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第一線でデザインリサーチの普及・啓発に取り組まれているソシオメディア株式会社代表取締役・HCD-Net(特定非営利法人人間中心設計推進機構)理事長 篠原稔和さんをモデレーターに、日々ユーザーリサーチやデザインと向き合っている日立製作所 研究開発グループの主任研究員安藤ハル、主任研究員新関亮太、チームリーダーの原有希によって行われたディスカッション。Vol.6では、デザインリサーチの面白さ、可能性へと話は広がります。

[Vol.1]全ては現場に埋め込まれている。
[Vol.2]HCD(人間中心デザイン)が当たり前の世界へ
[Vol.3]HCD(人間中心デザイン)の新しい領域
[Vol.4]デザインリサーチに注入された、人文社会科学の知
[Vol.5]デザインリサーチの現場報告
[Vol.6]デザインリサーチというフィールド
[Vol.7]デザインリサーチと向き合う、人文社会科学のニュージェネレーション
[Vol.8]KPIのない社会課題へのチャレンジ
[Vol.9]ゴールを共有する二人の異なるアプローチ

同じゴール、異なる専門性

篠原さん:
お二人の仕事の現在地についてうかがったところで、今度はチームリーダーの原さんに、お二人の仕事ぶりやこれからへの期待についてお聞きしたいです。

画像: モデレーターとして話を引き出す篠原稔和さん

モデレーターとして話を引き出す篠原稔和さん

原:
これまでのお話でもよくわかる通り、私たちは同じゴールを見ている仲間なのですが、芯となっている専門性が少しずつ違うのです。共通のゴールに対するアプローチが少しずつ違っていて、そこが面白いところだと思います。

安藤の場合は、認知を通してユーザインタフェースやモノづくりをしてきていて、社内だけでなく社外とも共有できるエクスパタイズ(専門知識)を身に付けています。インフラのユーザインタフェースをやっている人は、国内外問わず少ないので、このナレッジを世界の人たちとシェアできるといいな、と思います。

篠原さん:
よくわかります。先ほど出たアラートの話というのは、現場では大きな事件だったかもしれませんが、それは後々に起きるかもしれないアクシデントを未然に防いでいるということですからね。

原:
そうなんです、これって人類レベルの発見かもしれないんです。今は限られた人しか知らないことですが、ものすごく重要な発見なんです。

画像: チームのまとめ役、原有希

チームのまとめ役、原有希

リサーチを基盤にした大きなデザイン

原:
私はエスノグラフィにぐっとのめりこんでいくタイプなのですが、新関に関していうと、彼の場合、エスノグラフィ調査から発見したことをベースにさらにジャンプして、新しいビジネスをつくるとか、新しいサービスをつくるとか、ビジネスや人をつなぐことができる人です。普通エスノグラファがあまりやってきていないことを人起点でやっています。ある意味で、大変広義なデザインをしているのです。

そこがなかなかユニークで、こういう方向を指向される人は今後増えてくるはずです。そのフロンティアを走り抜けてもらいたいです、滑ったり転んだりはあるとは思いますが。

篠原さん:
なるほど。では、そんなリーダーである原さんの期待にどう応えていくのかをお聞きしたいと思います。新関さん、いかがでしょう。

新関:
今の延長という言い方はあまり良くありませんが、原から話があったとおりに守備範囲を段階的に広げるということは継続したいです。私たちのようなチームは、複数年にわたりある企業が抱える課題に深く入りこんでいくことが大事で、それはお客さまにも日立にとっても必要な事なんだと思います。

なので、今後はしっかりと次の仕事をつくりながら、こういうチームを維持・発展させるという両方をやっていく必要があります。守備範囲を広げながら、社内外に仲間を増やせるよう、私たちの存在感を示せるような仕事をしていきたいと思っています。

篠原さん:
存在感を示すというのは、皆さんがたずさわられるいろいろな現場で、関係者の方々が皆さんの振る舞いや仕事ぶりを見て、その価値を知ってもらえるようにしたいということですね。

新関:
はい。少なくとも日立グループ内にわれわれのことを信頼してくれる人をとにかくどんどん増やしていきたいですし、今回のこういう場も、そういうきっかけになればいいなと思います。

ここにしかない現場情報の活用

篠原さん:
それでは安藤さんにも、今後についてお聞きします。

安藤:
まず今後人口が減少し、社会を支える人が減っていく中で、取りこぼされてしまう人というのが必ず出てきます。私は、それを支えられるようなものをつくっていきたいという思いが強くあります。

それともうひとつ、私は重電の業務にたずさわって7年ほどになります。その間、現場調査やさまざまなデータが蓄積されています。この部署には、ステークホルダーへのインタビュー調査やエスノグラフィ調査といった独自のデータが蓄積されていて、これは非常に重要で貴重な現場情報ですので、このデータベースをみんなの資産として活用できる体制がつくれればいいと思っています。

