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日立製作所研究開発グループが実施する「協創の森ウェビナー」の今回のテーマは「脱炭素へ導く環境関連ファイナンス」。プログラム3では「グリーン・デジタル・トラック・ボンドの開発と今後の展望」をテーマに、株式会社JPX総研 フロンティア戦略部 統括課長 高頭俊さん、金融第二システム事業部 担当部長 中川雅之、サービスシステムイノベーションセンタ 研究員 小林秀行が、グリーン・デジタル・トラック・ボンドという新しい金融商品の開発ストーリーと今後の展望について意見を交わし合います。

プログラム1「GXリーグで描かれた将来像と鍵を握る環境関連ファイナンス」
プログラム2「環境関連ファイナンスを後押しするデジタルプラットフォームの研究」
プログラム3 パネルディスカッション「グリーン・デジタル・トラック・ボンドの開発と今後の展望」

画像: 左から、モデレーターの池ヶ谷和宏、サービスシステムイノベーションセンタ 小林秀行、株式会社JPX総研 高頭俊さん、金融第二システム事業部 中川雅之

左から、モデレーターの池ヶ谷和宏、サービスシステムイノベーションセンタ 小林秀行、株式会社JPX総研 高頭俊さん、金融第二システム事業部 中川雅之

グリーン・デジタル・トラック・ボンド開発の背景と実証

池ヶ谷:
今回は、グリーン・デジタル・トラック・ボンドの開発と今後の展望と題してパネルディスカッションしていきます。まずは自己紹介からお願いいたします。

高頭さん:
日本取引所グループ(JPX)のデジタル戦略を担っている子会社・JPX総研で、主にフィンテックやデータビジネスなどの新規事業開発を行っています。

中川:
金融の分野で仕事をしており、ここ数年はデジタル技術を活用した新しいサービス事業の企画・推進に取り組んでます。

小林:
エネルギー・環境分野、金融分野における新事業の研究開発に従事し、近年は欧州の研究部門が立ち上げたサステナブルファイナンスプラットフォームの国内の事業開発に携わっています。

池ヶ谷:
最初のトピックとして、グリーン・デジタル・トラック・ボンドという新しいデジタル環境債の開発の背景や実証について、高頭さんから説明をお願いします。

高頭さん:
私は元々フィンテックを扱っている部門で、長年に渡りブロックチェーンで何ができるか、という研究をしてきましたが、その間に日本国内の金融商品取引でセキュリティトークンというブロックチェーンテクノロジーを利用した金融商品が定義されました。JPXとしてはセキュリティトークンに何ができるのか、そして近年マーケットが拡大しているESG債と掛け合わせることで、世の中の役に立てることがないか、と考えてきました。

今回、日立さんと一緒に共同で開発させていただいたのが、グリーン・デジタル・トラック・ボンドという商品になります。グリーンボンド投資は非常に拡大していますが、拡大しているが故に、発行体や投資家の方々それぞれに課題があることがわかっています。

例えばグリーンボンドを発行する発行体の方々は、グリーンボンドのプロジェクトを使ってグリーンなプロジェクトにお金を投じます。その資金調達と引き換えに、自分がやっているプロジェクトがいかにグリーンだったかを示すレポートを、投資家に提出する必要があります。

画像: グリーン・デジタル・トラック・ボンドの開発に至った背景について語る高頭さん

グリーン・デジタル・トラック・ボンドの開発に至った背景について語る高頭さん

高頭さん:
例えばJPXが実際に発行したグリーンボンドでは、ソーラーパネルを用いてグリーンなエネルギーを作った効果でCO2がどれぐらい削減されたかを投資家に伝える必要がありますが、CO2削減量を毎日データとして出すのはなかなか大変です。そこで日立さんの技術を使い、発電所のスマートメーターから自動的にデータを連携させ、そのデータから化石燃料対比でどれぐらいのCO2が削減されたかを自動計測できるシステムを作っていただきました。

一方、投資家の方々は年に1回、発行体から届くレポートを待っている状態で、データが適時性に欠けるという課題があります。また、複数の会社にグリーン投資を行っていると、会社ごとに出てくるフォーマットや載せてあるホームページが違うため、それらのデータを自分で持ってきて集積することが大変です。そこで、集めたデータを投資家の方々に見ていただけるWebサイトも作ることで、投資家の方々の手間を削減できるシステムを作り上げました。これが今回の実証実験の内容です。

