超高齢社会を迎える日本。高齢者や障がい者がインターネットを日常的に活用する今、加速度的に進化する機器・サービスのユーザビリティ、アクセシビリティを考える上で、IoTが抱える課題とは? そして、デジタル化が進むにつれて注目され始めている「ダークパターン」とは?IT分野におけるユニバーサルデザインの研究者である清泉女学院大学の榊原直樹さんと、研究開発グループ東京社会イノベーション協創センタ主管デザイン長の丸山幸伸が語ります。

[Vol.1]今こそ必要なユニバーサルデザインの視点とは
[Vol.2]ダークパターン研究から超高齢化社会のloTを想像する
[Vol.3]ダークパターン研究はユーザーとの信頼関係を築く礎

情報セキュリティにつながるダークパターンの研究とは

丸山:
榊原さんと日立製作所は、ダークパターン(*1)の共同研究を行いました。改めて考えてみたいのですが、榊原さんは、ダークパターンとは何だと思いますか。

榊原さん:
ダークパターンの研究の根幹にあるのは、信用や信頼の問題だと思っています。日立さんから共同研究を打診いただいたとき、ダークパターン研究はセキュリティの一環になるのではないかと思いました。

というのも、高齢者や障がい者の人たちがインターネットを使う時、いちばんのハードルはセキュリティの問題なんです。セキュリティへの不安からデジタルの世界は怖いと思わせないようにするためにはどうすればいいかと考えるなかで、ダークパターン研究もひとつのファクターとなり得るはずだと考えました。

丸山:
私が榊原さんにこの話を打診した時は、新しい家電製品を企画していました。インターネットにつながる、いわゆるIoTの概念が出てくると、セキュリティの問題が生じてきます。そうすると、最も被害を被るのは、長時間家のなかにいる高齢の人たちではないかと思ったんです。

*1ダークパターン:ユーザーが自己にとって不利益になる選択を無意識にしてしまうようにつくられた、ユーザーインターフェースのデザインのこと

画像: 情報セキュリティにつながるダークパターンの研究とは

4つの規制が人間の行動を規定する

丸山:
今おっしゃったセキュリティの問題しかり、この問題を考えるには、単にデバイスの問題ではなくそのうしろにいる人間を含めた社会全体で起こっていることをとらえないとだめだと思っていました。そこで榊原さんにご相談したところ、情報セキュリティに関してそういった研究がなされていることを教えていただいたんですよね。

榊原さん:
はい。アメリカの法学者Lawrence Lessigの著した『Code Version 2.0』には、インターネットの世界において、人間の行動を規定する4つの「規制」があるという考え方が紹介されています。ひとつめは法律。次はお金(市場)。3つめは、こうしなければいけないという道徳観念。最後が、アーキテクチャーという、人が無意識に従ってしまう構造的な仕組みですね(*2)。たとえば、ネットショッピングのページデザインによって、人間の無自覚の行動を促すようなものを指します。

丸山:
その「規制」が、まさに僕らが取り組んでいるサービスデザインや行動変容を促すためのナレッジが適用される領域だと感じました。

ところで、ダークパターンはどのくらいあるんでしょうか。

榊原さん:
ダークパターンという言葉を定義したイギリスのUXデザイナーHarry Brignullの定義では12パターンですね(*3)。ウェブインターフェース上では、この12のパターンで包含できると思います。

*2 Codev2 - LESSIG
*3 Dark Patterns - Types of Dark Pattern

行動情報の活用が「おせっかい」になる恐れも

丸山:
情報セキュリティの問題についてもうひとつ考える必要があるのは、画面に依存しないloT機器の場合、ジェスチャーなど、さりげなく行ったユーザーの行動文脈を抜き取って、それを何かの操作指示に代用したり、承認行為だと見なしたりするようなアルゴリズムをつくってしまうという問題です。

そういえば、15年ほど前に行った未来の社会を検討するプロジェクトでは、この行動情報の活用がもたらす“良きこと”の方に焦点をあてて、考えていましたよね。

榊原さん:
そうですね。

丸山:
あのプロジェクトでは、みんなで協力して未来の生活シナリオを描きました。その中で「初めて行った温泉旅館で、自分の好む硬さや確度にセッティングされた寝具の提供を受けることができる」というシナリオが出ていました。

ところが、昨今は負の側面についても考察が求められるようになってきました。ここにはどういった違いがあると思われますか?

榊原さん:
それは「おせっかい」と「お世話」の違いだと思います。自分がやってほしいと思った時にちょうどよくやってくれると「お世話」になるけれど、何も心構えがない時にやられると、ちょっとうっとうしい「おせっかい」に感じますよね。

丸山:
なるほど。同じ内容でも、どういうタイミングでフィードバックが返されたら良いのかということですね。ヨーロッパでそのあたりの議論をする時には、自分が意図的に頼んでおいたものはOKで、自分が頼んでないことをやるのはダメだという基準があるそうです。

榊原さん:
明確ですね。結局のところ、自己決定の問題ですからね。

――次は、loT時代に表面化しているダークパターンにおいて、プラットフォーム側が故意に、また無意識のうちにもダークパターンに陥らないためには、今、何ができるのか伺います。

画像1: [Vol.2]ダークパターン研究から超高齢化社会のloTを想像する│榊原さんと考える、お客さまを不利益へ誘導するダークパターン

榊原直樹
清泉女学院大学専任講師

NTTアドバンステクノロジ株式会社、株式会社ユーディットを経て、2016年より現職。ユーディット在職時より、IT分野におけるユニバーサルデザインをテーマに様々な調査・研究をおこなう。デジタルハリウッド大学客員教授、情報通信アクセス協議会電気通信アクセシビリティ標準化専門委員会WG主査。ISO/TC159国内対策委員会委員。またJIS等の標準化活動において、X8341シリーズなど高齢者・障害者配慮設計指針の策定委員などを務める。

画像2: [Vol.2]ダークパターン研究から超高齢化社会のloTを想像する│榊原さんと考える、お客さまを不利益へ誘導するダークパターン

丸山幸伸
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。

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[Vol.3]ダークパターン研究はユーザーとの信頼関係を築く礎

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