篠原さん:
リサーチを自分たちで実践したいという現場の人たちのツールづくりの話がありましたが、今のお話はこれまで得てきた知見とか、あるいは文脈を持ったいろいろな情報や課題を、もっといろいろな方々に活かしてもらえるようにしたいということですね。誰も取りこぼさないインターフェースを考えてきた安藤さんの研究と、何か通じるものを感じます。

安藤:
ちょっとおこがましいですけど。

二人の仕事観

篠原さん:
まだまだお話したいことはありますが、そろそろ時間のようです。最後にデザインリサーチに興味を持たれている方たちに、何かメッセージがあればお願いします。

新関:
私の場合、実家がお酒を出すお店だったことも影響していて、人と話すこと自体が楽しいということがベースにありました。それは、今の仕事のインタビューや調査に役立っています。私たちの仕事は、仕事を通していろいろな立場の方たちと話す機会があります。これが、この仕事の面白みであり、強みだと思います。

お客さまはもちろん、社内でも経営層や営業、SEなどさまざまな人たちと付き合う機会があって、特に調査という名目がなくても、打ち合わせの場で相手の課題や思いを自然と聞いたり話したりしています。こうした日常的なコミュニケーションから本質的なことを引き出し、コーディネイトしていく。ここにこの仕事の面白さはあると思います。

篠原さん:
ありがとうございます。安藤さんは、いかがですか。

安藤:
私は、対峙する相手の方に対して乗り移るというか……。この人は何をどう考えてこういうことをされているのか、その人の立場に立って考えてみる。憑依することはできませんが、自分の考えは取っ払って、その人になったら自分はどう考えるんだろうという気持ちで、相手と向き合うことを心がけるようにしています。

それは別に私たちの仕事に限らず、モノをつくるとかサービスを考えるときに、「自分のつくりたいものをつくる」という自分本位に陥らないためにも重要なことだと思っています。

篠原さん:
確かに「自分が自分が」というようになりがちですから、おっしゃるとおりだと思います。今回はこの領域の仕事に取り組むために、大切なマインドをそれぞれの経験から伝えていただきました。私も、これからのお二人に期待しています。ありがとうございました。

 安藤 新関
ありがとうございました。

――次回からは、また異なるバックグラウンドを持つ2人のエスノグラファによるデザインリサーチ対談がスタートします。

画像1: [Vol.6]デザインリサーチというフィールド |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

篠原 稔和
ソシオメディア株式会社 代表取締役
NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net) 理事長
国立大学法人 豊橋技術科学大学 客員教授

「Designs for Transformation」を掲げるデザインコンサルティング・ファームであるソシオメディア株式会社の代表取締役。同時に、NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)の理事長および総務省のデザインに関わる技術顧問を兼務している。企業や行政におけるデザイン思考やデザインマネジメントに関わるコンサルティング活動、教育活動、啓発活動に従事。また、2021年に豊橋技術科学大学の客員教授に就任し、産官学民の取組や教育活動の中でのHCDの実践に取り組んでいる。最新の監訳書籍である『詳説デザインマネジメント - 組織論とマーケティング論からの探究』(東京電機大学出版局、2020年3月20日)など、現在における「デザインマネジメント」の重要性を多角的に探求するための「デザインマネジメントシリーズ」を展開中。2022年には「HCDのマネジメント」に関わる自著を出版予定。

画像2: [Vol.6]デザインリサーチというフィールド |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

原 有希
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 リーダ主任研究員(Unit Manager)

1998年、日立製作所入社。デザイン研究所、デザイン本部を経て、東京社会イノベーション協創センタにて現職。ユーザーリサーチを通じたHuman Centered Designによる製品・ソリューション開発や、業務現場のエスノグラフィ調査を通じたCSCW(Computer Supported Cooperative Work)の研究に従事。人的観点でのソリューション創生や業務改革を行っている。

画像3: [Vol.6]デザインリサーチというフィールド |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

安藤 ハル
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 主任研究員(Chief Researcher)

日立製作所入社後、中央研究所、デザイン本部を経て現職。誰をも取りこぼさないデジタル社会の実現を目標として、認知科学的視点をベースに、デジタルデバイド解消に向けたユーザインタフェースやユニバーサルデザインの研究開発に従事。さらに昨今は、学習科学に基づいた人財育成のデジタライゼーションにも取り組んでいる。博士(情報理工学)。

画像4: [Vol.6]デザインリサーチというフィールド |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

新関 亮太
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 主任研究員(Chief Researcher)

2012年日立製作所入社後、デザイン本部を経て現職。認知心理学の知見や製品ユーザビリティ評価の実績をベースとし、システム開発や働き方改善を目的とした各種ユーザ調査及びデザインプロジェクト推進を担当。近年は、ビジョンデザインのためのユーザ調査設計など、専門領域の適用先拡張に向けたプロジェクト設計に注力。

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