
座談会の前には、日立の研究者・デザイナーから、鉄道に関する研究内容のプレゼンテーションが行われた
鉄道に魅せられた高校生たちが先端技術と出会ったら?
丸山:
岩倉高等学校は、鉄道を主とした運輸業界に直結する実践的な教育を行う「運輸科」が設置され、全国的にもユニークな教育で知られています。皆さんは「鉄道研究部」で活動していらっしゃいますが、まずはクラブ部活動のことを教えてもらってもいいですか?
鉄道研究部長・須賀さん:
僕たちは、興味のある分野ごとに撮影班、音鉄班、乗鉄班、旅行班と、4つの班に分かれて活動しています。部員数は全部で116人の大所帯です。鉄道の文化や魅力を探求し、文化祭などで発表しています。
丸山:
この座談会の前に、鉄道業界をはじめ、現代社会やこれからの未来を支えるためのさまざまな研究に関するプレゼンテーションや技術デモンストレーションを見ていただきましたが、授業や部活動で鉄道について深く探求している皆さんはどのように感じましたか。
鉄道研究部員・Aさん:
僕は、スマートフォンを出さずに改札を通れるシステムの話が印象に残っています。特にいまは大きなスーツケースを持った海外からのお客さまが多いので、混雑解消に役立つのではないかと感じました。

ドローンによる荷物の自動配送を、現場拡張メタバースのデモ空間で体験する岩倉高校の学生たち
鉄道研究部員・Bさん:
僕は、メタバース空間の音の再現性がすごいと思いました。ドローンが近くを通り過ぎる音や、環境音まで含めて忠実に作り込まれていて、こういうところにプロのこだわりがあるんだなと感動しました。
鉄道研究部員・Cさん:
音や映像のリアリティもすごかったですが、ドローンや自動配送の未来構想には本当に驚きました。日立の皆さんは、鉄道だけではなくて、社会全体の仕組みを支えているんですね。僕たちの想像している一歩も二歩も先の技術が実現していることにワクワクしました。

都市開発に関する選択肢に答えることで、自分の意見が都市にどのような変化を与えるかをバーチャルに体験できる、参加型社会に向けた未来都市のシミュレーションの体験
丸山:
ところで、皆さんが鉄道を支える側になりたいと思ったきっかけは何ですか。
鉄道研究部員・Dさん:
僕は、小さい頃から駅員さんに憧れていました。鉄道は社会的に大事なインフラですし、その中でも駅は地域の顔です。駅員さんはもちろん、運転手さんや車掌さん、保守の方も含めて地域の人たちの生活を支えている姿がかっこいいなと思って、僕もその一員になりたいと思いました。
鉄道研究部員・Aさん:
僕も駅員に憧れるようになったきっかけは小さい頃に駅員さんに優しく案内をしてもらった体験からです。しかしいまは、トラブル対応の時など、人に嫌われたりすることもあるだろう中、それでも誇りをもって乗客の安全を支えているという点に惹かれています。
丸山:
支えることがかっこいい…なるほど、そこに魅力を感じているんですね。

研究用に鉄道会社に提供いただいた実車両のCADデータを使用したメタバース空間を、車両保守に生かそうとする取り組みについて、研究者より説明を受けた
プロの卵たちが見た「バーチャル未来の都市」
沖田:
今日は鉄道に関心の深い皆さんと、鉄道に関する「市民参加型インフラ保守」について議論していきたいと思っています。
というのも、日本の公共インフラの多くは、1970年代の高度経済成長期に整備されたもので、現在では老朽化が進んでいます。橋やトンネル、鉄道といった設備は、使い続けるほど点検や保守に手間がかかるようになり、壊れる前に修繕する「予防保全」がますます重要になっています。一方で、これらを支える専門人材は高齢化や人手不足により減少しています。少子化の影響もあり、専門知識をもつ保守員の数は今後さらに減っていくと見られています。
こうした中で注目されているのが、地域住民や一般市民の関与による「市民参加型のインフラ保守」です。たとえば、街中で見かけた設備の異常をスマホで報告したり、ゲーム感覚で保守作業の一部を体験できる仕組みを通じて、誰もがインフラの維持に関われる未来が注目され始めています。プロに任せきりにせず、“みんなで支える”社会インフラへと発想を転換することが、これからのインフラ維持には欠かせないと思っています。そこで、「鉄道の保守点検」のお手伝い体験を、「バーチャル未来の都市」内に日立コンテンツとしてつく りました。

