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株式会社ユーザベースが運営する技術マーケティングプラットフォームSPEEDA R&Dが主催するオンラインセミナーに、研究開発グループ デザインセンタ長の谷崎正明が登壇しました。今回のレポートでは、「日立研究開発の現場から、社会イノベーション事業創出の最前線に迫る」と題して、7月25日に協創の森から配信されたオンラインライブの様子をお届けします。Vol.1では、株式会社ユーザベースの伊藤竜一さん、半澤瑞生さんとともに、日立の「協創」、社会イノベーションの歩みについて谷崎が語ります。

[Vol.1]社会イノベーション事業を支える場と方法論
[Vol.2]協創のカギはビジョンの共有と関係性の構築
[Vol.3]地域に入り、未来の社会ニーズを捉える

画像: セミナーのスタートは日立の研究開発拠点「協創の森」の紹介から。和やかな雰囲気で始まった。

セミナーのスタートは日立の研究開発拠点「協創の森」の紹介から。和やかな雰囲気で始まった。

協創の森から事業創出のいまを語る

半澤さん:
株式会社ユーザベースが運営する「SPEEDA R&Dセミナー」がお届けするオンラインセミナー、本日はいつものスタジオを飛び出して、東京都国分寺市にある「協創の森」からお届けします。

日立製作所の研究開発の現場から社会イノベーション事業創出の最前線に迫ります。本日のゲストは日立製作所の谷崎正明さんです。谷崎さん、どうぞよろしくお願いいたします。

谷崎:
研究開発グループ デザインセンタの谷崎と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

半澤さん:
こちらは「協創の森」という名前の通り、本当に森の中にあるんですね。日差しに透ける緑が本当に綺麗ですが、この施設の設立自体はいつ頃ですか。

谷崎:
今から80年ほど前の1942年に中央研究所として設立されたもので、2019年に新たなイノベーション創生を加速するための研究開発拠点としてリニューアルオープンしました。
協創の森オープン時、わたしは中央研究所の企画室長としてこちらにおりましたが、その後、デザインセンタに異動になり、以来ずっと協創の森開設時に新設した協創棟で働いています。

半澤さん:
なるほど。谷崎さんは日立のイノベーションを牽引する存在として、さまざまな取り組みをされているとお聞きしているので、後ほどお話をうかがわせていただくのが楽しみです。

伊藤さん:
こんにちは、ユーザベースの伊藤と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
協創の森には以前もお邪魔したことがあるのですが、今回セミナーという形でいろいろなお話を伺えるのがとても楽しみです。

協創の森とNEXPERIENCE

半澤さん:
社会イノベーション事業を実現されるために、どのように協創の森での活動を設計し、実際のプロジェクトに落とし込まれてきたのでしょうか。

谷崎:
まずは日立全体のことからお話しますと、ちょうどリーマンショックの影響で経営危機に陥った時期に、社会イノベーション事業の方向に大きく舵を切りました。2015年に、研究開発部門全体で大規模な組織改編があり、デザイン本部と、横浜研究所、中央研究所、日立研究所にあった研究機能の一部が社会イノベーション協創センタという新しい組織に統合され、情報サービスの研究開発に携わる研究者や人間中心に考えてきたデザイナーなどのメンバーがここに集結し、事業開発を対象とする研究を実施することになりました。その後、協創のさらにその先、利用する人の立場に立って価値あるサービスや事業を描く「デザイン」の価値を改めて捉え直し、研究者も含めて全員にそういった行動様式が大切だと考え、今年の4月、「デザインセンタ」に名称変更しました。

画像: 日立の研究開発組織の変遷を語る谷崎。自身も研究者として歩みを共にしてきた

日立の研究開発組織の変遷を語る谷崎。自身も研究者として歩みを共にしてきた

谷崎:
近年、社会課題が非常に複雑になり、研究者だけ、一社だけでは解決できない時代になっています。そうした時代の要請を受け、開かれた研究開発拠点として2019年に開設したのが「協創の森」です。従来型の外から閉ざされた研究所ではなく、社外の方とワークショップをしたり、ディスカッションをしたりというオープンな設計になっています。

パートナーとなるお客さまとディスカッションする際には、研究開発グループのメンバーがフロントに立ち、ビジョンを共有したり、課題を特定したり、仮説検証を進めていくといった活動を進めていきます。その際の手法やツール、環境を含めて体系化したものが、協創方法論「NEXPERIENCE(ネクスペリエンス)」です。これまでに、エネルギー、モビリティー、デジタル、インダストリーなど、日立のさまざまな事業分野にNEXPERIENCEを活用し、数多くの受注や事業化に貢献してきました。これまで、1,000件以上の案件に対応し、100件以上のサービス/ソリューションを事業化しています。

