ソシオメディア株式会社代表取締役・HCD-Net(特定非営利法人人間中心設計推進機構)理事長 篠原稔和さんをモデレーターに、日々デザインリサーチに取り組んでいる若手の研究員岩木穣、大堀文、そしてチームリーダーの原有希の3名と行われたディスカッション最終回[Vol.9]。二人の研究員が考える、デザインリサーチへのこれからのアプローチとは。

[Vol.1]全ては現場に埋め込まれている。
[Vol.2]HCD(人間中心デザイン)が当たり前の世界へ
[Vol.3]HCD(人間中心デザイン)の新しい領域
[Vol.4]デザインリサーチに注入された、人文社会科学の知
[Vol.5]デザインリサーチの現場報告
[Vol.6]デザインリサーチというフィールド
[Vol.7]デザインリサーチと向き合う、人文社会科学のニュージェネレーション
[Vol.8]KPIのない社会課題へのチャレンジ
[Vol.9]ゴールを共有する二人の異なるアプローチ

サイバー空間でのエスノグラフィ調査

篠原さん:
エスノグラフィの方法論で気がついたのですが、例えばSNSというサイバー空間の中で、エスノグラフィのアプローチで調査・分析して何かの事象の傾向を見つけ出すような研究というのはされていないのですか。

原:
デジタルやサイバーの世界で行われている人間の営みが、現実に影響を及ぼすようなことは確かにありますので、私たちも3~4年前から研究者の方に話を聞いたり、ウォッチはしてきています。

岩木:
以前SNSで書かれていることを調査データとして分析して、現実世界を反映するものとしてとらえようとしましたが、あまりうまくいきませんでした。やり方にもよるのでしょうが、SNSの中にある情報を、現実のエスノグラフィ調査のようなフラットなデータとしてとらえるのは、まだ難しいというのがそのときの結論でした。

大堀:
例えば文化人類学の領域でも、インターネット上のコミュニティやコミュニケーションに関する研究の蓄積があります。一例として、既に存在するコミュニティや研究のために新規に立ち上げたコミュニティにおけるユーザーの活動について一定期間観察やインタビューを行うものがあります。参照できるデータはたくさんあるので、自分たちとしても取り入れられるアプローチはあると思います。

ただ、それをどう使うかという目的が明確にないと、特に私たちのように最終的にサービスなり、モノなりに落とさなければならないというときには、どれくらい費用対効果があって、どれくらい要件の抽出に有効なのかは、まだ検討が必要だと思います。

篠原さん:
なるほど。アプローチとしての知見はあるけれど、仕事に活かすとか、サービス化するにはまだいろいろトライすべきことがあるということですね。

原:
はい。そういうことです。

異なる二人の持ち味

篠原さん:
チームリーダーの原さんは、お二人に対してどのような期待をお持ちですか。

画像: 若い力をサポートする、チームリーダーの原有希

若い力をサポートする、チームリーダーの原有希

原:
いわゆるエスノグラフィ調査の技術やノウハウというのは、そう簡単にたまるものではないので、それをたっぷりためている二人には社内だけでなく、社外にもいろいろ発信してリードしていってもらいたいです。

岩木は実践から方法論を考えたり、AIなどに問われる倫理の中でどういう新しいデザインができるのか。そういった新しい領域にチャレンジしていくところがすごくユニークなところです。エスノグラフィを起点として、すごくよく現場のコンテクストがわかっている、いろいろな仕組みをわかっているからこそチャレンジできる領域があると思うので、それが楽しみです。

大堀の場合、介護施設でのエスノグラフィ調査の話が象徴するように対象者の中にディープダイブして、人とテクノロジーの境界線をどこに引けばいいのかといった本質的な問いを見つけてくる。このデジタル社会で、そこに気づけるのは彼女の良さなので、彼女の発見を大事に活かせたらいいですね。

篠原さん:
ありがとうございます。原さんも大きな期待をされているお二人に、これから日立で、あるいは社会において何を実現していきたいかをお聞きしていきたいと思います。では、今度は大堀さんから。

デザインリサーチへの二人のアプローチ

大堀:
私の大きいテーマとしては、いま原から話のあった「人とデジタルの境界線」というものがあります。それは一律に定められるものではなくて、常に移り変わっていくもので、それに合わせてデジタルの技術というものも進化していきます。その中で、人や組織をどうとらえたら先を見据えたソリューションを提供できるのか。そしてリサーチの手法を活用できるのかということを考えていきたいと思っています。

