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日立製作所研究開発グループが実施するオンラインイベントシリーズ「協創の森ウェビナー」。災禍や社会問題など、大きな課題の前でどのように合意形成をしていけば、次のステップに進めるでしょうか。その具体的事例として、「DXの効果を共有するCyber-Proof of Concept(Cyber-PoC/システムの能力やエンドユーザーの利用価値、事業利益等のシミュレーションを同時に行い、有効性を視覚化するツール)」について、日立製作所研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタの沖田秀樹、田中英里香から紹介します。

プログラム1「ビジョンを実現するためのシステムチェンジ」
プログラム2「社会課題解決とDX」
プログラム3「DXの効果を共有する-Cyber-PoC」

事業価値のシミュレーションを社会課題解決に活用する

沖田:
問題解決の場面において、合意形成はどのような課題をもっているのか、そして合意形成の取り組みとして私たちが活用しているツールCyber-PoCについて紹介します。

「現代は難しい時代である」と言うとき、その難しさには大きく2つの要因があると思います。一つは、企業の取り組む問題が複雑化し、問題自体も、取り組みの結果も捉えにくくなっていることです。

もう一つは、ステークホルダーとの関係です。多様なステークホルダーが同時に問題と関わり、合意形成することの難しさが大きな課題となっています。

画像: 合意形成のためには、KPIに対する影響や効果の可視化が必要となる

合意形成のためには、KPIに対する影響や効果の可視化が必要となる

そして、問題にはさまざまなKPI(指標)があります。多くの方々が携わっている問題のトレードオフがどこにあるのか。私たちが提供するソリューションは、ステークホルダーが気にしているKPIに対し、どういった影響や効果を及ぼすか。これらを見える化することで合意形成を促すのが、私たちのアプローチです。そして、合意形成、可視化を促進するための仕掛けとして私たちが取り組んでいるのが、Cyber-PoCです。

Cyber-PoCは事業価値のシミュレーターです。私たちが提供する社会イノベーションのサービスシステムがどう動くのか、エンドユーザーがどのような利便性を得るのか、ビジネスとしてどのような利益を得るのか。この3つをシミュレートすることができます。

画像: Cyber-PoCはサービスシステム、エンドユーザーの利便性、利益を見える化する

Cyber-PoCはサービスシステム、エンドユーザーの利便性、利益を見える化する

例えば、自動車部品の製造、配送に関するシステムは非常に複雑であり、生産計画に関わるKPIやコスト面のKPIが複雑に絡み合っています。こうしたシステムや指標を可視化することで、複数のステークホルダーが同じ認識のもとで議論できます。

また、鉄道には今、感染症対策の観点から、どの程度人の流れを誘導すべきか、そこに個人の利便性がどう影響するかという問題があります。事業者や乗客といった多様なステークホルダーが共に議論する必要がありますが、人の流れをシミュレーションすることで、合意形成を促進することができます。

ここで挙げた例は、経済価値といった観点でまとめられるものです。しかし、今私たちが取り組んでいる問題は、経済価値のみならず、社会価値、さらには環境価値も踏まえて考えていく必要があります。

社会価値を追求するひとつの例として、まちづくりが挙げられます。まちづくりは、住民、自治体、事業者など、多様なステークホルダーが異なるKPIで行動しています。そういったまちづくりにおいて、ステークホルダーが互いのKPIを共有し、合意形成するため、Cyber-PoCの適用に取り組んでいます。詳しくは研究員の田中よりご紹介いたします。

データで現状を可視化し、合意形成を促す

田中:
私たちは今、人々の1日の動きといった人流や人口密度、各地域の特徴など、多種多様なデータをマップ上に重ねて表示し、まちの現状がどのようになっており課題がどこにあるのか、どう解決していくべきなのかを、みなで議論する場を創り、合意形成を支援するCyber-PoCの研究を進めています。

画像: まちづくりの合意形成のために、Cyber-PoCの活用が試みられている

まちづくりの合意形成のために、Cyber-PoCの活用が試みられている

Cyber-PoCの導入により、まずはまちの現状を把握、共有することができます。また、ステークホルダーのみなさんが描く将来のまちのビジョンを可視化することができます。そして、描いたそれぞれのビジョン案が誰に対してどのような効果や影響があるのかを比較・確認することができます。このプロセスをみなさんで経ながら議論することで、合意形成に導くことができるのではないかと考えています。