1,000の協創から100の事業を創出

伊藤さん:
1000件以上の協創から100件の事業を生み出したという実現のポイントはどこにあるのでしょうか。

谷崎:
技術を起点とした事業創生から社会イノベーション事業創生にシフトした時、事業的な課題にどのように取り組んでいくかという新たな問いが生まれました。技術だけでもソリューションを見出すことは可能ですが、ソリューションにはそれを使う人が必ず介在します。お客さまである企業さま、あるいは企業さまのその先にいるお客さまが何に価値を求めるのか。そう考えたときに、デザイナーとしての観点やインタビューのケイパビリティを持つメンバーが入っていき、業務プロセスを理解しつつ、現場のみなさんに受け入れられる形で解決策を導き出すアクティビティが生まれました。

画像: 現場の声をしっかり聞くためには予見や仮説を持たずに臨むことが必要、と谷崎

現場の声をしっかり聞くためには予見や仮説を持たずに臨むことが必要、と谷崎

伊藤さん:
なるほど。技術起点のソリューションを現場の実際のニーズと繋いでいくところに価値がある、ということでしょうか。現場の声を聞くインタビューのコツなどご紹介いただけますか。

谷崎:
予見や仮説を持たずに素直に現場を見て、現場の方が大切にしていることや、知見や経験を基にいろいろ創意工夫されていることを理解する必要があると思います。そこまで理解しておかないと、せっかく投資していただいたのに現場で思った通りに使っていただけない、ということになりかねません。

伊藤さん:
そうやって現場のリアルなニーズや向き合うべき課題の焦点が明らかになる一方で、結局はそこに自社のリソースや価値を紐づけていくのだと思いますが、難しくありませんか。

谷崎:
おっしゃる通りで、お客さまと対応する中で見えてきた課題に取り組んでいくと、これは当社の得意分野じゃない、ということも出てきます。私たちも自分たちのどこに強みがあるのかを考慮していかないと、かえってお客さまにもご迷惑かけてしまいます。実はそういった事例も過去に体験しています。一方で、やはり私たちが注力する事業領域とお客さまの課題がミートすると、継続性があるとも感じています。自事業との親和性については考える必要がありそうです。

フェーズゲートでプロジェクトを評価する

伊藤さん:
自事業の周辺で勝っていこうとするときと、「ここはちょっと遠くてもやろう」というときのバランスはどのように設計しているんですか。

谷崎:
私たちのリソースのうちかなりの部分は、現業や現業の次のステップに充てています。一方で、世の中が変化しているのにも関わらず、従来の延長線上にあることばかりやっていても受け入れてもらえません。そこで、生活者の意識やスタイルの変化を見ることにも一定のリソースをかけています。

伊藤さん:
こうした設計をする上では費用面も含めたgo or notの判断が難しいと思うのですが、何かいわゆるゲートやKPI、マイルストーンみたいなものを置いて仕組み化されていますか。

画像: 伊藤さんは、事業設計について率直な問いを投げかける

伊藤さんは、事業設計について率直な問いを投げかける

谷崎:
そうですね。どういう課題に取り組むのか、私たちの考えるコンセプトは本当に効果があるのか、どれぐらい事業的なインパクトがあるのかを各フェーズゲートで評価しています。例えば、最初のステップでビジョンを確認して、それが本当に意味のあるものなのか。課題を設定して、その課題は本当に一社だけのものなのか、あるいは複数にあてはまるのか。本当にクリアにそれが言えるのかを明確に問う、ということを繰り返しています。

伊藤さん:
なるほど。ゲートの部分でしっかりクリアしないと、次の検討が進まない。かなり厳格に進めているんですね。検討期間はいつまで、といったルールは社内で決まっているものなんですか。

谷崎:
これは経験からなのですが、お客さま側のカウンターパーソンが、やはり2年か3年で異動してしまうことが多いんです。そうするとお話が一旦リセットになってしまうので、半年から1年でプロセスを進め、少なくとも2年目、3年目にはある程度合意形成まで至らないと進まない、という実情があります。ですので、2年もしくは3年あたりが検討期間の目安になります。

研究者とユーザーが直接対話する

伊藤さん:
もうひとつ、組織的にテーマを掲げて推奨していく部分と、現場からの声を吸い上げて多様性を作っていく部分があるかと思いますが、両者のバランスについて、何かこだわりや設計のポイントはありますか。

