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建築や製品は、完成した瞬間だけがゴールではありません。長く使われ、受け継がれ、時には使う人自身の手で育てられることで、その価値は深まっていきます。では、人が自然と愛着を抱き、関わり続けたくなる関係性は、どのようにデザインできるのでしょうか。2025年大阪・関西万博で「森になる建築」を手がけた竹中工務店の山崎篤史さんと、日立製作所 研究開発グループの松田匠、伴真秀、小西正太、八木あすか、人財統括本部 研究開発人事総務本部の吉田政市が、人が自然と関わり続けたくなる場や仕組み、そして愛着が育む価値について語り合います。

[Vol.1]「捨てる前提」を変えるものづくり
[Vol.2]「長く愛される」はどうやって生まれるか
[Vol.3]人が関わり続けたくなるデザインとは?

画像: 対話の後半は、協創の森を舞台にした「100年続く未来プロジェクト」について話題がはずんだ

対話の後半は、協創の森を舞台にした「100年続く未来プロジェクト」について話題がはずんだ

愛着は「自分が関わった」という実感から生まれる

吉田:
日立の研究開発グループ国分寺サイト(中央研究所)には設立当初から受け継がれてきた武蔵野の森があり、私たちはこの自然環境を次世代に引き継ぐため、2025年に「100年続く未来プロジェクト」という社内のプロジェクトを立ち上げました。森は放っておけば残るものではなく、人が関わり続けて初めて価値を維持できると考えています。プロジェクトが残したいのは、森そのものだけではありません。先人の思いや森を大切に思う価値観や、自然と共生する文化を次の世代へ受け継ぎたいと考えています。そして、そのために「森を知る・守る・親しむ・語る」という循環を軸に、生物多様性の保全や植樹、自然観察会、伐採木の再利用など、従業員や家族が実際に森と関わる機会をつくっています。

たとえば、従業員による桜の植樹活動もその一つです。昨年度(2025年度)は約80人が参加して40本以上の桜が植えられました。自分で植えた桜の成長を季節ごとに見守りに訪れたり、木に名前を付けたりしている人もいます。そうやって実際に手を動かして関わる経験が愛着を生み、「この森を守りたい」という気持ちを育てているのだと感じています。

山崎さん:
今のお話を聞いて、森になる建築に貼った手すき和紙のことを思い出しました。実は、あの和紙には貼ってくれた人の名前が小さく入っているんです。そうすると、「自分の紙はどこに使われているんだろう」と、見に来てくださる方がいるんですよね。植樹も同じことで、自分で1本の木を植えたという経験が、「この場所に自分も関わった」という感覚につながるんじゃないでしょうか。

画像: 森を守り、次世代へと受け継ぐためには、人が関わり続けることが必要だと語る吉田

森を守り、次世代へと受け継ぐためには、人が関わり続けることが必要だと語る吉田

作り手が手放すことで、使い手のものになる

吉田:
山崎さんが改修を手がけた大阪避雷針工業の、植栽の話も印象に残っています。従業員自身が水やりをすることで、植栽への愛着やご近所とのコミュニケーションにつながったというお話でしたね。植栽の管理が人と人をつなぐ活動にもなったという視点は、「100年続く未来プロジェクト」を進める上でもとても参考になりました。

山崎さん:
大阪避雷針工業さんのプロジェクトでは、水やりに加えて剪定などの手入れも、社員の皆さんがしています。たとえば、私は壁をツタで覆いたくて植えたんですが、水やりをしていた社員の方が「俺、ツタ嫌いなんだよね」と、少し伸びてくると切ってしまう(笑)。だからツタが横に広がっていたりするんですが、でも、私はそれがすごくいいなと思っています。「建築家が考えたものだから触っちゃいけない」という感覚ではなく、もう完全に自分たちのものになっているんですよね。だから私に「切っていいですか」と許可を求めることもありません。

松田:
ご本人たちにとっては、仕事として植栽を管理しているというより、もはや日々の生活の中の当たり前になっているということですよね。その状態は、とても幸せなことかもしれませんね。

