Hitachi
お問い合わせ
2023年9月に環境省「自然共生サイト」の正式認定を取得した「協創の森」(東京都国分寺市)で実施された対談のvol.2では、東京大学大学院 工学系研究科教授の横張真さんが主導した「都市農業遺産に関する 5 カ国共同国際ワークショップ」でのお話を交えながら、「グリーンインフラ」の定義や解釈や、どのような可能性を秘めているのかなど、引き続き研究開発グループ長の西澤が横張さんにお話を伺います。

[Vol.1]協創の森に秘められた、自然共生社会に必要なこと
[Vol.2]グレーなマテリアルで作られるインフラに、グリーンな発想を展開できる?
[Vol.3] 生物多様性の確保をするカギは、最新技術をどう絡めていくかにある

生態系は設計図を持たないからこそ、環境要件の変化に素早く対応できる

西澤:
2023年3月には、横張先生が主催する東京大学緑農住まちづくりプロジェクトによる「都市農業遺産に関する 5 カ国共同国際ワークショップ」をこの協創の森で実施いただき、世界に存在する都市農業の伝統的なシステムや、グリーンインフラにまつわる 国際的な対話をさせていただきました。

横張さん:
はい、私はドイツ、ブラジル、キューバ、インドネシアからの海外の研究者と一緒に協創の森がある国分寺の街を歩き、彼らが抱いた印象をベースにそれぞれの自国の実情なども交えながら都市農業について意見交換をしましたが、彼らが口々に言っていたのは、国分寺市における取り組みが、協創の森の施設も含めて素晴らしいということでした。

ソ連崩壊後のキューバは、ソ連からの支援が途絶えたことで肥料が届かなくなり、食糧の生産量が激減してしまいました。そこでキューバは都市農業に取り組み、都市の中のあらゆる空き地を使い、自分の食べるものを自分で作るという方向に舵を切りました。都市で暮らしながら自分で作物を作るという都市農業が根付いている国の代表的存在になっています。

画像: 「都市農業・緑地国際ワークショップ」では、参加各国の研究者が自国の実情なども交えながら都市農業について意見を交換したと語る横張さん

「都市農業・緑地国際ワークショップ」では、参加各国の研究者が自国の実情なども交えながら都市農業について意見を交換したと語る横張さん

横張さん:
私たちはマテリアルとして緑や水などの自然素材を使ったインフラのことをグリーンインフラだと理解するケースが多いと思います。EUによるグリーンインフラの定義は、まさにその典型と言っていいと思います。しかし私は、グリーンインフラにはもう一つの解釈があると考えています。それは、コンクリートや鉄、ガラスなど、一般的にはグレーなマテリアルとされるもので作られるインフラにグリーンな発想を展開できれば、それもグリーンインフラだという考えです。

グレーなインフラにはいわゆる設計図があり、それに従って建設され、竣工し、その時が性能としてはピークになります。そこから先は次第に性能が劣化してしまうので、メンテナンスによって初期性能をできる限り長く保たせることになります。しかしある程度まで性能が下がってしまうと、取り壊してまた設計して建設して、という繰り返しになります。

画像: コンクリートや鉄などのグレーなマテリアルで作る場合のサイクルと、グリーンなマテリアルで行う場合の比較 (出典:横張先生のスライドより)

コンクリートや鉄などのグレーなマテリアルで作る場合のサイクルと、グリーンなマテリアルで行う場合の比較

(出典:横張先生のスライドより)

横張さん:
それに対して生態系のようなグリーンには、言うまでもなく設計図がありません。設計図がない以上竣工という概念もなく、あるのはその時々のさまざまな環境要件のもとで最適バランスを維持しつつ、ある状態をいかに維持ないしは向上することができるかが問われます。そのためには、その時々の状況に応じて素早く(アジャイルに)あり方を変えていくことが必要となります。

生態系の中では本来、似たような役割を持った種が必ず複数います。そのため、たまたま今はこの種が幅をきかせているけれど、少し環境条件が変わると今度はこっちの種、といった具合に対応できるのも生態系の特徴のひとつです。そうすることで、環境要件が変わっても一定の状況が自律的に維持できます。このように、重複して存在すること(リダンダンシー)を基礎に、非予定調和的・偶発的な状況に対して、素早く(アジャイルに)対応することで持続性をもたせるという発想にもとづくのが、グリーンなインフラであると考えられないでしょうか。

画像: 横張さんはグリーンインフラに必要なキーワードとして、非予定調和性・偶発性やアジリティ(俊敏性)を挙げた

横張さんはグリーンインフラに必要なキーワードとして、非予定調和性・偶発性やアジリティ(俊敏性)を挙げた

不安定な時代だからこそ、グリーンな考え方が適している

西澤:
計画を作ってその通りにやるのがグレーな発想に基づくインフラということでしょうか。

横張さん:
グリーンに全く計画がないという意味ではもちろんありませんが、計画が金科玉条で、それに従って建設がなされ、竣工時が性能の一番のピークで、あとはメンテナンスで、ということだけではなく、その都度状況に応じて時々の最適バランスを考えるとか、そのための備えとしてあえて多様な要素を重複(リダンダント)して組み込んでおくとか、そういう発想のことをグリーンな発想と捉えています。

そういう発想に基づいて考えるインフラであれば、マテリアルがコンクリートだろうが鉄だろうが、それはあまり問わないという発想があってもいいんじゃないかなと思います。特にこれだけ時代全体として不確実性が高くなっている中にあっては、予定調和的な形で進めようとしても、突発的に災害や戦争が起きてしまうことになったら、そうした状況に即応すべく、インフラもアジャイルに変えていかなければなりません。であるならむしろ、不安定な時代にあってはグリーンな考え方の方がより適していると考えます。

画像: グレーなマテリアルであってもグリーンな思想は可能だと話す横張さん

グレーなマテリアルであってもグリーンな思想は可能だと話す横張さん

西澤:
私たち日立はこれまで、計画し、その計画通りに作り、維持するというやり方を、ビジネスにおいて続けてきました。我々のような企業は他にも少なくないのではと思います。今後どのようにグリーンな発想を取り入れていくべきでしょうか?