池ヶ谷:
まさにセキュリティトークンという先進的なデジタル技術とグリーンボンドを掛け合わせた仕組みですね。日立は自動的にデータを収集し、そこから環境貢献度を導き出す役割を担いましたが、今回、なぜ日立を選んだのか教えていただけますか。

高頭さん:
JPXが発行したボンドはソーラーパネルや発電所からデータを連携するプロジェクトでしたが、今後発電所以外のプロジェクトが出てきた時に、日立さんはさまざまなプロジェクトからデータを持ってくることができる幅広さに強みをお持ちだと考えました。このスキームはなかなか好評なので、多くの発行体の方々に使っていただきたいと考えています。

中川:
ありがたいです。日立にはさまざまな事業部門があり、IoTと呼ばれるようにITの世界とOTの世界を結ぶことができる会社です。社内でもグリーンというキーワードで横の連携が進んでいるので、今後多くの施設からデータを集め、分析して結果をレポートにすることができると思っています。

画像: 実証では実際のオペレーションをやってみたからこそ見えてきた課題があり、解決していくことができたと語る中川

実証では実際のオペレーションをやってみたからこそ見えてきた課題があり、解決していくことができたと語る中川

実証したからこそ得られた知見と、外部からの反応

池ヶ谷:
では次に、実証において得た知見や難しさについてお聞かせください。

高頭さん:
今回は本当にボンドを発行して投資家の方に購入していただき、日立さんや引受証券さんと一緒に事務フローを回してみる、という一連の流れを実際にできたことが良かったと思っています。

実証なので机上で実験したり、投資家さんに購入していただいたことにしてオペレーションをすることもできるかもしれませんが、実際にやってみるとやはり、想定外のことがたくさん起きました。我々が持っている太陽光発電所からのデータ連携の部分でも予想外のことがいろいろと起こり、大変な面もありましたが、投資家の方が実際に購入する際の、投資家、証券会社、信託銀行の方々のオペレーションのフローを確立することができて良かったです。

小林:
日立は発電設備から発電量データを取得する部分を担当しましたが、監視システムのメーカーごとにデータの精度やシステム連携のインターフェースが異なっていたり、メーカーの連携仕様書だけでは不明な点もありました。このようにデータを取得するにあたり難しい部分が多々ありましたが、今後連携する際にはどこを事前に確認しておくべきかといったノウハウを蓄積できました。

中川:
私たちは日頃から、金融分野においてシステムインテグレーション(SI)事業やソリューション事業を展開していますが、今回のスキームはとても大きく、世の中で初発となる取り組みだったことから、投資家、発行体、JPX、JPX総研、そして私たちが深くビジネスの仕組みを理解する必要がありました。絵に描いた餅ではなく、実際にどういうオペレーションが行われ、どこに問題があり、問題を解決するにはどうしたらいいかを見つけていくのは大変ではありましたが、その分より深い知見を取得することができたと思います。なにより、関係者の方々と一緒になって解決することができ良かったと感じています。

池ヶ谷:
完全に新しいスキームだからこそ、さまざまな視点から確認し合って問題を解決する面白さ、やりがいがあったということですね。

中川:
一度こういう進め方を経験すると、グリーンボンド以外のカーボンクレジットなどに話が及んだ際にも、汎用的なノウハウ、ナレッジとして生かせると思っています。大きな枠組みで仕事をさせていただけたことは非常に大きな経験です。

池ヶ谷:
公開後、投資家の方々や事業会社、外部レビュー機関などからはどのような反応がありましたか?

高頭さん:
最も反応が良かったのは投資家の方々ですね。JPXとしてグリーンボンドを発行するのでこのスキームで買ってくださいと伝えると、多くの方から「手間と時間を削減してくれるこういうソリューションを求めていた」という声をいただくことができました。

また、投資家などのプレイヤーだけでなく、環境省など第三者の方からも、グリーン・デジタル・トラック・ボンドといったスキームそのものを高く評価いただいています。このスキームが、日本のサステナブルファイナンスの発展に貢献していることを評価いただいたと思っています。

池ヶ谷:
日立側の反響はどうでしたか?

