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スマートフォンなどの普及により、高齢者や障がい者を含めた多様な人たちがインターネットサービスを日常的に活用するようになりました。一方で、ユーザーの不利益を故意に生み出す「ダークパターン」の問題も表面化しています。加速度的に進化する機器・サービスのユーザビリティ、アクセシビリティを向上させるために、今、何が必要なのでしょうか。IT分野におけるユニバーサルデザインの研究者である清泉女学院大学の榊原直樹さんをお迎えし、お話を伺います。聞き手は、研究開発グループ東京社会イノベーション協創センタ主管デザイン長の丸山幸伸です。

[Vol.1]今こそ必要なユニバーサルデザインの視点とは
[Vol.2]ダークパターン研究から超高齢化社会のloTを想像する
[Vol.3]ダークパターン研究はユーザーとの信頼関係を築く礎

ユニバーサルデザインへの関心は薄れていない

丸山:
ユニバーサルデザイン研究に長く取り組んでいらっしゃる榊原さんですが、まず、現在に至るまでのご経歴を教えて下さい。

榊原さん:
大学卒業後、通信事業のグループ会社に入りました。そこでは精密加工の研究をしていたんですが、大学時代には精密機械工学科の中でも医療系の研究室にいて、リハビリの研究をしていたんです。その時の経験をもとに、IT分野でユニバーサルデザインの普及をめざす、株式会社ユーディットに転職しました。

ユーディットでは、高齢者や障がい者の人たちのニーズを調査するマーケティングに近いことをやったり、メーカーから「こういうものをつくったので、高齢者や障がい者の人に使いやすいかどうか確認してください」とのご依頼を受け、ユーザビリティやアクセシビリティのチェックをしていました。

要するに、実際のものづくりの前とあとの部分を担当していたということになりますね。

丸山:
ユニバーサルデザインが提唱されたのは1985年と聞いたことがありますが、主にユーザビリティやアクセシビリティを高める目的で広まっていったと記憶しています。今は、浸透を経てひと波すぎてしまった印象があるのですが、どう思われますか?

榊原さん:
それは、人々の関心が薄れたわけではなく、表現のしかたが変わったのではないかと私は考えています。

ユニバーサルデザインとバリアフリー、双方の視点をもつことが重要

丸山:
具体的には、どんな風に変わったのでしょうか。

榊原さん:
2021年の今でいうと、SDGsですね。僕がユニバーサルデザインに携わっていた時に言っていたのと同じことを、今はSDGsに関わる人が言っているのではないかと思います。

結局、「ユニバーサルデザイン」という言葉が、マーケティング用語のバズワードになっていったんは普及し、時間を経てバズワードとしての目新しさが薄れていっただけで、その目的や理念自体は、表現こそ違えど今もなお変わらず求められていると考えています。

丸山:
ユニバーサルデザインは、結局のところ企業姿勢そのものと深く関わっています。そういう意味では、SDGsとも相性がいいともいえそうですね。

榊原さん:
おっしゃる通りですね。結局、企業姿勢からしっかり取り組んでかないと、いいものはつくれません。

丸山:
ユニバーサルデザインは、バリアフリーの不合理な点を解消するものとして登場しました。それと同様で、最初の発想はやはりバリアフリーから始まることが多いのではないかと思います。

ですから、多様性のある社会を実現するためには、ユニバーサルデザインのような思想をみんなが持つ一方で、今ここにあるバリアを取り除くという視点も必要になると思うのです。

デジタル社会だからこそ「みんなが使える」を追求する

画像: デジタル社会だからこそ「みんなが使える」を追求する

丸山:
そう考えていくと、バリアフリー、ユニバーサルデザイン、アクセシビリティの研究は、決して一過性のものではないはずです。もっと深く専門的な内容が蓄積されていてもいいのではないかと思います。

榊原さん:
僕がこの分野に興味を持ち始めたきっかけは、大学生の時のボランティア活動だったんです。障がいがある人たちが使う道具を改造する、技術ボランティアをやっていました。ただ、さまざまな障がいにそれぞれ対応しようとすると、改造が追いつかないし、キリがないんですよね。だったら、最初からみんなが使えるようにしたらいいんじゃないか――というのが、ユニバーサルデザインの意識の芽生えでした。

丸山:
現場の声として、バリアフリーの発想では間に合わないということですね。今後デジタル社会が次々にアップデートされるなかで、情報の世界でも同じようなことが起きる気がします。

榊原さん:
そうなんですよね。ユーディットはWeb標準化にも関わっていて、僕は情報通信機器分野のアクセシビリティ規格であるJIS X8341シリーズにも関わっていました。

情報通信機器はそれぞれ規格の条件が決まっています。でも、その機器と違うところに新しい技術ができてしまうため、新しい技術にはアクセシビリティがまったく考慮されていないことがあるんです。

新しい標準をつくれば良さそうですが、いずれまた追いつかなくなるでしょう。そう考えると、教育が一番の近道なのかもしれません。

――次回は、超高齢社会を迎える日本において高齢者や障がい者がインターネットを日常的に活用する今、加速度的に進化する機器・サービスのユーザビリティ、アクセシビリティを考える上で、IoTが抱える課題について伺います。

画像1: [Vol.1]今こそ必要なユニバーサルデザインの視点とは│榊原さんと考える、お客さまを不利益へ誘導するダークパターン

榊原直樹
清泉女学院大学専任講師

NTTアドバンステクノロジ株式会社、株式会社ユーディットを経て、2016年より現職。ユーディット在職時より、IT分野におけるユニバーサルデザインをテーマに様々な調査・研究をおこなう。デジタルハリウッド大学客員教授、情報通信アクセス協議会電気通信アクセシビリティ標準化専門委員会WG主査。ISO/TC159国内対策委員会委員。またJIS等の標準化活動において、X8341シリーズなど高齢者・障害者配慮設計指針の策定委員などを務める。

画像2: [Vol.1]今こそ必要なユニバーサルデザインの視点とは│榊原さんと考える、お客さまを不利益へ誘導するダークパターン

丸山幸伸
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。

[Vol.1]今こそ必要なユニバーサルデザインの視点とは
[Vol.2]ダークパターン研究から超高齢化社会のloTを想像する
[Vol.3]ダークパターン研究はユーザーとの信頼関係を築く礎

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