横張さん:
すべてを捨ててグリーンにという意味ではなく、たとえば基幹インフラとしての上下水道や主要な幹線道路などは、やっぱり相変わらずグレーの思想でいくべきだと思うんです。一方で、グリーンの発想にもとづくインフラも想定し、それらをうまく組み合わせていく社会が必要なのではないかと思います。

西澤:
新型コロナウィルスによるパンデミックを経験して、計画通りに作られた社会インフラが想定外の急激な社会変化に対応するためには、まだまだ改善できる余地があるのではないかと感じています。この教訓を生かし、計画を状況に応じて臨機応変に変えていくことをこれから実践していくなかで、我々もグリーンな発想を自らの中に育んでいくこと、グリーンな発想によるインフラとの組み合わせを模索していくことができるのではと感じました。

「日立製作所の技術を生かし、グリーンな社会をリードしてほしい」

横張さん:
これは日立製作所に期待したいところですが、グリーンの発想にもとづくインフラは、当然それに対応した技術を必要とすると思うんです。たとえば、その時々の状況に応じてアジャイルに変えていくためには、そのためのセンサーも必要ですし、集められた情報が的確に処理されること、そしてそれがすぐにフィードバックされることが、裏付ける技術として必要だと思うんです。それらは御社が一番得意とするところだと思うので、ぜひこういう発想をサポートするような形で新しいシステムを構築してほしいと思っています。

画像: グリーンの発想をサポートする新しいシステムを構築してほしいと日立に期待を寄せる横張さん

グリーンの発想をサポートする新しいシステムを構築してほしいと日立に期待を寄せる横張さん

西澤:
日立はこれまで、それぞれの個が自律的に動作しながら、全体としては協調して動作し管理できるようなコンセプトで、社会を支えるインフラシステムを構築してきております。先生がおっしゃった多くのセンサーから集めた情報のひもづけ、実世界へのリアルタイムでのフィードバックなど、まだまだ技術的にも貢献できることがたくさんあると思います。

横張さん:
しかも、それが広く社会に浸透していくためには、たとえば、コスト的に安いとか、子供やお年寄りでも簡単にできるといったことがすごく大事になってくるんじゃないかなと思います。そういうことができていくと本当に社会が変わっていく。それは実はそんなにハードルが高い話ではないんじゃないかと思います。

西澤:
コンセプトや考え方自体は本当にその通りだと思いますし、その概念自体をグリーンと呼ぶのがとても新鮮でした。

横張さん:
マテリアルとしてのグリーンばかりが強調されて、そこでグリーンという話が終始してしまったら、結局はサブ的な存在で終わってしまいます。SDGsを考えても、本当にグリーンが社会を担う重要なキーワードであるならば、逆にグリーンという概念を今日お話したような形で拡大していく必要があると思うんです。そうしないと、シャングルみたいなビルを建てればグリーンな投資なんだ、みたいな話で終わってしまう。それはどうなのかな、と思います。

ぜひ日立製作所の技術を生かしながら考えていただけますと、まさにグリーンな社会をリードする方向へとつながっていくのではないかと思います。

――次回は、生物多様性の保全に向け、グリーンインフラやグリーントランスフォーメーションに最新技術をどう絡めていくことができるか、その可能性について語り合います。

画像1: [Vol.2] グレーなマテリアルで作られるインフラに、グリーンな発想を展開できる?│グリーンインフラから未来を描く

横張 真
東京大学大学院 工学系研究科 教授

緑地環境計画学専門。農林水産省農協環境技術研究所、筑波大学大学院システム情報工学研究科等を経て、2013年より現職。日本都市計画学会長、日本造園学会会長、国土交通省社会資本整備審議会臨時委員、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会委員、東京都農政審議会委員長等を務める。

画像2: [Vol.2] グレーなマテリアルで作られるインフラに、グリーンな発想を展開できる?│グリーンインフラから未来を描く

西澤 格
日立製作所 執行役常務CTO兼研究開発グループ長

1996年東京大学大学院 工学系研究科 電気工学専攻 博士課程修了後、日立製作所 中央研究所 入社。並列データベース管理システムのクエリ最適化、異種データソースアクセス機構の研究開発に従事した後、ファイルシステム、データベース管理システム、ストリームデータ管理システムなどのミドルウェアシステムの研究開発取り纏め。2013年にITプラットフォーム事業部門に異動し、グローバル市場向けリアルタイムデータ管理ソリューションの開発に従事。2015年に研究開発部門に戻り、CME (Communication, Media and Entertainment)および金融バーティカルの顧客協創プロジェクトを牽引。2017年よりテクノロジーイノベーション統括本部デジタルテクノロジーイノベーションセンタ長、2020年よりテクノロジーイノベーション統括本部副統括本部長、2022年よりデジタルサービス研究統括本部長を経て、2023年より現職。

[Vol.1]協創の森に秘められた、自然共生社会に必要なこと
[Vol.2]グレーなマテリアルで作られるインフラに、グリーンな発想を展開できる?
[Vol.3] 生物多様性の確保をするカギは、最新技術をどう絡めていくかにある

This article is a sponsored article by
''.

No Notification