中川:
ニュースリリースの発表、そしてカンファレンスで当社のトップが紹介したこともあり、多方面のお客さまから「どのようなものを作られたんですか?」と問い合わせをいただき、ご説明に伺う機会が増えました。やはり実際にやってみた、ということが強みなのだと思います。

小林:
研究開発部門の中でも、ニュースリリースなどで情報がオープンになると、全く違う分野の研究員の方と会話が始まることもありました。新たなコラボレーションにつながる芽が見えてきたと感じています。

画像: 研究会を通じて、投資家もレポート作成などで負荷を抱えていることを知ることができたと語る小林

研究会を通じて、投資家もレポート作成などで負荷を抱えていることを知ることができたと語る小林

グリーン・デジタル・トラック・ボンドの普及に向けて立ち上げた研究会

池ヶ谷:
今回、グリーン・デジタル・トラック・ボンドを普及する取り組みとして研究会を立ち上げ実施したそうですね。研究会の取り組みについても教えてください。

高頭:
JPXのグリーン・デジタル・トラック・ボンドが発行されたのが昨年の6月です。一段落した9月に研究会を立ち上げ、投資家、発行体候補の方々、その引受の証券会社、信託銀行、グリーンボンドSG債に関わるエコシステムの方々など64社をお招きしました。まずはグリーン・デジタル・トラック・ボンドを知っていただくことから始め、さらにそれを活用してもっと何か面白いこと、世の中の役に立つことができるのではないか、と議論を重ねました。

その中でいろいろなアイデアも出ましたし、発行体候補の方々からは「こんな商品があるとは知らなかった。投資家の方々にIRとして訴える一つのツールになるかもしれない」というお話もいただきました。

一方でまだ残っている課題についても議論を深めました。一番大きいのは、源泉徴収不適用の特例についてです。特に金融機関の投資家に対してセキュリティトークンの社債を購入いただいた際、普通の社債の場合は利子に対して源泉徴収されないという特例がありますが、セキュリティトークンはまだ新しい商品のために適用されていません。一旦徴収されてしまうと今までの金融商品とはオペレーションが変わってしまうので不便だ、という声をいただきました。

こうした研究会での議論を今年の春に報告書の形で公表したので、商品の周知を進めながら課題解決に向けて取り組みたいと考えています。

池ヶ谷:
この研究会には日立も参加していましたが、その中でどんな気づきを得ましたか。

小林:
まずは参加企業の多さや多様性と、その方々の関心の高さにとても驚きました。また、私たちがサステナブルファイナンスプラットフォームを考えていたときには発行体企業の課題を中心に考えていましたが、投資家の方々もレポートの作成などで負荷を抱えていることは大きな学びになりました。

中川:
私個人としては金融機関の方々のお話を中心に伺えると考えていましたが、グリーン・デジタル・トラック・ボンドをどう活用していくかという発行体企業や投資家の課題も幅広く、赤裸々に意見をいただくことができました。それが、この仕掛けを使った新たなユースケースのヒントになると思っており、とても参考になりました。

池ヶ谷:
新しいことに取り組む時には、その輪を広げていくために、研究会などのスキームを使って、エコシステムを広げていくのはとても大事だということですね。

画像: パネルディスカッションの最後には、これからもグリーン・デジタル・トラック・ボンドの拡大に向けて動いていこうと意欲を示しあった

パネルディスカッションの最後には、これからもグリーン・デジタル・トラック・ボンドの拡大に向けて動いていこうと意欲を示しあった

グリーン・デジタル・トラック・ボンドを国内から海外へ

池ヶ谷:
では最後に、今後の展望や野望などをお聞かせください。

高頭さん:
研究会を通じて多くの方にこのグリーン・デジタル・トラック・ボンドという仕組みを伝えることができましたが、まだまだ知らない方もたくさんいるので、今後も広く周知することに力を注ぎます。また、現時点ではJPXが発行した後に発行が続く案件が見えているわけではないので、より多くの方たちに興味を持ってほしいです。

もう少し野望的なことを言うと、投資家や発行体の方々が抱えている課題は国内に閉じた課題ではないので、海外でもこの仕組みを活用してもらえるといいなと思っています。

池ヶ谷:
グリーンのESG投資に大きなパワーを持っている欧州に可能性があるのかなと思いますが、どうでしょうか。

高頭さん:
欧州にも先進的だからこその課題があり、欧州以外の国にはもっとキャッチアップしたいという方たちもいると思いますので、どちらにもアピールしていきたいです。

中川:
エコシステムを拡大することは、ユースケースを増やすことそれらを繋いでいくことだと思っており、金融機関が牽引していく世界と、イノベーショントランジションを担う企業が引っ張っていく世界があると考えています。弊社は金融分野の他、多くの領域で事業を展開しております。それらをうまく組み合わせることでエコシステムを拡げ、世の中に提供する付加価値を高めていきたいと考えています。

