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「スタートアップ」は多様化する社会ニーズに対し、革新的なアイデアや独自性で新たな価値を生み出し、さまざまな課題を解決に導いています。今や世界中の社会課題の解決において、欠かせない存在でもあります。今回、国内のおよそ6割の約6000社のスタートアップが登録するオープンイノベーションプラットフォームなどを運営するCreww株式会社・代表取締役 CEOの伊地知さんをお招きして、日立製作所 コーポレートベンチャリング室 副室長の船木とともに語り合いました。第1回目はスタートアップを取り巻く状況の移り変わりや、社会貢献が可能な理由などの話題について展開しました。ナビゲーターは、丸山幸伸(研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長)です。

[Vol.1]世界の課題に挑戦する「スタートアップ」
[Vol.2]スタートアップと事業会社の相乗効果について
[Vol.3]社会課題を肌で感じているか

関連リンク
日立「スタートアップ協創プログラム2021」

スタートアップが日本でまだ一般的でない時代に会社を設立

丸山:
近年では大企業がイノベーションを実施するにあたり、「スタートアップの力が必要」という話を耳にする機会が増えてきました。特に気候変動や資源問題など難しい社会課題に取り組む際、スタートアップが課題解決のカギを握っているようですが、伊地知さんはどのように認識されていますか。

伊地知さん:
私は高校、大学時代をカリフォルニアで過ごし、2011年に発生した東日本大震災を機に帰国したのですが、その時点でアメリカの西海岸には既に築かれていた社会課題を解決するためにチャレンジする人たちを応援する仕組みが、日本にはないことを痛感しました。新しい産業や、新しく事業を開始する人たちがチャレンジできるプラットフォームを作りたいという想いから「スタートアップがイノベーションに必要という事実は疑う余地はない」と考え、2012年8月にCreww株式会社の設立に至りました。

画像: アメリカの西海岸での経験から、日本におけるスタートアップ支援の必要性を痛感

アメリカの西海岸での経験から、日本におけるスタートアップ支援の必要性を痛感

丸山:
その当時の日本において、スタートアップはどのように位置づけられていましたか。

伊地知さん:
「社会問題という大きな課題を解決するには、小さな会社では荷が重すぎる」というイメージが浸透していました。「新しい事業に挑戦する人を支援するためのエコシステムを作りたい」と言った時も、「それは国がやるべきことであり、スタートアップが介入するべきではない」、「スタートアップのような少人数で実現できることではない」という考え方が一般的でした。また、「ビジネスとして成り立たないので、NPO法人として実施してみては」とのアドバイスもいただきました。

丸山:
逆境の中で法人化されたのですね。

伊地知さん:
当時の日本にそうした活動を行う企業がないだけで、ニーズは十分に存在していると思っていました。しかも社会に求められることを開始するのに、ビジネスにならないわけがない。持続するためには利益を上げていかなければならないので、法人化に踏み切りました。

丸山:
最初から順風満帆とはいかなかったようですね。

伊地知さん:
諸外国に目を向けると、環境問題や、世界の食糧危機問題を解決すると言われている人工肉の開発など、すでにスタートアップは地球規模の課題解決に着手しています。一方で日本では、国内の課題解決ですら「スタートアップが関わるには課題が大きすぎる」などと言われています。起業家であるなら、大きな夢を持って事業を展開するべきですが、10年前はそれを応援するよりも、とがめる風潮が強かったと思います。

スタートアップの事業が評価される時代が到来

丸山:
船木さんは日立製作所 コーポレートベンチャリング室として、スタートアップに対してどのような印象をお持ちですか。

船木:
良く言われる言葉に「Clean up your room before cleaning up the world.」というフレーズがあります。和訳すると「世界の掃除をする前に、自分の部屋をきれいにしようよ」というような意味です。社会課題の解決というと大きなテーマと捉えがちですが、それを達成するためには、普段の生活の中から食品ロスを減らしたり、プラスチックを使わないようにしたりするなど、各自ができる小さなことを積み重ねなくてはなりません。一方で大企業では、そのような身近な小さなことからスタートを切ることは難しい場合もあります。

画像: 社会課題の解決には、小さなことの積み重ねが必要不可欠

社会課題の解決には、小さなことの積み重ねが必要不可欠

丸山:
大企業では、「なぜそんなに小さな話から?」というリアクションがあるわけですね」

船木:
スタートアップは大企業に比べて課題に対してすぐ動ける機動力があります。私たちが困難なことをサポートしてくれる組織が必要な時代であると感じています。

丸山:
欧米ではスタートアップがフードテックなどの国家的事業を手掛けているようですが、日本でそれをやろうとすると「時期尚早」という雰囲気を感じることはありませんか。

