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人とロボットが共生する社会をめざす「コモングラウンド」。実空間上にある人・モノの位置や動きを3D空間情報上に統合し、趣味趣向などのビックデータを活用したりすることで、人とロボットのより柔軟なコミュニケーションを実現します。それには、運用には生活者からのパーソナルデータの提供が必要不可欠。データの管理方法から取得する範囲まで、さまざまな議論が求められています。そこで、日立製作所では多摩美術大学 情報デザイン学科情報デザインコースの講義として、「ロボットや周囲の環境とのコミュニケーションの上でパーソナルデータを開示したいか、したくないか」というテーマで議論を実施。多摩美術大学 情報デザイン学科 専任講師の高見真平さんと非常勤講師のsabakichiさん、日立製作所 研究開発グループの坂東淳子、藤原貴之、兵頭章彦が語り合います。

[Vol.1]実空間と情報空間が交差した未来の都市の景色を考える
[Vol.2]コモンズとしての情報基盤の設計に向け、パーソナルデータを提供するべき?
[Vol.3]「パーソナライゼーション」は人間の自律性を補強してくれるのか?

生活を豊かにするためにパーソナルデータを提供するべき?

日立製作所が実用化に向けて研究に取り組む「コモングラウンド」は、実空間と情報空間をつなぎ、私たちの豊かな生活を実現するための基盤です。日立製作所では人やモノの動きから情報伝達に必要な要素(意味)を取り出して3D空間情報上に統合し、ロボットの制御に活用する実験を行っています。

画像: 授業前半ではデモ体験を実施。学生たちはコモングラウンドによって拡張するロボット制御の可能性を学んだ。

授業前半ではデモ体験を実施。学生たちはコモングラウンドによって拡張するロボット制御の可能性を学んだ。

デジタルツインやメタバースを活用し、人とロボットの共通認識をつくることをめざした「コモングラウンド」。その実現には人々は行動データや身体情報といったパーソナルデータを提供する必要があります。パーソナルデータの管理方法として、暗号化を用いて個人を特定できないようにデータを加工する方法も確立されていますが、データの不正利用などの懸念点も存在するのも実情です。豊かな生活の実現のために、人間はパーソナルデータをどれだけ提供するべきなのか、また、その際にデータはどのように管理されるべきかを議論していきます。

──よりパーソナライズドされた、豊かな生活を実現するためには、パーソナルデータの取得が求められていくと考えられます。ユーザー側の視点に立ったときに、プラットフォーム/サービスにデータを積極的に提供したいと考えますか?

兵頭:
私はデータを積極的に提供したいと思います。コモングラウンドのようなビッグデータを用いて運用されるプラットフォームは、提供されるデータが多いほど発達し、還元できる価値も大きくなるはずです。プラットフォーム/サービスを育てたいという意識があり、普段からデータの提供には協力するように意識しています。とはいえ、個人の内面に紐づくようなデータを取得されることには誰もが少し抵抗感を感じるのではないでしょうか。

──なるほど。コモングラウンドの実現を見据えて進めている日立製作所の研究では、たとえば、どのような種類のデータを取得しているのでしょうか?

兵頭:
現在はセンシングによる位置データが主ですが、将来的には個人の趣味趣向や感情の変化といったデータを取得して、ChatGPTのような生成AIを組み合わせることで、より高度なロボット制御を実現できればと構想中です。人々の内面に踏み込むようなデータを活用しようと思っているからこそ、安心安全なデータの管理や取得方法について、より議論を重ねる必要性があると感じています。

画像: 左から、日立製作所 研究開発グループよりデジタルサービスプラットフォーム イノベーションセンタ リーダ主任研究員 兵頭章彦と先端AIイノベーションセンタ リーダ主任研究員の藤原貴之

左から、日立製作所 研究開発グループよりデジタルサービスプラットフォーム イノベーションセンタ リーダ主任研究員 兵頭章彦と先端AIイノベーションセンタ リーダ主任研究員の藤原貴之

sabakichiさん:
そうですね。僕は個人を特定するようなデータを取得されると、どこか違和感を覚えてしまいます。これを防ぐためにApple Inc.(米国)ではデバイス内だけでパーソナルデータが完結し、外部通信経由では個人を特定できないような仕組みを採用しているんですよね。ただ、この違和感も主観的なものではあって、中国などをみると、買い物をする際に顔認証で一発で決済ができたりなど、一定の監視社会的な側面はあれど、個人があらゆるパーソナルデータを提供して社会インフラを豊かにする社会が既に成立しつつあります。どこまでが人々に受け入れられるかのグラデーションを探ることが、現在のフェーズではないでしょうか。

プラットフォームに求められる透明性と信頼性

──“最適な”データ管理を実現するためには、研究者やエンジニア、デザイナーなどのサービスの提供者としてどのような役割が求められると思いますか?

藤原
データ提供のメリットやデータ管理方法をユーザーに明示することがより重要になるのではないでしょうか。私はサービス側がレコメンドを超えて、自身の行動を先回りして予測してくることに違和感を覚えます。身近なところでは、Web広告に欲しいなと感じていた商品が次々と表示されていくことがあります。便利な反面、その人のパーソナリティーまで多分に予測しすぎると「犯罪する可能性のある個人をあらかじめ特定する」というような世界観になるかもしれません。こうした不安はデータの使用用途がブラックボックスになっているから生まれるのであって、プラットフォーマーとしては、ユーザーにパーソナルデータの管理方針について、十分な説明責任を果たすことは引き続き求められると思います。