山崎さん:
本当にそうですね。改修した建物も同じで、引き渡したその日に、皆さん壁へアンカーを打って、道具を掛け始めていたんです。普通、新築だと「ここに穴を開けてもいいですか」「張り紙をしてもいいですか」と確認されることが多いんですが、そんなやりとりは一切ありませんでした。古い校舎が自然と自分たちの居場所になっているのと少し似ているかもしれません。そういう状態をデザインできるようになるといいですよね。

松田:
作る側がすべてをコントロールしようとするのではなく、あえて使う人に委ねる余白を残しているからこそ、人が自然と関わり、自分たちの場所になっていくんでしょうね。

画像: 実際に森を歩きながら、話の続きを語り合った

実際に森を歩きながら、話の続きを語り合った

自走のきっかけをデザインする

山崎さん:
電車のように何十年も使うものもあれば、ペットボトルのような消耗品もあります。「どこまで愛着をデザインするのか」は共通の問いです。ただ、私は長く使ってもらうこと自体がゴールではない気がしています。たとえば、製品を長く使うことが目的なのではなく、この製品を使う体験が心地よくて、結果として長く使われる。その結果、資源の消費も減る。そういう順番が大事なんじゃないでしょうか。

大阪避雷針工業も、「環境性能が高い建築」として注目されがちですが、私がうれしいのはそこではなくて、実際に訪れると、社員の皆さんが自分の家みたいに建物を大切にしていることなんです。環境に良いから大事にするのではなく、大事にしたくなる建物だったから、結果として環境にも良かった、という順番のほうが、人は無理なく続けられるし、愛着も育っていくんじゃないかと思っています。

松田:
環境のため、ということ以上に、使う人たちの価値観に寄り添えていたことが、結果として愛着につながったのかもしれませんね。また、建物を「つくる」過程に、「つかう」人たちがきちんと関われていたことにも、大きな意味があった気がします。

山崎さん:
「100年続く未来プロジェクト」のお話もそうですよね。目的は、この場所を原生林に戻すことではないと思うんです。森をきっかけに人が関わり、活動が生まれ、その中で意識が変わっていくことや、その積み重ねが日立さんの企業文化や、研究所から生まれるアウトプットにも影響していくことが本当の目的なんだと思います。森そのものを目的にするのではなく、人や組織が変わっていくための「投影する対象」として森があるという捉え方がいいですね。

画像: 「100年続く未来プロジェクト」に関わった経験から、関わる人の自走が重要だと語る八木

「100年続く未来プロジェクト」に関わった経験から、関わる人の自走が重要だと語る八木

松田:
デザイナーとして関わった八木さんはどう思いますか。

八木:
お話を伺っていて、いちばん大事なのは自走することなんだと改めて感じました。そのきっかけとして、愛着がすごく重要なんだなと。「100年続く未来プロジェクト」では、森を守る人という意味合いを込めた「モリビト」と呼んでいる社内活動を立ち上げていますが、事務局がずっと引っ張っていくのではなく、参加する皆さん自身が主体的に動き、活動が継続していくことが理想です。そのためには、どうすればもっと愛着を持って関わっていただけるのか。まだ答えは出ていませんが、これから考えていかなければいけないテーマだと感じました。

山崎さん:
以前、建築家の小堀哲夫さんが設計されたとある研究所を見学させていただいたとき、そこで働く方たちが、自分の家を案内するように、本当にうれしそうに建物を紹介してくれたんです。その姿がすごく印象に残り、「こういう建築を自分もつくりたい」と思いました。その後、その研究所の計画にも携わられた、ワークショップの第一人者である上田信行先生と一緒に仕事をする機会があったんですが、そこで学んだのは、「人が主体的に関わりたくなる場」そのものをデザインする必要性でした。それ以来、私自身も打ち合わせのやり方を変えました。会議室で向かい合うのではなく、お茶やお菓子を囲みながら話すようにしたら、みんなが前のめりになって、建築を「自分たちの課題」として考えてくれるようになったんです。

万博のプロジェクトで、みんなで和紙を貼る取り組みを入れたのも同じ発想です。建物を設計するだけでなく、人が関わり、自走していくきっかけまで含めてデザインすることも、建築家の役割なんじゃないかと考えるようになりました。