池ヶ谷:
中川さんはその他、環境価値を経済価値に転換するところにもチャレンジしたいと聞いています。

中川:
直近はグリーンボンドのお話がありましたが、さらに一歩踏み込み、グリーンボンドの活用により生み出されたCO2削減などの環境価値を、カーボンクレジットという経済価値に変換してうまく使うところに手を拡げていきたいと考えています。さらに言うとCO2を吸収する側の話もあるので、削減と吸収という二つの側面から考えていきたいと思います。

小林:
グリーン・デジタル・トラック・ボンドを拡大していくためには、対応できる環境配慮型の設備の種類を拡大していかなければいけないと考えています。そこで、日立や他社の技術を集結して実現していきたいと考えています。さらには、技術だけではなく、ビジネスエコシステムの設計等、ビジネスとの両面でこの分野を牽引できるように頑張っていきたいです。

池ヶ谷:
気候変動をはじめとする環境問題は、1社の製品やサービスだけでは到底解決できない非常に大きな課題です。それを解決するためには多様なステークホルダーの方を巻き込んで、今回のようにある種のエコシステムを作ったり、実際に削減していかなければならない事業会社さんにグリーン・デジタル・トラック・ボンドのような新しい金融手法を使っていただいたりしながら、グリーンなイノベーションを前向きに実践していくことが非常に大事ですね。

画像1: 新しいデジタル環境債の開発で見えてきたこと│協創の森ウェビナー第16回 「脱炭素へ導く環境関連ファイナンス 」プログラム3 パネルディスカッション「グリーン・デジタル・トラック・ボンドの開発と今後の展望」

高頭俊
株式会社JPX総研 フロンティア戦略部 統括課長

株式市場制度デザイン、海外投資家営業等を経て、Head of FintechとしてJPX総研の新規ビジネス開発を担う。顧客の課題をデジタル技術を活用して解決することに挑む。デジタル環境債に加えて、個人投資家向け株式データ配信サービス「J-Quants API」の開発を担う。

画像2: 新しいデジタル環境債の開発で見えてきたこと│協創の森ウェビナー第16回 「脱炭素へ導く環境関連ファイナンス 」プログラム3 パネルディスカッション「グリーン・デジタル・トラック・ボンドの開発と今後の展望」

中川雅之
日立製作所 デジタルシステム&サービス 金融ビジネスユニット 金融第二システム事業部 金融システム第一本部 担当部長

日立製作所入社後、金融領域においてリスク管理、財務・管理会計、マーケティングなど多岐にわたる業務分野においてシステム開発の上流工程を中心に従事。DX技術の活用に向けた取り組みの第一弾として、研究部門との協働によりAI技術の開発や実用化を推進。現在は主に環境を中心としたサステナビリティに関わる新たなデジタルサービスの開発・推進に従事。

画像3: 新しいデジタル環境債の開発で見えてきたこと│協創の森ウェビナー第16回 「脱炭素へ導く環境関連ファイナンス 」プログラム3 パネルディスカッション「グリーン・デジタル・トラック・ボンドの開発と今後の展望」

小林秀行
日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 サービスシステムイノベーションセンタ デジタルエコノミー研究部 研究員 

日立製作所入社後、産業分野、エネルギー・環境分野におけるシステム設計・開発に従事。近年は、エネルギー・環境分野と金融分野にまたがる新事業の研究開発を推進。

画像4: 新しいデジタル環境債の開発で見えてきたこと│協創の森ウェビナー第16回 「脱炭素へ導く環境関連ファイナンス 」プログラム3 パネルディスカッション「グリーン・デジタル・トラック・ボンドの開発と今後の展望」

池ヶ谷和宏
日立製作所 研究開発グループ サステナビリティ研究統括本部
プラネタリーバウンダリープロジェクト 主任デザイナー(Design Lead)

日立製作所入社後、エネルギー、ヘルスケア、インダストリーなど多岐にわたる分野においてUI/UXデザイン・顧客協創・未来洞察に従事。日立ヨーロッパ出向後は、主に環境問題を中心としたサステナビリティに関わるビジョンや新たなデジタルサービスの研究を推進している。

プログラム1「GXリーグで描かれた将来像と鍵を握る環境関連ファイナンス」
プログラム2「環境関連ファイナンスを後押しするデジタルプラットフォームの研究」
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