船木:
そういう風潮も徐々になくなっている気がします。昨今の社会問題に対して多くの人たちが危機感を持ち、スタートアップの事業を受け入れる土壌ができてきました。みんなが真剣に社会問題に対する活動を応援するなかで、見る目が変わったと感じています。

伊地知さん:
日本国内でもメルカリなど、アジア諸国からもたくさんのスタートアップやユニコーン企業が誕生して世界を変えているなど、スタートアップコミュニティの成長体験も大きいですね。

目的が多様化する、スタートアップとのマッチング

丸山:
企業側がスタートアップに対して付加価値を求める、または、これまでの手法で社会課題が解決できないなどの理由で、コンサルティングを求めることはありますか。

伊地知さん:
私たちが仕事をお受けする方法として、公募がベースになっています。開催企業によって目的やめざすゴールもバラバラで、「社会課題を解決したい」、「自社の事業をデジタルでアップデートしたい」、「内部の生産性向上のためのデジタル化を求めている」など、幅広いニーズがあります。

丸山:
スタートアップと組むと言っても目的が多様化しているのですね。

伊地知さん:
スタートアップとの協業によってめざすゴールが明確になっている場合よりも、実際に課題解決を行う中で明らかになった「気づき」に価値を見出していただく企業のほうが相性がいい傾向があります。

画像: 大企業とスタートアップ、それぞれの特性が十分に発揮される

大企業とスタートアップ、それぞれの特性が十分に発揮される

スタートアップとの出会いから、新たな気づきを得る

丸山:
何をするにしてもマッチングは重要ですが、船木さんは日立にとって、スタートアップがパートナーとしてどのような役割を担っていると考えていますか。

船木:
ひと昔前であれば、道路や鉄道などのインフラ整備や教育制度の確立など、社会課題はある程度決まっていて、それに対して政府が財政で対応する時代がありました。しかし現在は、ある地域では貧困、別の地域では食料の余剰など、社会課題が多様化、細分化しており、政府が一律で解決する方法が有効でない場合が増えてきています。また多様化、細分化により、実施主体である政府自体が課題を把握しきれないという問題もあります。

一方で課題を解決する手段も多様化しています。AIやIoTだけでなく、バイオエンジニアリングやマテリアルサイエンスもどんどん進化し、さまざまなアプローチを試せる時代になりました。しかしそれが逆に、適切な解決手段の選択を難しくしています。多様化した課題に対して、多様化した手段をマッチングして解くことが求められる時代であり、一社ですべてをやることは不可能です。

画像: 企業が解決したい課題を乗り越えさせてくれるマッチングを期待

企業が解決したい課題を乗り越えさせてくれるマッチングを期待

さまざまな課題に対応するためには、いろいろな人の力を借りなくてはなりません。スタートアップに協力を求めることは、自然な流れと言えます。日立が解決したい課題を乗り越えさせてくれるマッチングを期待しています。

――次回はスタートアップと大企業の相乗効果についてお聞きします。スタートアップと大企業の結びつきは、目標達成という結果だけではなく、「そこに至るプロセスにおいて、相互に有益な関係を築くことができるか」が、ひとつの柱になっているようです。伊地知さんとの対話から、よりよい関係づくりのコツを探っていきます。

画像1: [Vol.1]世界の課題に挑戦する「スタートアップ」│Creww 伊地知さんがいち早く気づいた、スタートアップが必要とされる理由

伊地知 天
Creww株式会社 代表取締役 CEO

高校、大学を米国で過ごす。カリフォルニア州立大学在学中に起業したことをきっかけに、これまで国内外で合計4社の企業を設立した実績を有す。現在は、スタートアップ・エコシステムの構築やオープンイノベーションに関わる多くの組織やプロジェクトに参画している。
【加盟組織・プロジェクト】
・ (社)新経済連盟 幹事
・ (社)情報社会デザイン協会 理事
・ J-Startup 推薦委員(経産省 x JETRO x NEDO)

画像2: [Vol.1]世界の課題に挑戦する「スタートアップ」│Creww 伊地知さんがいち早く気づいた、スタートアップが必要とされる理由

船木 謙一
日立製作所 コーポレートベンチャリング室 副室長(Deputy General Manager)

工場設計、生産システム、サプライチェーンマネジメントシステム、サービスデザインの研究を経て、協創を通じたオープンイノベーション戦略の策定実行に従事。これまでにコンピュータ機器向け生産管理システムや、半導体、機械保守部品、アパレル品向けSCMシステムなどを開発・適用。2019年より現職。

画像3: [Vol.1]世界の課題に挑戦する「スタートアップ」│Creww 伊地知さんがいち早く気づいた、スタートアップが必要とされる理由

丸山 幸伸
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。

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