な目標「SPTs(Sustainability Performance Targets)」の設定を支援する機能、およびその後の達成状況をブロックチェーンで透明性高く共有することで、第三者検証を支援する機能を開発しました。今回の実証を通じて我々の構築したシステムによる業務負荷低減等の有用性を確認することができました。

一方で、参加いただいた皆さまから要望や課題、そして将来的な期待などをたくさんいただきました。いただいたコメントを受け止めて、我々のプラットフォームを進化させていきながら、社会実装に向けて邁進していきたいと思います。

サステナブルファイナンスプラットフォームの展望

続いて、今後の展望についてご紹介いたします。今回ご紹介した実証を通じて再生可能エネルギーに関するサステナブルファイナンスの有効性を確認しましたが、今後もグリーンビルや植林などのさまざまなグリーンプロジェクトに対応すべく開発を推進しています。

画像: サステナブルファイナンスプラットフォームに向けて今後の展望と意欲を示す親松

サステナブルファイナンスプラットフォームに向けて今後の展望と意欲を示す親松

また、今回の二つの実証実験を通じてサステナブルファイナンスに関するメジャメント(自動モニタリング)、レポーティング(自動レポーティング)、ヴェリフィケーション(第三者検証支援)、いわゆるMRV※プロセスを支援できることが確認できました。今後は環境価値を経済価値への転換を果たすべく、クレジット化を支援していきたいと思います。こちらのクレジット化については、今年度に環境省が進められるブロックチェーン技術を活用したJクレジットの簡易創出に関する実証事業に協力事業者として参画させていただくことになりました。今後も引き続き機能拡張し、我々が提案するMRVCサービスに提供に向けて尽力していきます。

※MRV:Measurement, Reporting and Verification の略語であり、「温室効果ガス排出量をはじめとした環境インパクトの測定、報告及び検証」のことを指す

最後に、このウェビナーをお聞きいただいている皆さまへのお願いです。私たちが描いているサステナブルファイナンスプラットフォームは、今回の事例でご紹介させていただいた通り、日立単独では構築することができず、さまざまなステークホルダーの皆さまとの協創が必要になります。

脱炭素、その先の循環型のグリーンな世界の実現のためのエコシステムの実現に向けて共感いただける方がいらっしゃいましたら、忌憚のないご意見をお願いいたします。我々は皆さまの期待に応えるべく、本取り組みをLumadaソリューションの一環として、技術の研鑽を続けていきます。

画像1: 日立が取り組むデジタルプラットフォームの現在位置と今後の展望│協創の森ウェビナー第16回 「脱炭素へ導く環境関連ファイナンス 」プログラム2「環境関連ファイナンスを後押しするデジタルプラットフォームの研究」

タマヨ エフライン
日立製作所 エネルギーソリューション事業統括本部 技師

再生可能エネルギー導入に向けたシステムや市場分析に基づくサステナブルファイナンスプラットフォームの開発を経て、現在、海外の電力サプライチェーン向けのデジタル事業開発推進に従事。

画像2: 日立が取り組むデジタルプラットフォームの現在位置と今後の展望│協創の森ウェビナー第16回 「脱炭素へ導く環境関連ファイナンス 」プログラム2「環境関連ファイナンスを後押しするデジタルプラットフォームの研究」

親松昌幸
日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
サービスシステムイノベーションセンタ デジタルエコノミー研究部 リーダ主任研究員

2003年に入社後、デジタル家電、機械学習、ブロックチェーンに関連するアプリケーションの研究開発に従事。現在はサステナブルファイナンスPF等のESG×金融サービスに関する研究開発を担当。

プログラム1「GXリーグで描かれた将来像と鍵を握る環境関連ファイナンス」
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