loT時代に表面化しているダークパターン(ユーザーに不利益な選択を無意識にしてしまうインターフェースデザイン)。長期的に見ると信頼を落とし、サービスの価値を下げる行為に他なりません。プラットフォーム側が故意に、また無意識のうちにもダークパターンに陥らないためには、今、何ができるでしょうか。IT分野におけるユニバーサルデザインの研究者である清泉女学院大学の榊原直樹さんと、研究開発グループ東京社会イノベーション協創センタ主管デザイン長の丸山幸伸が語り合います。

[Vol.1]今こそ必要なユニバーサルデザインの視点とは
[Vol.2]ダークパターン研究から超高齢化社会のloTを想像する
[Vol.3]ダークパターン研究はユーザーとの信頼関係を築く礎

loT機器の「誤解」とユーザーの「面倒さ」をどう解くか

丸山:
ダークパターンの観点からIoTを見た時に、今、どんな課題があるでしょうか。

榊原さん:
ウェブだと文字入力による指示が基本ですが、IoT機器となるとさまざまなジェスチャーもあるし、音声もある。ジェスチャーだって人によって多少違いはあるでしょうから、誤解が起こる可能性があります。

また、ユーザーが契約書のような長い文章を読まないという問題もあります。メーカーとしては読んでもらいたいから、書面だけではなくウェブに載せて確認を促したりしていますが、おそらく見ませんよね。どうやって確認をとっていくのか、説明をしていくのか、かなり難しくなってくると思います。

丸山:
免責事項の確認の問題ですね。たとえば音声認識ができたばかりの頃によくあったのは、説明を全て日本語で完全にリフレーズするという手法でした。しかし、それが長すぎて、面倒だからユーザーがスキップしていってやらなくなるということがありました。

ここで、今我々が一緒に行っている研究の概要を、榊原さんからご説明いただきたいと思います。

ダークパターンの仕掛ける側、仕掛けられる側の心理を理解する

榊原さん:
今、日立製作所と共同で、ダークパターンのシナリオづくりを行っています。ダークパターンはこんなものがある、IoTの製品はこういうものがある、という現状を踏まえて、サービスを受ける時のユーザーの気持ちと、ダークパターンを仕掛けようとする側の気持ちの双方を考え、ユーザーシナリオをつくっています。最終的にはそれを分析して、ユーザーはどういうところで誘導されやすいのか、また、メーカー側が意図せずダークパターンに陥ってしまう可能性についてなど、さまざまな観点からポイントを洗い出したいと考えています。

丸山:
ある種の対戦ゲーム的に、それぞれダークパターンを仕掛ける側、仕掛けられる側の立場になってもらうということですよね。すごくイマジネーションが要求されますね。研究には清泉女学院大学の学生のみなさんにもご協力いただいていますが、学生のみなさんの反応はどうですか。

榊原さん:
もしかすると、あまりまだピンと来ていないかもしれません。

丸山:
学生のみなさんは、こちらが気づかないような新しい視点を提供してくれるのではないかと期待しています。この研究は空想の世界のようなもので、すごく先の研究課題を出すことになる上に、分析的には行えないので、ふだん自然科学をやっている方からすると、難しい部分もあるかもしれないと思います。私たちの研究成果が、工学系の人にも、デザインやマーケティングの人にもきちんと伝わるようにやっていきたいですね。

ダークパターンは一見さん重視のビジネスモデル

榊原さん:
私は、ダークパターン研究は信用や信頼につながると思っています。何らかの形でダークパターンが起こってしまえば、メーカーはユーザーからの信頼を失い、長期的に見れば損失を受けることになります。これは、ユーザーから見たらセキュリティの話かもしれないけど、プラットフォームを提供するメーカーからすれば、いかにユーザーとの信頼を築いていくかという話になるわけです。

丸山:
それは榊原さんがずっとおっしゃっていることですね。もう少し詳しく教えてください。

榊原さん:
例として門前町と城下町のビジネスモデルの違いを考えてみましょう。門前町に来るのは、お寺にお参りに来た一見の観光客ですから、多少高い値付けでも売れてしまいます。

丸山:
いわゆる観光地価格のようなものですね。

榊原さん:
はい。それに対して城下町には、お武家さんがいて、その人たちと長くつきあって商売をしていかなくてはなりません。信用してもらい、何度も繰り返し取引してもらう必要があるので、観光地のような値段設定では商売ができないのです。そう考えると、ダークパターンは門前町と同じく、一見さんをターゲットにしているということがわかります。

画像: いかにユーザーと信頼を築いていくか。

いかにユーザーと信頼を築いていくか。

長期的な信頼関係の価値をデザインに落とし込む

榊原さん:
たとえば、通販サイトのプラットフォーム上では、メーカーが商品を直接売る場合とは異なり、第三者が商品を販売することがあります。そこでは、ダークパターンを使っていることが多いんです。なぜなら、評判が悪くなればそのアカウントを消して、名前を変えてまた参加すればいいから。今の仕組みではそういうことができてしまうんです。

では、こうしたダークバターンを食い止めるにはどんな仕組みがあればいいのか。それを考えるのが、最終的には日立さんにとってのダークパターン研究になるんじゃないかなと思うのです。

丸山:
故意にダークバターンを仕掛ける人がどんな心持ちでやるのか、意図なくやってしまう人たちがどこから出てくるのかを捉えることが、私たちにとっての価値になるんですね。プラットフォーム側が逸脱してしまう出口に栓をするようなものですね。

榊原さん:
そうですね。あとは、第三者が市場に参加するような場所で、その人たちが「結局は長期的にユーザーからの信頼を得たほうが得だ」と思うためにはどうすればいいのか。そこまでデザインに落とし込めれば理想的だと思います。

取材後記

――近年、ECの一般化を背景に「家庭内IoT機器と連携した自動発注」という新しいライフサービスのビジネスモデルが広がりつつあります。ここでは、ユーザーの煩わしい作業を取り除き、IoT機器のデータを活用することで、ユーザー行動を先読みして入力操作を自動化する発想が求められますが、一方でデータのプライバシーを守ることや、ユーザーが意図せぬ操作に導かないようにする配慮も必要になってきます。

私たちはこの新しいユーザーエクスペリエンスの課題に取り組む手段を、ダークパターン研究から見出したいと思い、情報のユニバーサルデザインの専門家として共感をいただいた榊原さんと共同研究を始めることになりました。研究はまだ道半ばではありますが、ここで得た結果を開発に活用していくため、お力添えをいただきながら、邁進したいと思っています。

画像1: [Vol.3]ダークパターン研究はユーザーとの信頼関係を築く礎│榊原さんと考える、お客さまを不利益へ誘導するダークパターン

榊原直樹
清泉女学院大学専任講師

NTTアドバンステクノロジ株式会社、株式会社ユーディットを経て、2016年より現職。ユーディット在職時より、IT分野におけるユニバーサルデザインをテーマに様々な調査・研究をおこなう。デジタルハリウッド大学客員教授、情報通信アクセス協議会電気通信アクセシビリティ標準化専門委員会WG主査。ISO/TC159国内対策委員会委員。またJIS等の標準化活動において、X8341シリーズなど高齢者・障害者配慮設計指針の策定委員などを務める。

画像2: [Vol.3]ダークパターン研究はユーザーとの信頼関係を築く礎│榊原さんと考える、お客さまを不利益へ誘導するダークパターン

丸山幸伸
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。

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