篠原さん:
いや、素晴らしいです。ありがとうございます。それでは岩木さん、いかがでしょう。

岩木:
先ほどのB to B to Cの生活者を視野に入れたエスノグラフィ調査の方法論の確立、このチャレンジは続けていきたいです。やはり社会インフラを提供していくときに、今ある技術はこうだからインフラはこうなるというロジックはもう通用しません。生活者がどういった価値観を持っていて、それをどうとらえるか。そしてみんながハッピーになれるような方法論を見つけるというのは確かに難問なのですが、非常にやりがいがあると感じています。

画像: 日立がデザイン本部として青山オフィス「FEEL」を構えていた時代からお付き合いいただいている篠原稔和さん

日立がデザイン本部として青山オフィス「FEEL」を構えていた時代からお付き合いいただいている篠原稔和さん

篠原さん:
ありがとうございます。まだまだお聞きしたいことはありますが、時間が来たようです。今回はデザインリサーチを、B to Bだけでなく社会課題に向けても活用しようとしている若手のお話でしたが、最近私は仕事で若い人たちと会うと大きな変化を感じるのです。それは何かというと、自分の能力やスキルを目の前の仕事だけに活かそうとは考えていないんです。それをもっと日常的なことに活かそうとか、あるいは違うところにも活かそう、そういう発想をされる人たちが多いということです。今日のインタビューでもそれを感じました。

私はHCD-Netの理事長をつとめて4年になりますが、創立時の機構長であり二代目の理事長が日立ご出身の黒須先生で、ソシオメディアを創業したときからも日立とはずっとご縁があって、今日まできました。今回はそんな日立のデザインリサーチと取り組まれている方たちの、本当に現場で体験しなければわからないお話が聞けて、大いに刺激を受けました。原さんの下で、皆さんがこれからどんなお仕事をされていくのか、私も楽しみにしています。

今日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございました。

 岩木 大堀:
ありがとうございました。

画像1: [Vol.9]ゴールを共有する二人の異なるアプローチ |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

篠原 稔和
ソシオメディア株式会社 代表取締役
NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net) 理事長
国立大学法人 豊橋技術科学大学 客員教授

「Designs for Transformation」を掲げるデザインコンサルティング・ファームであるソシオメディア株式会社の代表取締役。同時に、NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)の理事長および総務省のデザインに関わる技術顧問を兼務している。企業や行政におけるデザイン思考やデザインマネジメントに関わるコンサルティング活動、教育活動、啓発活動に従事。また、2021年に豊橋技術科学大学の客員教授に就任し、産官学民の取組や教育活動の中でのHCDの実践に取り組んでいる。最新の監訳書籍である『詳説デザインマネジメント - 組織論とマーケティング論からの探究』(東京電機大学出版局、2020年3月20日)など、現在における「デザインマネジメント」の重要性を多角的に探求するための「デザインマネジメントシリーズ」を展開中。2022年には「HCDのマネジメント」に関わる自著を出版予定。

画像2: [Vol.9]ゴールを共有する二人の異なるアプローチ |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

原 有希
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 リーダ主任研究員(Unit Manager)

1998年、日立製作所入社。デザイン研究所、デザイン本部を経て、東京社会イノベーション協創センタにて現職。ユーザーリサーチを通じたHuman Centered Designによる製品・ソリューション開発や、業務現場のエスノグラフィ調査を通じたCSCW(Computer Supported Cooperative Work)の研究に従事。人的観点でのソリューション創生や業務改革を行っている。

画像3: [Vol.9]ゴールを共有する二人の異なるアプローチ |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

岩木 穣
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 研究員( Senior Researcher)

2013年に日立製作所入社後、デザイン本部を経て現職。業務現場のエスノグラフィ調査などのユーザーリサーチを通じた人的観点でのソリューション創生・業務改革に取り組むとともに、そうした手法の組織的展開に向けた方法論研究に従事。近年は、デジタルソリューションが社会に広く長く受け入れられていくためにあるべき姿を探る研究にも取り組んでいる。

画像4: [Vol.9]ゴールを共有する二人の異なるアプローチ |ソシオメディア代表 篠原稔和さんが深掘りする、二人のリサーチャーの現在地

大堀 文
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 兼 基礎研究センタ 日立京大ラボ 研究員(Researcher)

日立製作所入社後、デザイン本部を経て現職。文化人類学のバックグラウンドを活かし、業務現場のエスノグラフィ調査を主とするユーザリサーチを通じた製品・ソリューション開発や、研究・事業のビジョン策定支援に従事。近年は、社会課題の解決をゴールとする生活者起点の協創手法の研究に取り組む。

関連リンク

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