座談会では、高校生ならではの新鮮な視点から、さまざまな感想や質問が上がった。
研究者:
「バーチャル未来の都市」は、大阪・関西万博の「未来の都市」パビリオンと合わせて、2025年国際博覧会協会様と参画企業10者の共創により提供しているバーチャルコンテンツです。スマホやPCからアクセスできて、近未来の街のさまざまなアイデアを体験することができます。
バーチャル未来の都市の中で、日立は「市民参加型のインフラ保守」を体験するコンテンツを提供しています。このコンテンツは、鉄道の保守の仕事をテーマにした、いわば「保守点検×間違い探しゲーム」です。舞台はローカル線の小さな駅。参加者はアバターになって、保線員のキャラクターと一緒に、駅構内の異常箇所を探して歩きます。地味な内容に見えますが、皆さんもご存知の通り、これは鉄道の安全を守るためのとても重要な仕事です。普通の鉄道関係のゲームでは、運転シミュレーターやダイヤ管理シミュレーターといったものがあると思いますが、保守に焦点をあてたものはなかなかないんじゃないかと自画自賛しています(笑)。

「市民参加型のインフラ保守」について研究者の説明を受ける鉄道研究部の部員たち
私たちが狙ったのは日頃よく目にする「運転」や「接客」とはまた違う鉄道の裏側の仕事のリアルを、ゲームを通じて知ってもらうことです。そしてもう一つ、インフラ保守をプロの仕事として切り離すのではなく、地域の人や一般市民が関われる可能性を示したいという思いがあります。
実際に少し動かしてみましょうか。

「バーチャル未来の都市」の一場面。プレイヤーのアバターが駅構内の異常箇所を見つけていく
鉄道研究部員:
おお〜、動いた!
鉄道研究部員:
こういう破損、あるある!
研究者:
ありがとうございます、嬉しいです(笑)。私たちは、現場ではまだ扱われていない「少し先の未来」を見据えた技術や社会のあり方を考え、実証するというような活動をしています。大阪・関西万博では、そうした将来像を「未来の都市」パビリオンで形にし、「こんな社会になったらいいな」で終わらせず、現実の一歩にしていくことをめざしています。
先ほどデモなどで見ていただいたさまざまな技術や、この「バーチャル未来の都市」は、誰もが自分の視点で社会に関わる「市民参加型社会」を実現するための足がかりになると考えています。今日体験いただいたことや、これまでに皆さんが積み上げてきた知識や興味の中にも、きっといいヒントがたくさんあるのではないかと思っています。さらに議論していけたら嬉しいです。
――人口減少・高齢化による利用客の減少や、施設設備の老朽化、無人化によるサービス縮小などのさまざまな変化により、特に地方では、地域の顔である駅の存在感が揺らぎつつあります。市民参加型の社会やローカル線の未来について、熱く語り合いました。
![画像1: [Vol.1]鉄道のプロの卵たちが見た、街を支える先端技術│鉄道のある街は私たちが守る―高校生と考える未来の都市](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783605/rc/2025/07/25/faeb7c56724c352ceaec134744b90152a28bb433.jpg)
須賀 帝凱
岩倉高等学校 鉄道研究部 部長
鉄道を主とした運輸業界に直結する「運輸科」を有する岩倉高等学校(東京都台東区)。その中でも、鉄道研究部は創部70年を迎える伝統を持ち、部員数は1〜3年生合わせて1 16名。「撮影班」「音鉄班」「乗鉄班」「旅行班」と、興味に応じた班に分かれて活動し、それぞれが鉄道の魅力を多角的に掘り下げている。
![画像2: [Vol.1]鉄道のプロの卵たちが見た、街を支える先端技術│鉄道のある街は私たちが守る―高校生と考える未来の都市](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783605/rc/2025/07/25/7a4f34b1efe907c19c766a2b09f7a19ef68f5bd5.jpg)
丸山 幸伸
株式会社日立製作所 研究開発グループ Digital Innovation R&D
デザインセンタ 主管デザイン長 兼 未来社会プロジェクト プロジェクトリーダ
武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科教授
日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。
![画像3: [Vol.1]鉄道のプロの卵たちが見た、街を支える先端技術│鉄道のある街は私たちが守る―高校生と考える未来の都市](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783605/rc/2025/07/25/2220b7bef3b97e8ab335e98a1abf1be395e82cae.jpg)
沖田英樹
日立製作所 研究開発グループ 未来社会プロジェクト サブリーダ
日立製作所入社後、通信・ネットワーク分野のシステムアーキテクチャおよびシステム運用管理技術の研究開発を担当。日立アメリカ出向中はITシステムの統合運用管理、クラウドサービスを研究。2017年から未来投資本部においてセキュリティ分野の新事業企画に従事。2019年から社会イノベーション協創センタにおいてデジタルスマートシティソリューションの研究に従事。同センタ 価値創出プロジェクト プロジェクトリーダ、社会課題協創研究部 部長を経て、現職。