画像: 松山市の実証実験ではデータの共有が具体的で広い視点からの議論を生んだ

松山市の実証実験ではデータの共有が具体的で広い視点からの議論を生んだ

一例として、愛媛県の松山市で行った実証実験をご紹介します。

松山市では住民参加のデータ駆動型都市プランニングの実現をめざしており、住民自治体、民間企業、市民のみなさんで「まちを考える」ツールとしてCyber-PoCを実証しています。

例えば、駅前開発に関する市民ワークショップを開催した際、駅前開発の完成イラストだけを見て議論したときは「広場でイベントを開催して賑わえばいいな」、「日陰があるとうれしい」といった比較的漠然とした意見が多いようでした。

一方、開発した後の人の流れの変化をシミュレートしたデータ(データ提供:復建調査設計)をCyber-PoCで見ながら議論すると、「高齢者には、ここの段差が危険では?」、「人の流れが変わる事で、商店街を人が通らなくなるのではと心配」といった具体性のある意見が出てきました。さらには歩行者の移動の利便性と交通安全面のトレードオフについての意見もあり、広い視点からの見解が抽出できました。

これは、Cyber-PoCで開発後の人流といった動的なデータを可視化することで、参加者が、将来の自分や他者があたかもその場所を歩いている様にイメージ出来たからではないかと思います。

沖田:
以上、田中からご紹介したように、私たちはまちづくりへのCyber-PoCの適用を進めています。今後、何らかの現状を可視化し、合意形成をするだけではなく、現状の洞察からのインサイトを得て、現場の運用にフィードバックし、業務の改善をしていくループをつくるためにCyber-PoCを活用していきたいと考えています。

さまざまな経済価値を中心とした事業の展開においても、経営のダッシュボード的な存在になっていくのが、Cyber-PoCのめざす姿の一つだと考えております。

画像1: システム、エンドユーザー、利益。複雑に絡みあう問題を可視化する、事業価値シミュレーター│協創の森ウェビナー第3回「DX for Innovation Business」プログラム3「DXの効果を共有する- Cyber Proof of Concept (Cyber-PoC)」

沖田 英樹
研究開発グループ
社会イノベーション協創センタ 価値創出プロジェクト プロジェクトリーダ(Project Leader, Value Creation Project PJ)

日立製作所入社後、通信・ネットワーク分野のシステムアーキテクチャ及びシステム運用管理技術の研究開発を担当。日立アメリカ出向中はITシステムの統合運用管理、クラウドサービスを研究。2017年から未来投資本部においてセキュリティ分野の新事業企画に従事。2019年から社会イノベーション協創センタにおいてデジタルスマートシティソリューションの研究に従事。2021年から現職。

画像2: システム、エンドユーザー、利益。複雑に絡みあう問題を可視化する、事業価値シミュレーター│協創の森ウェビナー第3回「DX for Innovation Business」プログラム3「DXの効果を共有する- Cyber Proof of Concept (Cyber-PoC)」

田中英里香
研究開発グループ
社会イノベーション協創センタ 価値創出プロジェクト 主任研究員(Chief Researcher)

日立製作所入社後、ユビキタス社会におけるユーザビリティを考慮したサービスや認証技術の研究開発を担当。その後、サービス工学の研究に従事し、エネルギー、産業・流通、交通など多岐にわたる事業分野において、ビジネスダイナミクスを活用したサービス評価技術などを研究。2017年度からCyber-PoCの研究開発に従事し、現在デジタルスマートシティを支えるCyber-PoCの研究を推進している。

プログラム1「ビジョンを実現するためのシステムチェンジ」
プログラム2「社会課題解決とDX」
プログラム3「DXの効果を共有する-Cyber-PoC」

協創の森ウェビナーとは

日立製作所研究開発グループによるオンラインイベントシリーズ。日立の研究者やデザイナーとの対話を通じて、新しい協創スタイルの輪郭を内外の視点から浮き上がらせることで、みなさまを「問いからはじめるイノベーション」の世界へいざないます。

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