坂東:
そう考えると、デザイナーがUI/UXを考えるときには、法律や規約、さらにはその根底にあるパーソナルデータ管理の思想などを含めて、総合的な体験をデザインすることが求められるようになりますよね。近年では「自己主権型アイデンティティ」といった個人がパーソナルデータを他人の介入なしにコントロールできる管理手法などの研究も進んでいます。専門外だからといってこうした潮流に無関心でいるのではなく、データ管理までを総合的なユーザーの体験デザインと捉えることが大切だと思います。

sabakichiさん:
そうですね。コモングラウンドのようなプラットフォームは一種の社会資本として、人々の生活を豊かにするべく検討されるべきもののように思います。だからこそさまざまな懸念はあれど、本来は人々が積極的にデータを提供し、プライバシーと公共性の上手なバランスのなかでプラットフォームを育てていく状態が理想なはずです。そんな未来を実現するためにも、データ管理における信頼性や透明性までをデザインしていくことがデザイナーに求められる新たな役割となるのではないでしょうか。

登壇者によるディスカッションの後には学生とともにグループワークを実施。この問いを深掘りしていきました。ディスカッションの中で学生からは次のような意見が挙がりました。

画像: 学生たちはパーソナルデータ提供の是非について、設計者とユーザーの双方の視点に立ちながらディスカッションを行った。

学生たちはパーソナルデータ提供の是非について、設計者とユーザーの双方の視点に立ちながらディスカッションを行った。

「ユーザー側に立ったときには、サービスの利用規約を読み飛ばしてしまったりとデータ管理方法に無意識的でした。しかし、改めて設計者側の立場で考えたときに、その影響力が大きいからこそ、ユーザーへと説明責任を果たす重要性を再認識しました」

「データ管理方法を考えるときには、未来に生きる人々の価値観を想像することも重要ではないかと思います。最近では、若年層を中心にスマートフォンのGPSで自分の今いる場所を共有できる位置情報共有アプリのようなサービスの利用者が増えていますが、個人的には位置情報をリアルタイムに提供し、共有することには違和感を感じます。世代によって価値観は変化していくからこそ、固定観念にとらわれない想像力が重要なはずです」

次回の記事では、人とロボットの豊かなコミュニケーションを実現するための3つ目の問いとして、「私たちの身の回りの空間や街が情報をまとうとき、人間は自律性や主体性を失うのか?それとも、テクノロジーは人間の自律性を補強してくれるのか?」を考えていきます。

関連リンク

画像1: [Vol.2]コモンズとしての情報基盤の設計に向け、パーソナルデータを提供するべき?|デジタルツイン/メタバースが拡張する、コミュニケーションの未来

高見 真平
多摩美術大学 情報デザイン学科 情報デザインコース 専任講師

2007年多摩美術大学情報デザイン学科卒。同年より、日立製作所のデザイナーとして、UI/UXデザイン、インフォグラフィックス、サービスデザイン、SFプロトタイピングの研究と実践に携わった後、2023年に日立製作所を退職し、多摩美術大学情報デザイン学科卒の専任講師に着任。iF DESIGN AWARD 2018 プロフェッショナルコンセプト部門 および GOOD DESIGN AWARD 2018 を受賞。

画像2: [Vol.2]コモンズとしての情報基盤の設計に向け、パーソナルデータを提供するべき?|デジタルツイン/メタバースが拡張する、コミュニケーションの未来

sabakichi / Yuki Kinoshita
Experience Designer, Design Researcher, Visual Artist
多摩美術大学 情報デザイン学科 非常勤講師

1986年生まれ。アトリエ系デザイン事務所にてArchitectural Designerとして従事したのち独立。2018年より、体験デザインスタジオ「Domain」主宰。空間デザイナーとして培った設計スキルと、グラフィックから空間に至るまでを統合的に設計・実装するトータルデザインの経験を活かした体験デザインを得意とする。
https://domaindesign.co/

画像3: [Vol.2]コモンズとしての情報基盤の設計に向け、パーソナルデータを提供するべき?|デジタルツイン/メタバースが拡張する、コミュニケーションの未来

坂東 淳子
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ ストラテジックデザイン部 主任デザイナー(Design Lead)

学生時代に建築・都市分野を学び、日立製作所に入社。モビリティ、エネルギー等の分野でのUI/UXデザインや、顧客協創方法論研究に従事。現在は、建築、デザイン、情報のハブ役として、モビリティやスマートシティ分野でのデジタルサービスの創出や社会実装のための活動を推進。

画像4: [Vol.2]コモンズとしての情報基盤の設計に向け、パーソナルデータを提供するべき?|デジタルツイン/メタバースが拡張する、コミュニケーションの未来

藤原 貴之
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 先端AIイノベーションセンタ 知能ビジョン研究部 リーダ主任研究員 (Ph.D, Microsoft MVP for Mixed Reality)

日立製作所に入社後、デジタルテレビのソフトウェアテスト自動化、物流の倉庫作業効率化、様々な機器の保守訓練や現地作業の効率化など、多方面の案件に取り組み、近年は社内での産業応用メタバースに関するプロジェクトに従事。2013年よりXRに関するコミュニティ活動を始め、2016年よりコミュニティ活動に対する国際表彰「Microsoft MVP」を7年連続受賞。

画像5: [Vol.2]コモンズとしての情報基盤の設計に向け、パーソナルデータを提供するべき?|デジタルツイン/メタバースが拡張する、コミュニケーションの未来

兵頭章彦
研究開発グループ デジタルプラットフォームイノベーションセンタ データマネジメント研究部 リーダ主任研究員

日立製作所に入社後、デジタルプロトタイピングの技術開発に従事し、自動車、建設機械、鉄道、エレベーターなど多分野のプロダクトやサービスへの技術展開を経験、現在は人とロボットの共生社会に向けて、都市や建物など物理空間をデジタル記述してサイバー空間とシームレスにつなぐ共通基盤(コモングラウンド)の研究に取り組む。

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