松田:
そんなふうに自然に生まれてくるものが、一番強いということなのかもしれませんね。

山崎さん:
そうですね。そのきっかけをどうデザインするかが、いま私たちに問われているのではないでしょうか。

画像: ものが循環していくために、愛着や主体性をどうデザインしていくか。対話を通じて新たな問いが生まれた

ものが循環していくために、愛着や主体性をどうデザインしていくか。対話を通じて新たな問いが生まれた

画像1: [Vol.3]人が関わり続けたくなるデザインとは?│「森になる建築」山崎篤史さんと考える、循環する建築と社会インフラのつくりかた

山崎 篤史
竹中工務店 大阪本店設計部
シニアチーフアーキテクト

1982年生まれ。2005年神戸大学工学部建設学科卒業。2007年、同大学大学院修士課程修了、竹中工務店入社。2024年解体・新築予定だった建物を再生した「大阪避雷針工業 神戸営業所」を手がける。2025年の大阪・関西万博では、休憩所として出展した「森になる建築」を設計。「生分解性樹脂を構造材として一体造形した世界最大の3Dプリント建築」として、ギネス世界記録™に認定された。

画像2: [Vol.3]人が関わり続けたくなるデザインとは?│「森になる建築」山崎篤史さんと考える、循環する建築と社会インフラのつくりかた

松田 匠
研究開発グループ Digital Innovation R&D デザインセンタ デザインプロモーション室
室長

日立製作所入社後、生活家電のプロダクトデザイン、金融・公共分野のUI/UXデザインを担当。協創方法論「NEXPERIENCE」の研究開発・人財育成や、国内外での新事業創生に向けたビジョンデザイン研究を推進したのち、2021年より日立ヨーロッパR&Dデザインラボにて電力分野などの先行デザイン研究をリード。帰国後はデザイン戦略立案と新興技術の価値発信を担い、2026年より現職。

画像3: [Vol.3]人が関わり続けたくなるデザインとは?│「森になる建築」山崎篤史さんと考える、循環する建築と社会インフラのつくりかた

伴 真秀
研究開発グループ Digital Innovation R&D デザインセンタ UXデザイン部
リーダ主任デザイナー

日立製作所入社後、コーポレートWebブランディング、建設機械・IT運用管理システムのインタラクションデザインを担当。2011年から日立アメリカR&Dデザインラボに勤務。2015年からは、家電、ロボット・AI領域の将来ビジョンや地域活性に関するサービスデザインを担当。企画部門を経て、現在はモビリティ・エナジー領域に関するデザインチームを率いる傍ら、サーキュラーエコノミーに関するサービスデザイン研究に従事。

画像4: [Vol.3]人が関わり続けたくなるデザインとは?│「森になる建築」山崎篤史さんと考える、循環する建築と社会インフラのつくりかた

小西 正太
研究開発グループ Digital Innovation R&D デザインセンタ UUXデザイン部
デザイナー

2021年に株式会社日立製作所に入社。家電領域における新規事業創出、EV・グリーンモビリティに関するUI/UX/プロダクトデザイン、参加型社会を実現するためのデザインアプローチに関する研究に従事。現在は、データセンターに関するコミュニケーションデザインなどに携わる。

画像5: [Vol.3]人が関わり続けたくなるデザインとは?│「森になる建築」山崎篤史さんと考える、循環する建築と社会インフラのつくりかた

八木 あすか
研究開発グループ Digital Innovation R&D デザインセンタ UXデザイン部
企画員

2023年に日立製作所に入社し、主にヘルスケア分野のUI/UXデザインに従事。また、2025年からは、国分寺サイトの自然環境を次世代に引き継ぐための「100年続く未来プロジェクト」にも参画し、コンテンツ制作などに携わる。

画像6: [Vol.3]人が関わり続けたくなるデザインとは?│「森になる建築」山崎篤史さんと考える、循環する建築と社会インフラのつくりかた

吉田 政市
人財統括本部 研究開発人事総務本部 総務部 国分寺・鳩山庶務ユニット
リーダ部長代理

1987年に日立製作所 中央研究所(現 研究開発グループ)に入社。事業部や支社で総務業務を経験した後、2025年4月に研究開発グループ 国分寺サイトへ赴任。現在は「100年続く未来プロジェクト」の事務局を担当している。

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