日常の生活や出来事から得られる、いま、この時代でしか得られない感覚や発想。それら「社会を切り取る視点」を、研究開発グループのメンバーのインタビューから見つけるコンテンツ、Nowism(ナウイズム)。
今回のメンバーは、2019年に入社後、ユーザーリサーチを担当している物井愛子さん。リモートワークが始まってからは、「コロナ禍の状況に対してより良い方策を考えることこそが研究者としての使命」と捉え、自主研究でさまざまな活動を行ってピンチをパワーに変えてきたそうです。(2020年秋収録)
画像1: SFと落語に刺激された探求心で、コロナ禍をひもとく │ Nowism 社会を切り取る視点の蓄積

物井 愛子
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
サービス&ビジョンデザイン部 企画員(Associate Researcher)

2019年入社。サービス&ビジョンデザイン部にエスノグラファーとして所属し、生活者に対するエスノグラフィ調査を用いた社会課題の抽出と、その課題を解決するソリューション創生の手法研究、および企業の業務現場でのエスノグラフィ調査を行っている。専門は文化人類学を応用したエスノグラフィ調査とデザインリサーチ。

――コロナ禍という厳しい状況でどう頑張っていくか考えることは、研究者冥利に尽きると語る物井さん。逆境をパワーにして進んでいきたいという彼女の考えの根底にある好奇心とは?

物井:
大学ではデザインリサーチを専攻していたので、未来洞察にすごく馴染みがあって。これまでも、予測不可能で、コントロールしにくい非線形的な未来を現在の価値観を基に洞察していく活動をしてきました。でも、まさに今、「予測できなかった状況」が実際に訪れてしまっているわけじゃないですか。そこで未来を考える人たちがこの状況をどう説明するべきなのかを追うことにとても興味が沸いてきていて、もともと好きだったサイバーパンクSFの小説をたくさん読んでいます。あと、雑誌でも、SFプロトタイピングの特集記事を読んで……未来を予測するために少し突飛なSFの力を借りるという手法は、問いを生み出すためのデザインである、スペキュラティブデザインにも通じると思います。今こそ、未来を夢想するだけじゃなく、そこから導き出した「問い」をどう社会に投げかけ、社会実装していくかについて考えるべきなんじゃないかと思って。自身もそのような一員として社会に参画できるように、未来について責任を持って考えている人たちの活動を追っているところです。

画像: 一番好きな落語家さんが主任(トリ)と知り、10日間の興行のうち3日間通ったという新宿末広亭2021年7月下席夜公演。

一番好きな落語家さんが主任(トリ)と知り、10日間の興行のうち3日間通ったという新宿末広亭2021年7月下席夜公演。

――物井さんの趣味は落語。最近は実際の寄席に加え、「リモート寄席」も楽しんでいるそうです。寄席で発揮される落語本来の隠れた技術や本質を伺う中で見えてきたサービスデザインの話とは?

物井:
落語って、寄席の中の雰囲気をもとに、その日話すネタを噺家さんがその場で決めるんですよ。始まったあとも、笑いの反応があんまり返ってこない「空気が重い」状況だったりすると、その場で考えて動きを大げさにしてみたり、オチ自体を変えたり。お客さんの表情や息遣い、笑い声の大きさから、ここに玄人さんがいる、ここに初めてきた人がいるーーと、席配置まで把握し、その時その場の状況を読み取って適切な話し方や噺に変えたりもする、実はすごくインタラクション性が求められるものなんです。だから「リモート寄席」となると、噺家さん側からするとやっぱりやりづらいのかなと。最近は30人が会場で、200人がオンラインで行う「ハイブリット寄席」という運用方法も試しているのですが、それでも難しい部分は多いと思います。
でも、こういうある種エクストリームな事例から、この状況を打破する研究を始めたら、たとえばオンライン接客とか、日常のサービスに転用できる可能性が生まれるかもしれないですよね。

サービスデザインの事例で寿司屋ではあえて冷たく接することがサービスになったりするという話があって。ただホスピタリティが高いものがサービスの最高潮かというと、そうではないんですよね。おもてなしってユーザー体験のことを指しているので、感情が揺れ動く体験として「落とされる」ことも含むのであれば、ツンデレ対応みたいなものもサービスに含まれると。落語でも、わざとあんまり演技をしなかったり、楽しい噺なのに怪談のように話すのが得意な噺家さんもいらっしゃったりと、ただ笑わせるだけが落語ではないんです。噺家さんの語り一本から、想像力を働かせて物語の中に入っていくことでさまざまな感情を体験できるのが落語の良いところですね。

あと、みなさんに訊きたいことがあって。職場にいると、目に入るものから興味を持ったり、近くに座っている人との会話から情報が入ってきたりしますけど、リモートワークではそういう偶然性がないと感じているんです。オンラインでどうやって偶発的な情報収集をされているか、ぜひ教えていただきたいと思います。

編集後記

事前に話題を書き留めて頂いたメモは、2ページにもおよぶ大作でした。さらに、話し始めたら好奇心が溢れ出す物井さん。最後の落語ネタは最高ですね。未来洞察やSF小説、スペキュラティブデザインなどの関心に引き寄せて、今この状況を前向きにとらえる姿勢も素晴らしいと思いました。対面でお会いする機会がある方は、ぜひ雑談を持ちかけてみてください。

コメントピックアップ

画像2: SFと落語に刺激された探求心で、コロナ禍をひもとく │ Nowism 社会を切り取る視点の蓄積

このNowism自体が私にとってはかなり偶発性の高いメディアだなーって感じています。そもそも知り合いじゃなかった人の裏話が聞けるし、その人のおススメ情報も聞けるという意味では、協創棟をブラブラするのとは違った面白さがあると思っています。落語とお寿司をケーススタディーにしたインタラクション研究とか、めちゃくちゃ面白いじゃないすかっ!

画像3: SFと落語に刺激された探求心で、コロナ禍をひもとく │ Nowism 社会を切り取る視点の蓄積

私たちが2020年に作った“持続可能な社会のきざし”の一つ、Ultimate Nomad Lifeでは、企業はもはや従業員に秘密保持を課すことで競争優位を保つことなんてできなくて、セレンディピティを高めるために従業員に何を「認める」のかが戦略になってくるよねという話をしています。オンライン化が進んだ新しい働き方を身に着けたとき、従業員は、能力を高めるというよりは可能性を広げることに時間を費やすようになっているのかもしれません。また、一人一人が他者に対して存在を示すことで、初めて組織やチームがまともに機能するようになっているのかもしれませんね。

画像4: SFと落語に刺激された探求心で、コロナ禍をひもとく │ Nowism 社会を切り取る視点の蓄積

感染者数が2万人を超えるロンドン(2020年秋取材当時)からお便りです。ロックダウンによりオフィスに行かない生活が半年を過ぎ、ふらっと立ち寄り出会う…なんていうのも期待できないのでニュースキュレーションメディアを使い始めてみました。アメリカのメディアですが、中国からアフリカまで世界各国から、医療やスタートアップに政治など多様なジャンルの情報を毎日配信してくれます。あと、自分が普段能動的に情報を取りにいかないであろう人や組織を意識的にSNSでフォローしてみましたが、意見が異なる者同士の批判的なやりとりをよく目にするようになり、ちょっと疲れてしまいました(笑)。

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日常の生活や出来事をとおして、いま、この時代でしか得られない感覚や発想に迫る、研究開発グループのメンバーインタビュー

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