谷崎:
中期経営計画などで事業領域は定まっているので、トップダウンとしてはそこが領域として示されます。その中でどんな取り組みをしていくかについては、研究者やデザイナーが温めて具現化しようとしているものがあるので、それがうまくはまるようにボトムアップで吸い上げて、プロジェクトとして仕立てて、フェーズゲートで満たすものはどんどんプロジェクト化していく、という形をとっています。

伊藤さん:
研究者には現場に対する苦手意識がある人も少なくないと思いますが、研究者が直接ユーザーと接点を持ったり、臆せずやっていけるような文化づくりはどのようにしていますか。

画像: 事業部署に関わることでプロセス全体を見る視野を得た、と自らの体験を語る谷崎

事業部署に関わることでプロセス全体を見る視野を得た、と自らの体験を語る谷崎

谷崎:
社会イノベーション協創センタには、比較的それまでも外との対話経験をもった研究者が集まってはきていました。とはいえ、当然今まで技術起点でやってきていた彼ら彼女らには戸惑いもあったと思います。技術課題ではなくお客さまの課題を起点にする、というマインドシフトは相当必要で、当時は苦労したところかと思います。

私自身の体験ですが、研究所にいた時は、やはりある程度技術的な課題が明確になったところから解くところまでを担当していたと思います。一方で、事業部署だと、事の始まりからローンチして保守や運用に入るところまでを広く見ることになります。実際やってみて、今までは長いプロセスのうちのごく狭いところしか見えていなかったんだな、という実感がありました。

伊藤さん:
現場で事業部側の経験をする中で、自然と景色が広がっていったという感じでしょうか。

谷崎:
私自身はそういうタイプですし、あるいは研究者によっては、新しい組織に来て、現場でどんどん知見を蓄積し、マインドセットを変えていく、といった経験をしてきたメンバーもいると思います。

伊藤さん:
そういう意味では、NEXPERIENCEのような方法論の体系化もそうですし、デザイナーとかいろんな職域の方々が多様性の中で融合している組織作りにも、思考を変えていく価値がありそうですね。

次回は複雑化する社会課題に対し、多様なステークホルダーと共に題解決をめざす「協創」は、具体的にどのようなプロセスで進んでいくのでしょうか。また、そこからどんな成果が生まれるのでしょうか。次回は、研究開発グループが実際に取り組んだ3つの協創事例について、ユーザベース伊藤さん、半澤さんとともに掘り下げていきます。

関連リンク

画像1: [Vol.1]社会イノベーション事業を支える場と方法論│研究開発の現場から社会イノベーション事業創出を語る

伊藤 竜一
株式会社ユーザベース SPEEDA事業執行役員 技術領域事業CEO
INPIT IPランドスケープ支援事業 審査委員

2007年名古屋大学大学院工学研究科を修了後リクルートに入社。製造業のヒト組織課題解決に従事。2016年ユーザベースに参画。経営の意思決定支援が技術部門の課題解決に横展開できる市場期待に着眼。技術・知財経営の重要性を説き、SPEEDA上に「特許・論文・科研費動向及び研究者情報」等を機能拡張した『SPEEDA R&D』の企画および事業・組織立上げをリード。技術者が輝き、技術が大きな経済価値になる社会の実現を志す。

画像2: [Vol.1]社会イノベーション事業を支える場と方法論│研究開発の現場から社会イノベーション事業創出を語る

半澤 瑞生
株式会社ユーザベース SPEEDA R&D/FORCAS Marketing Manager

大学卒業後、米国大学留学。帰国後、大企業役員向けのマッチングビジネスなどを展開する英系グローバル企業に入社。法人営業を経て、日本支社経営全般と売上/人事管理に従事。2016年、ユーザベースSPEEDA事業マーケティングチームにジョイン。2020年よりSaaSマーケティング横断組織の主メンバーとして、SPEEDA R&Dマーケティングの立ち上げ、SPEEDA R&D/INITIALマーケティングマネジャーを経て、2022年よりSPEEDA R&DとFORCASマーケティングマネジャーを兼務、現在に至る。

画像3: [Vol.1]社会イノベーション事業を支える場と方法論│研究開発の現場から社会イノベーション事業創出を語る

谷崎 正明
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
デザインセンタ センタ長

日立製作所に入社後、中央研究所にて地図情報処理技術の研究開発に従事。2006年からイリノイ大学シカゴ校にて客員研究員。2015年より東京社会イノベーション協創センタ サービスデザイン研究部部長として、顧客協創方法論を取り纏める。2017年より社会イノベーション事業推進本部にてSociety5.0推進および新事業企画に従事したのち、2019年からは研究開発グループ 中央研究所 企画室室長を経て、2021年4月より現職。

[Vol.1]社会イノベーション事業を支える場と方法論
[Vol.2]協創のカギはビジョンの共有と関係性の構築
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